ハリー・ポッター(夢)

□始まり
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ある日、ホグワーツ中が驚愕する事件が起きた。

「聞いた?グリフィンドールの一年生の話!」
「聞いた!森にいたんでしょ?」

「いただけじゃないのよ!魔法生物と一緒だったんですって!!」
「なにそれ!?命知らずもいい所よ!!」

その話を聞いて心の底から思った。

あいつは本物のバカだったんだ。

噂によると、あいつは今罰則を受けているらしい。足に鎖を付けられ、牢屋に放り込まれたそうだ。
入学以来数えるほどしか授業に出ないような問題児には、それくらいして当たり前だ。

胸がスカッとするどころか、ザワついたような気がしたがそんなのは気のせいだ。

罰則が終わり、牢屋から出てきてもあいつは同じことを繰り返した。
どこまで学習能力のないバカなんだとみんなが思った。
僕も思った。

だけど、みんなにはそう思って欲しくなかった。

キモトが罰則を五回程繰り返したある日、ついに校長がキレたのかあいつを縛ったまま森に放置した。
これで森がどれだけ危険か分かるだろうと、見せしめのようなただの殺人のようなその処罰に、何人もの生徒が顔を青くした。

スリザリンの寮では、キモトが白骨死体で見つかるか、死体さえ見つからないかで賭けが繰り広げられている。

「リドル、お前はもちろん生きて帰ってくるに賭けるだろ?」

一年生であり味方のいない僕にそれを拒否する力はなかった。でも、どうしてか拒否する気も湧いてこなかった。


それから三日後、キモトが戻ってきた。

森に放り込まれた時と同じ格好で(ロープはなかったが)、特にどこか怪我をしている様子もなく、いつもみたいに欠伸をしながら中庭を横切って行く。

その時が丁度休み時間で、教室から出てきた大勢の生徒と教師が目を見開いてその姿を凝視していた。

「キクオ!お前さん無事だったんか!!」
「よぉ、ルビウス」

キモトに駆け寄ったのはグリフィンドールの異常に大きな一年生で、二人が並ぶとまるで大人と子供の様だった。

「ん?トムもいたのか。久しぶりだな」

こちらに手を振ってきたせいで周囲にいた生徒が一歩離れて行った。

この野郎。

そう思ったのが顔に出たのか、ニヤニヤ笑いを浮かべている。殴ってやりたい。

「ルビウス、俺腹減ったから飯食いに行くわ」
「お、おぉそうか。大広間なら俺も一緒に行く。本当にどこも怪我しちょらんか?」

「当たり前だ、あんなことで怪我してたら遊ぶこともできねぇ」

クツクツと笑って歩き出したが、

「ミスター・キモト」

呼び止めたのはダンブルドアだった。

「森から帰ってきたのかね」
「たった今」

「して、体の方は?」
「特に何も。腹が減ってるくらいです」

「それは結構。じゃが念のため医務室へ行って診てもらいなさい。食事が終わってからでよい」
「分かりました」

それだけ言って、何が可笑しいのか青い目をキラキラさせてどこかへ消えていく。
きっと校長にでも知らせに行ったんだろ。

「トムも来るか?」
「行くと思うか?」

「いいや」

ニヤニヤ笑いのまま話しかけてくるから本気で腹が立つ。

「・・・今まで何してた」

こいつなら一日と待たずに帰って来られたはずだ。なのに三日も帰ってこなかった。

「そうだぞ!俺たちがどんだけ心配したことか!」

おい、なに僕も心配してたみたいに言ってるんだ。

「あの森は変なモンが山ほどあった。面白くてすぐに戻っちゃもったいねぇだろ」

わざわざ学校側が森に入ることを許可したんだからなと、喉の奥でクツクツ笑って歩き出す。

「国は違えど、自然の中は楽しくて仕方がねぇ」
「何かおったんか?」

「あぁ、ケンタウロスもトロールも、ユニコーンも、なんだか分からんもんも居た」
「そいつらに会ったんか!?」

「会ったぞ。友達になった。また会いに行かねぇと」

足に付けた板をカランコロンと鳴らして大広間へ消えて行った。


それから一週間もしない内にキモトの噂は広がり、雪がいつ降ってもおかしくない程冷えたある日、

「そこの東洋人」
「お前の事だチビ!!」

「誰だお前ら」
「このっ、口のきき方も知らないのか!」

「人に言えた義理かよ」

スリザリンの上級生に絡まれたキモトは、いつもと変わらず態度が悪い。
近くにいたハグリットがハラハラして見ているが、それさえ気にしていないようだった。

「君の嘘話は聞いていると耳が痛くなる」
「なら聞くな」

「ほう?嘘だと認めるんだな?」
「嘘かどうか自分で確かめに行けばいいじゃねぇか」

「せ、生徒は森に入ることを禁止されている!」
「俺は生徒だが入ったぞ」

「お前はバカなのか!?だから罰則を受けたんだろうが!」
「あぁ、ありゃぁいい時間だった」

誰にも邪魔されずに熟睡できたと、クツクツ笑うのがなんだか不気味に見える。
けれど僕にはあてつけのように聞こえて睨めば、目が合ってニヤつかれた。

この野郎!

「話はそれだけか?」
「このっ、東洋の猿め!」

「だからなんだ西洋のゴリラ」
「っ!!」

こんな安っぽい挑発に乗るのがスリザリンの上級生だなんて、信じたくない。

ニヤッと笑みを深めたキモトはハグリットの背中を押して人ごみの中へ入れると、自分に杖を向けている生徒に顔を戻し、

「それはただの棒じゃねぇんだぞ。使い方分かるか?」

キモトが好戦的な所を初めて見る。

杖を向けられているのに笑っているし、足に付けていた板を外して大理石に裸足で立つしでみんなが引いていた。
上級生も引いているが、杖を出してしまった手前下げることができず攻撃魔法をいくつも放つ。

だが、どれ一つとしてキモトには当たらない。

「戦い方がなってねぇな」

顔をしかめてから、勝敗はすぐについた。

杖を持ったままの腕をつかむと、そのまま懐に入って投げ飛ばす。
猿とゴリラとは良い表現だと思うくらい体格差があったにも関わらず、キモトはその大きな相手を投げたのだ。
いともあっさりと。

「俺の勝ちだ」
「、この!穢れた血め!」

シーンと広がる静寂。

しかし、ぷっと何かを吹き出すような音に次いで笑い声が響いた。

「なるほどな、お前は純血主義とやらか」
「当たり前だ!早くその汚い手を離せ!!」

「期待を裏切るようで悪いが、俺はその純血だ」
「な、は!?」

「うっ、嘘だ!!」
「信じようが信じまいがどうでもいい。お前らの希望で俺の出生が変わるもんじゃねぇ」

クツクツと何度も低く笑い、未だに掴んだままの腕に力を込めていく。

「だが、これだけは信じろ」
「が、はなっ!」

ギリギリと音が聞こえてきそうな程、ゆっくりと腕を変な方向へ曲げていく。

「俺は純血主義じゃねぇ、実力主義だ」

痛みと恐怖で涙を流している相手を見下ろし、ニヤッと笑って手を離す。

「それを理解したうえで言いたいことがあったらまた来い。相手になる」

そんな事があって以来、キモトに絡む奴はいなくなった。
もちろんゼロではないが。
むやみやたらと掛かって行かなくなった。
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