短編集(夢)

□イアイアン1
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怪人の討伐要請があったため、イアイアンはF市に来ていた。
しかし、思いのほかあっさりと片付いてしまい、このまま道場へ向おうかと時間を確認していると本屋が目に入った。

今読んでいる本も終盤に差し掛かっている。新しい本を買って行こうかと店の中へ入り棚を見回す。

そして、一つの本へ伸ばした手が重なった。

「あ、失礼しました」
「いや」

こちらこそすまないと謝って見下ろしたそこには、童郷女学院の制服を着た一人の少女。

歳は最近見るようになった師匠の婚約者と同じくらいだろうか。そんな事を考えていると、少女は先ほど取ろうとした本を手に取って差し出して来る。

「イアイアンさんもこの作者がお好きなんですか?」

反射的に本を受け取り、自分を知っているのかと眉間に力が入った。しかし、すぐにヒーローも認知度が上がったなと思い直して頷いた。

「前作が気に入ったので、新作が気になっていたんだ」
「そうだったんですか。私もなんです」

笑って、隣に置いてあったその前作を開いて一行読んで見せる。

「“その姿は物語に出てくる姫の様に可憐であり、生きたまま骸になった美しい肉塊の様であった”」

分かるようで分からない言い回しが好きなんですよと、本を閉じて見上げ、

「この本も面白いと良いですね」

ふわふわと、まるで夢の中であるかのような話し方をする少女はそれだけ言って背を向けた。

「え、これっ」

買うんじゃないのかと言う前に、小さな背中は自動ドアの向こうへ行ってしまった。

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