ハリー・ポッター夢(子世代)
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あれから二年。
もうすぐハリーたちが卒業する。世界は平和で満ちていた。
「セブルス、一つ頼みごとを言ってもよいかの?」
夏休みも近づいたある日、ダンブルドアに呼ばれたスネイプは校長室へ来ていた。
「今すぐと言うわけではないが、そろそろ校長の後継者を決めようかと思っておっての」
その後釜にスネイプを考えていると言われ、即答で断った。
「お断りいたします」
「今すぐ答えを出さなくてもよい」
「何年後でも同じ答えを出すと自負しておりますが?」
「一秒先の事でさえ、誰にも分からんよ」
ほっほっほと笑って、一枚の封筒を取り出した。
「君ほど優秀な魔法薬学の先生になってくれる人はそうそうおらん。できればわしが校長をしている間に育てて見てはどうじゃろう」
「私に助手が必要とお考えですか?」
「後々の事を考えるなら、それがいいじゃろうな」
スプラウト先生も助手を一人取るとおっしゃっておったと、持っていた封筒をスネイプへ渡す。
「決めるのは、会ってみてからでも遅くはないじゃろ?」
舌打ちをしたい気持ちを抑えて封筒を受け取り、退室するために扉へ向う。
「その人物は人と会う事を極端に避けておるのでの、気づかれぬうちに家の中へ入るよう助言しておこう」
どんな偏屈だと、楽しそうにキラキラ輝く青い目を睨んで扉を閉めた。
夏休みになり、封筒の中に入っていた住所を尋ねる。
場所は山の中で、小さな川が流れているすぐ側に一軒の小屋のような家が建っていた。
二階建てのその家へ近づき、人の気配がないかを確かめる。
わずかに聞こえる物音は二階からしていて、こちらに気づいた様子はない。
ノックをせずに中へ入るのは戸惑われたが、そうするよう言われているため仕方ないと自分に言い聞かせた。
「・・・」
家の中はキレイに掃除されているが、至る所に本や植物が置かれていた。
本棚にはびっしりと本が収められている。
闇の魔術に関するものも、魔法薬学に関するものも、見た事のないものも。
「今手が離せないんだ」
二階から聞こえてきた声に、心臓が鷲掴みにされたような気がした。
ドクドクと早鐘を撃つ胸に手を置きながら、木でできた階段をゆっくりと登って行く。
「兄さん、あんまり頻繁に来て麻耶さんに怒られない?」
こちらに背を向けたまま、真剣な顔をして薬をビンに詰めているその人物は間違いなく数年前姿を消した梅並だった。
「ちょっと待ってね。これを送ったらひと段落つくから」
机の上に置かれている白い紙。
その上にできたばかりの薬を置き、手をかざす。
ただの白かった紙に文字が浮き上がり、次の瞬間にはもうビンは無くなっていた。
上手く届いたことを確認している梅並を、気が付いたら抱きしめていた。
「!?」
驚いて振り返ったその赤い唇を塞いで、抗議の言葉も驚きの悲鳴も全て飲み込む。
ガタッとぶつかった机にそのまま押し付けて、懐に入れようとした手を掴みお札を出すのを止めさせた。
「せ、なんっ」
何も言わせたくなかった。
「絶対に声を出すな」
近くにあったベッドに押し倒して服を脱がせていく。梅並はキスをする時以外ずっと手首を噛んでいた。
二人で裸のままベッドで目を閉じる。
スネイプの腕は梅並に巻きついていたが、閉じていた目を開けてそっと抜け出した。
「どうして、来たんですか?」
沢山のものから解放したつもりでいたのに、それは思い込みだった?
黒い髪を撫でるように指を入れて、闇に溶け込んでしまいそうなその人を見つめる。
「幸せになってください」
その言葉を残して立ち上がろうとしたが、バシッと音がしてベッドへ逆戻りしてしまう。
驚いていれば後ろから腕を掴まれた。
「今度はどこへ消えるつもりだ」
「、」
怒りに震えているのか、掴まれている腕に指が食い込んでいく。
「またあの時のように姿を消すのか!」
「、だって、」
あの頃よりも幼さがなくなり、更に女性としての美しさを増した梅並を組み敷くようにベッドへ引きずりこむ。
「、っは」
愛撫をしながら舌を絡めて、抵抗しようとする両手をシーツへ縫い付ける。
「なぜ私から逃げる!」
見上げてくる梅並が涙を流しているのを見て、
「泣くほど嫌なら、私を拒絶したまえ」
梅並がお札なしで術を使える事を知っている。
もちろん威力は低いだろうが、それでもお札を出す時間稼ぎにはなるだろう。
「できる訳ないじゃないですかっ」
「なぜだ!」
「っ」
言葉に詰まる梅並に、さらなる怒りが込み上げてくる。
「まさか、この後に及んでまだ尊敬しているからと言うつもりではあるまいな」
ビクッと肩が跳ねた事に感情が爆発した。
首筋に噛みつき、まだ濡れていないそこに無理やり押し入る。
痛みで悲鳴を上げる梅並を見下ろして、やっと少し落ち着きを取り戻した。
「あなたが好きだなんてっ!い、言える訳っ」
ボロボロと涙を流しながらスネイプを見上げる。
「私はリリーさんの代わりにはなれませんっ」
明るくて太陽のような女性にはなれないと目を閉じて、嗚咽を漏らさないように手で口を押える。
「あなたの過去を見ました。あなたがどんな気持ちでハリーを守っていたかも知っています」
全てを知っていて、恋に落ちた。
「私はあなたを解放したかった」
ヴォルデモートという脅威がなくなればハリーを守るという使命がなくなる。
死喰い人の印がなくなれば、過去を知らない人に詮索されることもない。
「でも、私じゃリリーさんを越えられない。だから、あなたが幸せになることを願って、」
自分ではない誰かとであっても、笑っていて欲しくて姿を消したのに、なんでここに来たのと泣き叫ぶ梅並を抱きしめて口を塞ぐ。
「なぜ私が誰とも知らない奴と笑い合えると思ったのだ」
恋い焦がれたリリーの赤い髪は太陽の様だった。
正義感の強い真っ直ぐな性格で、悪を許さない女性だった。
エメラルドのようなあの瞳で見られると嬉しくて仕方がなかった。
見下ろす梅並の目は黒い。
髪もまつ毛も真っ黒で、光を反射してキラキラと輝いている。
「私は一度だって、お前にリリーを重ねた事はない」
リリーとは似ても似つかない。重ねようがない。
舌を絡めれば熱い息が漏れて来て、指の痕が付いてしまった腕を首に回してくる。
「スネイプ先生」
こんなにも光が溢れる強い目で見て来るのは、梅並だけだ。