短編集(夢)
□東方雅美
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「なぁなぁ、部屋に連れ込んだりするの?」
部活を終えて着替えている部室、部員同士で行われる下世話な話題。
「うちじゃ無理だって、いっつも母さんいるし」
「やっぱそうだよなぁ」
そんな話しをBGMに、荷物を仕舞って鞄を背負う。
「腹減ったぁ、コロッケ食いに行こうぜ」
「俺パス、今日は早く帰ってこいって言われてんだ」
寄り道したのばれたらまずいと、誘ってくれた南に手を振って部室を出た。
暗い帰り道、空を見上げてみる。
早く帰って来いとは言われたものの、部活が終わってからが前提だ。時間としては十分遅い。
だから、空には月が輝いている。
『雅美は太陽より月って感じ』
自分から告白して付き合い始めた彼女に言われた言葉を思い出す。
あの言葉を聞いて以来、月を見ると思い出すようになってしまった。
『体動かして騒ぐのも好きだけど、静かにしてるのも同じくらい好き』
『雅美といると落ち着く』
「・・・」
今何をしているのかと考えていれば、メールの着信音がポケットから聞こえてきた。
見れば、
『今日は月が綺麗だよ。部活終わった?お疲れ様』
彼女からの、たった二行のメールだった。
喜びから口元がにやける。
「やっぱ、お前のこと好きだわ」
面と向かって言うのは、明日会った時にしようとメールの返信を打ちはじめた。