ハリー・ポッター夢(子世代)

□バッドエンド1
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「梅並」
「なに?」

自分を見下ろしてくる蘭樹に、梅並は聞き返す。だが顔は前に向けたままだ。

「本当に、良いんだな」

蘭樹はこれでもかと言うほど眉間に皺を入れて、不機嫌そうに、しかし辛そうに訪ねた。

「うん。私がそうしたいんだ」

梅並はほんのり笑って、見下ろしてくる兄を見上げる。
天文台から見える景色はとてもキレイとは言えないが、梅並は蘭樹から顔を景色へ戻す。

「この七年で、決めたんだ」
「・・・分かった」

険しい顔のまま目を閉じて、怒りで震える肩や拳を強く握りしめる。

「わがまま言ってごめんね」

ありがとうと抱きついて来た梅並を、強く強く抱きしめた。



「ウメナミ?!」
「ネビル、大丈夫?」

襲ってきた死喰い人を弾き飛ばした人物にネビルは目を見開いて体を起こす。
そして、自分を包んでいる青白い球体に気が付いた。梅並が近づいて来るとその球体も無くなり、

「どうやって牢屋から出て来たの?」
「内緒だよ」

ほんのり笑って手を差し出し、ネビルを立ち上がらせる。

「スリザリン生は戦う気がないみたいだったから、外に逃がしたよ」
「逃がしたって、どうやって?」

「内緒」

クスクスと笑い、懐から出したお札を宙へ投げる。
お札は大広間の壁へ張り付き、静寂に包まれた。

「負傷した人たちはここへ運んで」

そう言って歩いて行こうとする先を見れば、梅並の兄と姉たちが立っていた。
みんなの顔は真剣で、ネビルは離れていく親友の腕を掴んで呼び止める。

「一緒に戦ってくれるの?」
「もちろんだよ」

頷いて、戦場とはかけ離れた優しい笑顔を向けられた。

「ネビル、私にして欲しい事はある?」
「、うんっ」

溢れてくる涙をこらえて、梅並の美しい顔を見ながら周囲で上がる悲鳴に耳を傾ける。

「この戦争を終わらせたい!誰にも死んで欲しくないんだ!!」

叫べば、小さな手で頬を包まれた。

「ネビルは優しいね」

大丈夫だよと笑顔を残して、梅並はどこかへ消えて行った。



ドクドクと流れていく血。
ハリーに記憶を渡し、スネイプは最後の時を待っていた。
自分を見つめてくるエメラルドの瞳。浅はかな自分のせいで殺してしまった最愛の女性。

『スネイプ先生』

緑色の瞳を見ながら、自分を慕っていた生徒を思い出す。
最後まで自分の後をついて来た生徒だった。
不思議な子だった。
こんな自分を、まるで愛しているとでも言うかのように尽くしてきた。

『スネイプ先生』

もう眼も耳も聞こえないと言うのに、あの声が自分を呼んでいると分かる。

『幸せになってください』

今度こそ、あなたの人生を歩んでください。温かく柔らかい何かが、口に触れた。



戦争が終わった。

逃げていく死喰い人達。倒れるヴォルデモート。戦争は、ハリーたちの勝利で終わった。しかし、

「みんなっ」

運び込まれたいくつもの死体。
その前でネビルは膝をつき、きつく手を握る。それはネビルだけではなかったが、

「ネビル」

歓声を上げることもできない空間に、柔らかい声が落ちてきた。

「大丈夫だよ」
「ウメナミ、」

「私が君との約束を守らないとでも思った?」

ほんのり笑って、膝をついているネビルを見下ろす。

梅並が何を言っているのか分からない。
そんな顔でみんなが眉を寄せる。

「君にプレゼントを用意したよ」

喜んでくれたら嬉しいと、まるで悪戯を仕掛けた子供の様に笑う。

「それと、ポッター」
「、なに?」

「私は君が好きじゃない」

梅並の顔は無表情になり、ネビルに向ける物とはまるで違う冷たい声ではっきりと言った。

「でも、私の友達は君の幸せを望んでいるし、何よりスネイプ先生がそれを願ってた」
「スネイプ!?あの裏切り者、」

「先生は裏切り者なんかじゃない」

ピシャリと言い切り、野次を飛ばすことさえ許さない程のプレッシャーを周囲に与える。

「ポッター、本当の事をみんなに伝えて。これが交換条件だ」

なんの?と聞く前に、梅並は歩き出す。
大広間の入り口まで行くと手を上に上げ、

「約束は守ってね」

パチンと指を鳴らした。

すると瓦礫で酷い有様だった大広間が、まるでダンブルドアがいた頃のようにきらびやかな空間へと戻って行き、

「、げほっ」
「いっ、」

「なに、ここ?」

運び込まれた大勢の死者たちが目を覚まし、体を起こした。

その場に居た全員が今度こそ歓声を上げ、驚きと喜びにありったけの声を張り上げた。



スネイプは走っていた。

なぜ自分が生きているのかは分からない。
傷も塞がり、失ったはずの血さえ元通りになっていると思えた。

何が起こったのかは分からない。
だが、急いで城へ行かなければならない事だけは分かっていた。
戦争はどうなったのか。
ヴォルデモートはどうなったのか。何もかもが分からない。とにかく急いで城へ向った。
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