短編集3(夢)
□ビルス1
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“ソレ”に初めて会ったのは久しぶりに起きて仕事をしていた時だった。
「この星、もう死にかけてるね」
「そのようですねぇ。どうやら戦争があったみたいですよ」
これではろくに食べられるものもありませんねと、ため息をつくウイスにつられて僕も肩を下ろす。
壊すのはボクの仕事なのに、こういう勝手なことされると困るんだよなぁ。
「で?住んでた奴らもみんな死んだの?」
「全員ではありませんね」
ウイスが見せてくれたのは、この星で起こった少し前の出来事。
「数百名は近くの星に移住したようです」
「後の奴らは?」
「この星と運命を共にするのでしょう」
「はぁ、下らないなぁ」
どうせ金だとか権力だとかがある奴らだけで逃げて、戦争とは一切関係なかった奴らがここに置いて行かれたんだろう。
「全部壊しちゃお」
「全部とは?」
「全部は全部だよ。この星も近くの星も、面倒だから全部だよ」
そして、善も悪もなくなったチリからまた何かが創られて善と悪がぐちゃぐちゃになってボクが壊す。
「めんどうだなぁ」
どうせ壊すのに、なんで創るんだろ。キレイなものを作ってもいつかは悪が出てきてぐちゃぐちゃになるのに。
そんなことを考えながら歩いていたら、
「おや、まだ生きていますね」
岩の影にうずくまっている小さな何か。
「ビルス様、ご覧下さい」
「生きてるって、もう虫の息じゃないか」
「そこではありませんよ。ほら、とっても綺麗ですよ」
白いモコモコした体。薄らと開いている目。
「へー、本当だ」
真っ白の瞼の隙間から覗いている真っ赤な目。
「・・・ウイス」
「はい?」
ボクはこれが気に入った。
「こいつ以外全部壊すことにした!」
キレイな目。善も悪もない目。
いいもの見つけた!!
ぐちゃぐちゃになったと思ったけど、これはまだ違うみたいだ。
「さっさと壊して帰るぞ。こいつ、今にも死にそうだ」
「そうですね、きっと何も食べていないのでしょう」
「“食べない”なんて、つまんないね。未知を探求してこそ食事だ」
「この星では無理もないですよ。生命溢れる星では文化も多彩ですけどねぇ」
「なんかお腹空いてきちゃった」
「帰ったらお食事ですね」
真っ白の塊を脇に抱えて、笑っているウイスの背中に手を置く。
宇宙から見たこの星も、地上に降りた時とさして感想は変わらない。
死にかけている。
ボクはそれをチリにして、ほかにもあるいくつもの星を滅ぼして、真っ赤な目をしたそれがまだ生きている事を確かめた。
あんな死にかけの星でいいものを見つけた。それに、結構手触りが良い。
風呂に入れたら乾いた毛に顔を埋めてみよう。
うん、今日はぐっすり眠れそうだ。
二百年は眠れるかな?