ハリー・ポッター(夢)
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「あら、セブもこれから食事?」
「ああ」
廊下で声をかけてきたリリーに返事をして足を止めると、その視線が僕の隣に向けられた。
「よかった、友達ができたのね!私はリリー・エバンスよ。リリーって呼んでね!」
「私は木元 梅並。梅並がファーストネームだよ。よろしくねリリー」
「こちらこそ!」
「・・・」
握手をしている二人を見ていれば、視界に人影が入ってきた。
「やぁリリー!こんな所で奇遇だね!」
「・・・ええ、そうねジェームズ」
リリーが顔をしかめるのも気にせず近づいて来たのはいつぞやの眼鏡だった。
「これから昼食だろ?どうだい、僕たちと一緒に食べよう!」
そう言いながら眼鏡が梅並の手を払い落として肩を押す。
「ちょっと!なんてことするの!?」
それを非難するリリーだが、眼鏡は気にすることなく僕と梅並を睨んでくる。
「君たち、そこで何してるんだい?まさかスリザリンのくせにグリフィンドールであるリリーと仲良くできるなんて思ってないよね?」
眼鏡の言葉に、現実を思い出した。梅並や蘭樹たちと居たせいか寮というくくりを忘れていた。
「リリー、知り合い?」
梅並は押された肩をさすって顔をしかめている。相当痛かったのだろう。
「残念ながらね。同じグリフィンドールのジェームズ・ポッターよ。そしてその後ろにいるのがシリウス・ブラック」
忌々しそうな表情からは、リリーがポッターをどう思っているのかがよく分かった。
「そうなんだ。君が何に拘っているか知らないけど、そんなに寮って大切なの?」
その言葉に、誰もが口を閉じた。そして、ポッターとブラックが笑い出す。
「お前っ、まさか何も知らねぇでホグワーツに来たのかよ!」
「どっ、どこの田舎から来たんだいっ、君!」
笑っている二人を見ても梅並の表情は動かなかった。それどころか、
「リリー、昼食を誰と食べるか決めてる?」
「え?いいえ」
「そう、よかったら一緒に中庭で食べない?今日は天気が良いからピクニック気分もいいと思うんだ」
ニッコリ笑って言い切った。
「ちょっ、何言っ、」
「そうね、そうしようかしら」
「リリー!?」
「セブルスもそれでいい?」
「ああ」
「決まりだね。私はド田舎から来てホグワーツの事を何も知らないようだから、いろいろ教えて欲しいな」
満面の笑みのまま、僕とリリーの手を取って歩き出す。
「サンドウィッチなら食べやすいよね」
「良いと思うわ。パイとかもあったら持って行きましょう」
あれなら手で食べられるものと話している二人から、チラリと後ろを見る。
そこには呆然と口を開けて立っている二人がいて、笑えた。
スリザリンのテーブルへ行くとマルフォイ先輩が座っていて、僕たちを見て微笑みを向けてくる。
「授業は無事に終わったんだね。そちらは?」
「リリー・エバンスです。さっき友達になりました」
「そうか、よろしくミス・エバンス。私はルシウス・マルフォイだ」
「その、よろしくお願いします」
見るからに貴族だと分かるマルフォイ先輩に気負わされながらも握手をするリリー。
その様子にまた少し笑って、顔を梅並に戻した。
「彼女も一緒に昼食を?」
「はい。天気がいいので中庭に行ってきます」
「それは良いアイディアだ。ちょっと待っていなさい」
言うと杖を取り出して振り、大きめのトレーを出してくれた。
「これを使うといい。ランジュが邪魔しにいかないように、場所は内緒にしておくよ」
「ありがとうございます」
礼を言えば梅並の頭を撫でて笑みを深くして見送ってくれた。
「すごくいい人ね」
「兄さんの親友で、前から知ってるんだ」
一人っ子だから弟がいるみたいで嬉しいんだってと、トレーを大切そうに持って中庭へ急ぐ。
