ハリー・ポッター夢(子世代)
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クィディッチワールドカップで騒ぎが起こった夏休み。
ハリーはやっと無実が立証されたシリウスと暮らしていた。
「ハリー、ウメナミとは友達じゃないのか?」
「うん。ハーマイオニーの友達なんだ」
僕も友達って思われてもいいくらい顔を合わせてるんだけどと肩をすくめるのを見て苦笑する。
梅並が友達と認める基準が分からない。
「スニ、スネイプとは、どんな関係なんだ?」
「どんなって、お気に入りだったよ」
ただ、あの出来事があってからは無視を続けてると、ため息を吐く。
「試験が終わって、夏休みになるまでの数日間しか知らないけどね」
「・・・そうか」
チッと舌打ちをすると同時に、安堵のような気持ちも湧いてくる。
あの優しい梅並にはもっとふさわしい相手がいると思っているし、本人にも言ってやりたい。
この際男とか女とかはどうでも良かった。
とにかくスネイプ以外にしてほしい。その思いだけだ。
「楽しんで来いよ」
「おじさんも、元気でね」
次に会えるのは冬休みだと固く手を握り合って、ハリーはホグワーツ特急に乗り込んだ。
「今年はクィディッチの試合は中止とする」
大広間で告げられたその事実に、ハリーはみんなと一緒に悲鳴を上げる。
こんな事なら家でシリウスと遊んでいた方がましだとさえ思ったが、三校対抗試合の事を聞いて気分が高揚した。
やって来た他二校の生徒たちと校長たち。
みんながゴブレットに名前を入れていく。
そして木曜日の夕食。
ゴブレットから吐き出されていく名前。
ビクトール・クラム。フラー・デラクール。セドリック・ディゴリー。そして、
「ハリー・ポッター」
騒然とする中でまたゴブレットが炎を上げる。
「ウメナミ・キモト」
ダンブルドアが名前を読み上げると共に、蘭樹から殺気が放たれた。
「やってくれんじゃねぇか」
その冷たい声に、騒いでいた生徒も教師陣も息を呑む。
しかし、その横に座っていた梅並が静かに立ち上がり、
「兄さん、大丈夫だよ」
蘭樹の肩に手を置いて歩き出した。
学校中がハリーと梅並を疑っていた。
向けられる目が敵意で満ちていて、ヒソヒソと聞こえてくる声が不快感を煽る。
「ッチ、うるせぇな」
スリザリンのテーブルへ向いながら蘭樹が舌打ちをした。
「そんなに怒らないでよ」
「怒ってねぇよ。正々堂々、売られたケンカを買ってやろうって言ってんだ」
そう言って、梅並を少し下がらせて長い足を高く上げ、テーブルに振り下ろす。
バキャッと聞いたことのないような音を上げて、蘭樹の踵が当たった場所が抉れていた。
「テーブルに足を上げるのは行儀が悪いよ」
恐怖で静まり返る大広間には梅並の落ち着いた声だけが響く。
そして、砕けたテーブルに手をかざして修復していった。
「なんなら次は真っ二つにしてやるよ」
「床に座って食事をするのは嫌だな」
二人で腰を下ろし、頬杖をついている蘭樹の皿に梅並が料理を取り分けていく。
「本当に機嫌が悪いね」
「ああ、今こっちを見てる奴を無差別に捕まえて、大王イカに臓物まき散らかしながら食われていくのを眺めてたいくらいな」
「それは、・・・えげつないね」
サッとみんなが顔を反らすのを見ながら顔をしかめて食事を始めた。
寮でも元々一人でいたので、梅並は代表選手に選ばれてもそんなに困った事にはならなかった。
その事でハリーに話しかけられ、愚痴を聞くことはあっても自分には蘭樹がいるから平気だと笑っていた。
「ウメナミ、大丈夫?」
「うん。ありがとうネビル」
上級生に肩をぶつけられてよろめいた梅並を、年々背が高くなっていくネビルが支える。
「ネビルは大丈夫?私と居て酷い事言われてない?」
「平気、ちょっとロンと言い争ったけど、それくらい」
「そう」
何かされたら言ってねと言う梅並に、ネビルはため息とともに笑顔を漏らす。
今は自分の方が大変なのに、こんな時でも友達を優先させる梅並が嬉しかった。
成長する度に美しくなっていく事も、髪が長くなる度に確信に近づいて行く疑問も、そんなのは気にならないくらいネビルにとって梅並は自慢の友人だった。
「ハリーの事も、助けてあげてね」
なんだかすごく参ってたからと肩を落としたので、わかったと頷いて苦笑を返した。
地下牢教室で授業が始まるのを待っているみんな。
しかし、始まったドラコとハリーのケンカに周りもヒートアップしていった。
梅並とネビルが教室へ入って見た光景は、ロンがハーマイオニーの腕を下ろした時に現れた顔。
「ハーマイオニー!」
すぐに駆け寄り、オロオロして声も出せないハーマイオニーの背中に手を回す。
「何があったの?」
その声は冷静でいて冷たく、話しかけられたロンは慌てて状況を説明する。
「マルフォイが歯呪いをかけたんだ!」
「そっちだって鼻呪いをかけただろ!」
「最初に攻撃してきたのはそっちだ!」
「子供同士の言い争いはどうでもいいよ」
ピシャリと落とされた冷え切った声。
その声にみんなが口を閉じていると、教室の扉が開いてスネイプが入って来た。
「何事かね」
また喚き出すみんなの話を聞いてゴイルを医務室へ行くよう指示するが、ハーマイオニーにはそれをしない。
「症状を見せたまえ」
「先生、ハーマイオニーは女の子です」
梅並がスネイプを見上げて背に庇う。
「申し訳ありません。処罰はいくらでも受けます」
丁寧に頭を下げて、泣いているハーマイオニーの顔を自分の胸に押し付けると抱き上げた。
「ハーマイオニー、泣いて良いから、息だけはしっかりしていて」
すぐに医務室につくからと励ましながら教室を出て行く。
その後ろで長い黒髪が揺れていた。