3月のライオン2(夢)
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夏、蝉の声がそこかしこから聞こえる季節。
「あ、見えてきましたよ」
隈倉は優の実家に来ていた。
飛行機に乗り、電車を乗り継ぎ、更には車で迎えに来てもらってたどり着いたのは昔ながらの日本家屋。
「いや〜、まさか優ちゃんが旦那連れて帰って来るとはなぁ」
みんな驚くぞと、迎えに来てくれたおじさんがはははと笑ってハンドルを切る。
「おじさん、健吾さんは旦那さんじゃないってば」
「ここまで来たら似たようなもんだろ!ハハハハ」
「全然ちがうよ」
そんな会話を、いったい何度聞いたのだろう。
初対面でも同じことを言われ(身長の事でかなり驚かれた)、車に乗り込んでからも同じことを言われ(職業が棋士である事はすでに気づかれていた)、そして走行中ずっと、優とはいつ結婚するのかと聞かれ続けた。
「チビたちも優ちゃんが帰って来るって喜んでたよ」
「みんな元気だった?」
「おお!何にも変わってねぇよ。家の手伝いもしねぇで毎日そこら辺で暴れ回ってる」
二人の会話を聞いて、優が言っていた通りのどかな所だと思った。
優の実家だろう家の前で止まった車から降りて荷物を下ろしていく。
「掃除しといたから、不便はないと思うけどな」
「いつもありがとうございます」
礼を言っていると、
「ゆう!」
後ろから聞こえてきた子供の声。
「かーくん久しぶり」
優が笑顔で答えているのを見て、さっき話題に上がった子供かと屈めていた背を伸ばして車の陰から出れば、優を見上げていた子供と目が合った。そして、
「やくざだー!!」
「!?」
指を差して叫ばれた。
「いや〜、申し訳ない。海斗!隈倉さんに謝れ!」
「いえ、気になさらないで下さい」
「じいちゃんが殴ったぁ!」
「かーくんが失礼な事いうからだよ」
よしよしと殴られた箇所を優に撫でられているかーくん事、海斗。
頭を下げてくるおじさんに手を振って静止していれば、
「「「ゆうー!カイトー!」」」
聞こえてきたいくつもの幼い声。そして、
「「やくざがカイトを泣かしてるー!!」」
「うわーん!!」
男の子たちは隈倉を指さして叫び、女の子は目が合った途端泣き出した。
「ったく!ほら車に乗れ!送ってってやっから!」
現在、おじさんに殴られた子供たちが車に乗せられている。
「悪いな、帰ってきた途端これで」
「・・・お世話になりました」
「いや、隈倉さんには本当に申し訳なかった」
そう言って、車の後ろからこちらを見ている子供たちに手を振って二人で見送った。
「なんか、すみませんでした」
「いや、いい」
気にしていないと言えばかなりの嘘になるが、それでもこういうことは結構ある事なのでもう諦めている。
「悪い子たちじゃないんですけど、やんちゃ盛りと言うか」
はははと苦笑して、家の中へ入るために戸を開ける。
「そんなに怖いのかなぁ?背が高いからですかね?」
ジッと見上げてくる優に向き直れば、
「怖いよりカッコいいですよね?」
「・・・」
くしゃりと短い髪を撫でてその手に握られている荷物を奪って中に入った。