ハリー・ポッター夢(子世代)

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起きると、隣には誰もいなかった。

まさか夢だったのかと起き上れば、カサリと音がした。
それは何度か見た事のあるものだった。
何と書いてあるのか分からない、模様のような文字が書かれている紙。慌てて服を着て部屋を出る。

私室にも研究室にも、どこにもいない。

教室を通りすぎて廊下へ出ようとすると、屋敷しもべ妖精が声をかけてきた。

「ダンブルドア校長先生様がお呼びです」

それだけ言っていなくなり、苛立ちのまま机を蹴った。



「セブルス、よく来てくれた」

校長室へ入ると、そこには大勢の人が集まっていた。

ハリー、セドリック、ハーマイオニー、ロン、ルーピン、シリウス。そしてネビル。

「御用とは?」
「真実を話す時が来たのじゃ」

こちらに来てお座りと促され、杖を振って全員分のお茶を出す。

「あの日見た事を話してはくれんかの?」

頷くハリーとセドリックは、優勝杯を掴んだ時に墓場へ飛ばされたと話し出した。
そして蘭樹たちの手によってヴォルデモートが復活し、集まった死喰い人達が梅並の術にかかった事。
そして、ハリーにお札を張って何かを抜き取ったこと。

「僕、ウメナミを疑いました」

禁じられた森でフィレンツェに言われていたのにと手に力を入れる。

「“輝かない星の光”って、ウメナミの事だったんだ」
「そうじゃな。あの子は光を宿しながら輝くことを拒んでおった」

それを望んでいたと、立ち上がってフォークスを撫でる。

「キモト家は今回をもって、全員自主退学を申し出ておる」
「え!?」

「なんで!?」

声を上げるハーマイオニーとロンだが、ネビルは声を上げなかった。

「ウメナミはカップを返却し、優勝も辞退すると言っておる」

ハリーとセドリックどちらがそれを受け取るか決めておくれと二人を見るが、セドリックが首を横に振った。

「僕は受け取れません。ハリーが居なきゃカップにさえ触れなかった」
「では、優勝カップと賞金はハリーに贈るとしよう」

「そんなっ」
「ハーマイオニー。ウメナミは君に挨拶できない事をとても申し訳なく思っておった」

「・・・」
「そして、ロン。ウメナミから伝言じゃ」

「え?」
「次、ハーマイオニーを泣かせたら覚悟しておくようにと言っておったぞ」

「!」

ロンの顔が髪と同じくらい赤くなった。
ハーマイオニーも赤くなっていた。
それを見てダンブルドアが微笑むと、セドリックと共に退室を命じる。

残されたのはハリーとネビル、ルーピンとシリウスだ。

「あの子は友達思いの優しい子じゃ。ネビル、ウメナミは君にとても感謝しておった」

もちろん蘭樹もと言って、青い目を細めてネビルの顔を覗きこむ。

「ウメナミが君にプレゼントを残しておる」
「プレゼント?」

「そう、君がこれからの人生を笑顔で過ごせるようにと願ってな」

お婆さんから手紙が来るはずだからそれを待っていなさいと、背中を押して扉へ向かわせた。

扉を閉めて振り返り、残ったメンバーを見る。
みんな、ここからが本当に重要な話が始まる事を分かっていた。
その緊張感はダンブルドアにも伝わっていて、微笑みを残しながらも真剣な目を向けてくる。

「これから話すことは、とても信じられぬ事かもしれん」

そう言って語りだしたのは、今から九年も前の事。

「その家を見つける事はとても困難での、わしはとうに諦めておった」

だが、一羽のカラスが来て迎え入れられた。

山の中、森の奥深くにある一軒の家。
不思議な力で守られた神聖な場所。

「わしを迎え入れてくれたのは、四人の子供たちとそのご両親。そしてその祖父母じゃ」

子供たちの祖母は類稀なる先読みの巫女だった。
こちらで言う予言者にあたる彼女は、これからおこる出来事について忠告してきた。
本来ならそんな事はしないのだが、ヴォルデモートを野放しにしておけばいずれ木元家にも被害が及ぶからと幼い子供たちの頭を撫でる。

「幸い、子供たちの歳はハリーに近かったからの。ホグワーツへの入学許可も出ておったし、わしは協力を願い出た」

だが、条件を付けられた。

「事が済んだのち、退学を許可すること。その後、キモト家が沈黙を守る事に尽力すること」

そして、

「わしが知りうる過去を全て見せること」

目を見開いたスネイプに、ダンブルドアは無言で頷いた。

「ハリー、君はもう無理に戦う事を強制されることはない」

それでも力を欲するのなら、使い方を間違ってはいけないと言って立たせる。

「おお、忘れておった。ルーピン先生にビッグニュースがあったんじゃ」
「え、」

「これからは結界を張ることが出来ないとウメナミが言っておったんじゃが、グッドタイミングで店を開いた者がおっての」

今日の新聞は読んだかな?と首を傾げて机の上に置かれていた一枚のチラシを見せてくる。

「『風来坊』という店じゃ。店と言っても店舗を構えておらんし、製作者は不明。なんとも怪しい店じゃが、わしは信頼しておる」

そう言ってルーピンにチラシを渡すと、シリウスと三人一緒に扉へ促した。

残ったスネイプは、立ち上がってダンブルドアを睨みつける。

「あなたはっ、その条件を飲んだのですか!」
「さよう。わしは出された条件を全て飲んだ」

「っ!」

スネイプが死喰い人だったことも、リリーを愛していたことも、ハリーを憎みながら命を懸けて守ることも、梅並は全て知っていた。

怒りで震えだすスネイプに、ダンブルドアが目を閉じて歩き出す。

「先ほど出された条件は、当主であるトビマル・キモト氏と、次期当主のランジュ・キモトに出されたものじゃ」

飾られている組分け帽子を見上げて、条件はまだあると言う。

「ウメナミ・キモトからも、条件を出されておった」

今回の計画は梅並の協力なくして進めることはとても困難だった。
木元家の中でも結界術を得意とし、ハリーと同じ年という事もある。
そしてそれ以上に、誰かを救うというこの計画に力を使う事を了承してくれていた。

「あの子はとても優しい子じゃ。誰にでもその優しさを分け与える事を惜しまなかった」

友人であろうがそうでなかろうが。

「じゃが、一番心を砕いておったのは、君の事じゃった」

過去を見て何を思ったのかは知らない。
同情だったのかもしれない。しかし、それは今となってはもうどうでもいい事だ。

「あの子が出した条件は、君の解放じゃ」
「、解放?」

「ヴォルデモートを倒し、それに従う死喰い人も大勢捕まった。バーテミウス・クラウチもその一人じゃ。ハリーも自分で力をつけ、もう戦う事が出来る」

スネイプが犯した過ちが消えることはない。それでも、

「昨夜、君にお別れを言いに行くと言っておったが、会う事は出来たかの?」

その言葉で、握りしめていた紙に気づき、まさかと急いで袖をめくる。
そこにはもう蛇の模様は無くなっていた。

「ウメナミは優し過ぎるがゆえ、ランジュはいつも気にかけておった」

あの兄妹は本当に仲がいいと微笑めば、フォークスが小さく鳴いて返事をする。

「セブルス。君はもう自由じゃ。これ以上自分を責めるでないぞ」

過去に捕らわれて生きるのはもうやめなさいと、半月形の眼鏡越しに青い目が見つめてくる。

「ウメナミの願いは、君の幸せじゃ」

それがあの子の幸せでもあると、呆然とするスネイプを退室させた。
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