ハリー・ポッター夢(子世代)
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「なんだこれ、脱狼薬?」
この日、スリザリンのテーブルでは木元家が集まってカレーを食べていた。
蘭樹がカレーを食べたいと梅並にわがままを言い、それを聞いた姉たちも食べたいと名乗り出た事で頷くほかなかったのだ。
そして、一緒に食卓を囲んでいる。
「うん、一応薬はあるんだけど、変身はしちゃうんだって」
「梅並の結界術なら薬なんかいらなくね?」
「そうだけど、それじゃダメでしょ?」
満月の度に一人ひとり会いに行くわけにもいかないしと肩をすくめて、食後のデザートを食べている兄姉たちから手元に置いておいた本へ視線を移す。
「梅並は優しいなぁ」
「梅並らしいけどね」
「梅並の薬なら安心して飲めるわよね」
「ありがとう」
家族の団欒。
その言葉がよく似合う四人の和やかな空気。決闘クラブで見せたあの殺気は微塵も感じられない。
ほどなくして、ロックハートの過去捏造、隠蔽が露見し、ホグワーツを去った。
三年生になり、闇の魔術に関する防衛術の教師としてリーマス・ルーピンが就任した。
脱狼薬を調合しているスネイプの元へやって来た梅並は、その作業を隣で見ながらメモを取っている。
「ルーピンの正体を知っているらしいな」
「はい」
「誰に聞いた」
「誰にも聞いていません」
「なに?」
眉間に皺を寄せて睨むが、梅並は困ったように肩をすくめて笑うだけだった。
「そういうのが分かるんです。・・・これも家庭環境ですかね」
兄さんたちも気づいていますと付け足してメモに顔を戻した。
「それを誰かに言うつもりは?」
「ありません」
「人狼が恐ろしくないのか」
「はい」
即答する梅並に、苛立ちのような感情が湧いてくる。
二年間近くで見て来たから分かる。意地や見栄で怖くないと言っている訳ではない。
本当に恐怖を抱いていないのだろう。
「人狼だろうがなんだろうが、人権のある人間です」
ただ、ルーピン先生は人間として好きになれない所がありますと、メモをしていた手を止めた。
「この前も、その事で失言しました」
あれは先生に対して失礼だったと反省していますとため息を吐く。
「失言?」
「・・・授業の事で」
これ以上は聞かないでくださいと、いつになくしょげている姿が珍しくて記憶に残った。
「セブルス、君って意外と生徒に人気があるんだね」
薬を持って行けば、いきなりそんな事を言われて眉間に皺が寄る。
「ウメナミ・キモト、この前ボガートの授業をした後に来たんだ」
『先生はスネイプ先生が嫌いなんですか?』
正面切って聞かれるとは思ってなかったと笑いだす。
「あの子は面白いね。優秀だし正義感もある」
「・・・」
「子供なのにまるで大人みたいだったよ。説教されてしまったんだ」
「なんのことだ」
おもちゃを見つけた子供の様な顔をしてスネイプを見上げ、先日あった出来事を話し出す。
「先生はスネイプ先生が嫌いなんですか?」
「どうしてそう思うんだい?」
誰もいなくなった教室で聞かれた質問に、ルーピンは笑顔で聞き返す。
しかし、その生徒は笑顔に騙される事はなかった。
「授業を使ってスネイプ先生を陥れるあたり、そうとしか思えませんでした」
「陥れるつもりはなかったよ。ネビルが」
「スネイプ先生を怖がっている事を知っていて、指名しましたよね」
その事でネビルがスネイプ先生に目を付けられる事を考えましたかと、無表情で聞いて来る。
「みんなに笑われるスネイプ先生の気持ちを考えましたか?」
「・・・君は、スネイプ先生が好きなの?」
「尊敬しています」
そしてネビルは私の友人ですと、その首に緑と銀のネクタイを付けた生徒が言う。
「先生の授業はとても実践的で面白かったです。ですが、もう二度とあのような授業はしないでください」
少し間を開けて、無表情を悲しげに陰らせる。
「失礼します」
丁寧に頭を下げて出て行くその後ろで、癖の一つもないキレイな黒髪が揺れていた。
「カッコ良かったよ」
「・・・バカバカしい」
「そうかな。僕は君が羨ましくなった」
あの黒い大きな目に宿る光は、とてもキレイだった。
「どうしてスリザリンに入ったのかな」
「それはスリザリンに対する侮辱かね」
「そういうんじゃないよ」
肩をすくめるルーピンに、これ以上話すこともないと判断したのか扉へ向う。
「嫌われちゃったかな」
「人間として好きではないと言っていた」
「そっちの方がショックなんだけど」
胸にこみ上げてくる優越感のまま鼻で笑い、部屋を出た。
人狼だと知って尚受け入れているとは絶対に言いたくなかった。