中庭でも木の陰になって周りから見えない場所に座ると、早速サンドウィッチに手を伸ばした。
「でも、おかしくないか?ランジュやマルフォイ先輩だけじゃなくお前には姉もいるんだろ?」
ならどうして寮同士の仲が悪い事を知らないんだと聞けば、手を合わせてお辞儀をしていた梅並が一口食べて悩みだす。
「ん〜、知ってはいたんだよ。でもみんなが言うほどだとは思ってなかった」
家にはスリザリンの兄と親友のルシウス。そしてもう一人、グリフィンドールの生徒も来ていたからとサンドウィッチを食べる。
「でもウメナミのおかげでスッとしたわ!ジェームズの顔ったらなかたもの!」
「いつもあんな感じなの?」
「ええ!まったく、あんなにひどい事するのに私の事好きとかいうのよ?何の嫌がらせなのかしら!」
「・・・そうだね」
「・・・」
梅並がチラッとこっちを見て答える。
僕は何も言わなかった。リリーの鈍感さは今に始まった事じゃない。
「ねぇウメナミ、気分を悪くしたらごめんなさいね?」
「うん?」
「その、ウメナミって純血とか気にしないの?さっきの先輩は優しかったけど、授業の時とか他のスリザリンの生徒って、なんていうか、当たりが強くて」
言葉を選びながら言うリリーに、梅並はクスクス笑う。
「うちはみんな純血主義じゃないよ。しいて言うなら、実力主義かな?」
「実力?」
「うん。思ったことを貫くにはある程度の強さって必要でしょ?口先だけにならないようにってこと」
「・・・ウメナミはマグルなのか?」
「ううん、純血だよ。“祈祷”って分かるかな?東洋魔術の一種なんだけど」
家はその旧家なのだと言う。
「と言っても、普段の生活で魔法を使うなんてないんだけどね」
「、は?」
「魔法を見たのは姉さんたちがホグワーツに入学してからだよ」
「えっと、ご両親は?」
「母さんがここの卒業生だけど、使ってる所は見た事ないよ」
本はたくさんあったけどねと、驚きの事実を告げてくる。
「キトウは?」
「もちろん東洋魔術を魔法というなら使ってたよ?でもこんな風に日常的じゃなかったんだ」
日本では、みんながマグルと同じ生活をしているのだと言う。
「魔法学校なんてのもないと思うよ。私の知ってる限りは、だけど」
学校はあるけど、それはあくまでも学問を学ぶ場所であって、そこからどう広げていくかは個人に任されている、と。
「じゃぁ、日本には魔法を使える人が少ないのね」
「ここに比べたらね。でも、その分一人ひとりの質は半端じゃなく高いと思う」
修行などをして精神レベルを上げるから自然とそうなるし、ならざる負えないのだと、最後のサンドウィッチを口に放り込んだ。
「東洋魔術って、難しそうね」
「一度身に付けたら離れないくらいにね」
クスクスと笑って、もう何も乗っていないトレーを持ち上げ、ズボンの汚れを払う。
「私はトレーを返してくるよ。セブルス、教室でね」
「、分かった」
笑いながら城へ向う梅並が、わざと僕とリリーを残して行ったのだと気づいた。
僕がリリーをどう思っているかを知っていて、そうしてくれたんだ。
「ウメナミってとってもいい人ね」
「・・・」
「セブにいい友達ができて本当に嬉しいわ!」
僕に笑いかけてくれるリリー。
僕の事を心配してくれて、喜んでくれるリリー。
「あいつは、別に友達なんかじゃない」
「もう!またそんなこと言う!」
いつも一緒にいるじゃないと言われて、僕はさらに分からなくなる。
友達ってなんなんだ?
リリーと分かれて教室へ向い、当たり前のように梅並が僕の分も席を取ってくれていて、そこに腰を下ろす。
「少しはゆっくりできた?」
「・・・ああ」
「それはよかった」
クスクスと聞こえてきた笑い声は決して僕をバカにしている訳ではないと分かる。
こんな風に声をかけられることも気を遣われることも初めてで、やっぱり友達って何か分からないままだった。