3月のライオン2(夢)
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「ななな、何を持って行けばいいんでしょうっ」
『わかんねぇよ!なんでそんな一大イベントの相談を俺にするんだ!』
「だってー!」
電話の向こうから聞こえてくるスミスの声に、泣きそうになりながら声を上げる。
『あれだ、お義母さんだって女だ!お前そういうの得意だろ』
「得意じゃないですよぉ!」
どんな服を着て行けばいいのかも分からないと泣き事を言う。
「やっぱりスーツですか?!」
『男か!スカートってか正装だろ』
「スカートなんか持ってません!」
『お前最初から女だって宣言しろよ。隈倉さんにホモセクシャル疑惑がかかるぞ』
「そんなのは嫌だー!」
こんなやり取りが一時間ほど続き、手土産は有名なケーキ屋のケーキセット、服装はスーツではないがそれらしいものになった。
「私は女です!」
『はっきり言い過ぎ』
「これでも女です!」
『ほとんど同じじゃねぇか』
性別の事に関しては、いい案が浮かばなかったのでおいおい誤解を解いて行く事に決定した。
そしてやって来た運命の日。
とりあえず予約しておいたケーキセットを取りに店へ向う。
渡す時の事を考えるととても浮かれた気持ちにはなれなかった。
「本当にこれでよかったのかな・・・」
悶々と悩んでいると、店に一人の女性が入って来た。
「予約していた者ですが、」
「いらっしゃいませ。ただ今準備いたしますので、お座りになってお待ちください」
朝から込み合っている店内は席が埋まっており、女性の座る席がない。優は立ち上がり、
「あの、私も今品物を待ってるだけなので、」
良ければ座ってくださいと、空いている自分の向席を進めた。
「まぁ、ありがとうございます」
「いえ、気になさらないで下さい」
こちらも気が紛れて丁度良かったですと言えば、女性が首を傾げる。
「顔色がよくないようですけど、」
「そ、そうですか?」
緊張しているからですかねと苦笑して頬をかいた。
それからお互いケーキを待っている間、時間をつぶす様に話し続けた。
「そう、これからご挨拶に行くの」
「はい、もう本当に緊張してしまって、」
何か失礼な事をしてしまわないか不安で仕方ないと両手で顔を覆う。
「私も似たような物ね」
「?」
「今日息子が彼女を連れて来るよ」
上の子とは歳が離れていたし、もう結婚しているのだが、
「その時はお見合いで、どんな方が来るか分かっていたからよかったんだけど」
今回はそうじゃないから緊張するわと頬に手を当ててため息を吐く。
「どっちの立場になっても緊張するものなんですね」
苦笑したように眉を下げると、向いに座っていた女性もそうねと笑って肩を落とした。
二人で話していれば準備ができるまでの時間もあっという間に過ぎてしまい、
「それじゃぁ、話を聞いていただいてありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったわ」
二人揃って店を出る。
そんな事があった午前。ケーキを持って家へ帰り、着替えて出かける準備を整えた。
「こ、これで大丈夫でしょうかっ」
「そんなに固くなる必要な無い」
「し、しますよ。というかっ、何かやってしまわないか心配で!」
今ならまだ間に合うから殺してくれと両手で顔を覆う。
「これから両親へ合わせる相手を自分で殺してどうする」
「そうなんですけどっ!」
そう思ってしまう程心臓が痛いんですと青い顔で言えば、
「俺はそこまで心配はしていないけどな」
ポンッと頭に手を乗せられた。それも笑顔付きで。
「、健吾さんがカッコ良すぎるっ」
「・・・それはない」
青かった顔に赤みが差した事に肩を落としてもう一度頭を撫でた。