ハリー・ポッター2(夢)
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『風来坊』が軌道に乗るのは思った以上に早かった。
満月が過ぎる度、脱狼薬の注文が増えていく。
それと一緒に他の薬を注文されるのはとても喜ばしい事だったのだが、
「研究が進まない」
「ここまで多忙になるなんて」
何日も徹夜が続き、二人で泥のように眠る。
家事は一緒に行ってなんとかなっているが、正直そんな事をしている時間があったら研究を続けたいと言うのが二人の本音だった。
この日、材料調達のために二人でノクターン横丁へ来ていた。
どちらかが残って薬を作るという手もあるが、ここはどうも治安が悪い。
お互い簡単にやられるつもりはこれっぽっちもないが用心のため二人で行動していた。
「う〜ん、このままだと私たちが薬のお世話になっちゃうね」
どうしたら良いのかなぁとぼやいていると、暗い裏路地にあるゴミ置き場から唸るような声が聞こえてきた。
サッと杖を出して構える。
アイコンタクトを取りながら、声のする方へゆっくりと近づいて行った。
「これって、屋敷妖精?」
「酷いな」
傷だらけで汚れている妖精を見下ろしたセブルスは一瞬ミイラだと思ったが、さっきの声とわずかに聞こえてくる呼吸音に、生きている事を確認した。
「どこかをクビになったのかな?」
握られている手袋を見て言ってみたが、この弱り具合からそうじゃない事が分かる。
大方、使えなくなったから捨てたのだろう。
セブルスは杖をしまい、その汚い妖精を抱き上げた。
「セブルス?」
「連れて行くんだろ?」
梅並がこれを見逃すわけがない。
そう確信して聞けば、こちらを見上げてキョトンとした顔をしていた。
「・・・いいの?」
「何を今さら」
買い物も終わったし、このまま帰っても支障はない。
そう答えて梅並に姿現しを任せた。
家へ帰り、セブルスが妖精をソファに寝かせて薬を取りに研究室へ向う。
その間に梅並はお湯とタオルで妖精の体をキレイに拭いて行った。
妖精の看病をするため、二人で分厚い本と羊皮紙を持って来てリビングで研究を開始する。
「脱吸血薬のとっかかりはどこにすればいいのかな」
「血が体の中でどう分解されているのかが分かれば、まだ違うと思うんだがな」
コウモリとかと同じと考えていいのか、それともヒルと同じと考えていいのか。
買ってきた本を読み、見つけたモノを羊皮紙に書き出していく。
「まずは被検体を見つけないとね」
「聖マンゴに連絡をとるか」
「それとも、校長先生に連絡を取るか、だね」
世間体もあるから名乗り出るのは辛いだろうと、真剣な顔をしている梅並を見てから本へ目を戻す。
「そうだな」
セブルスは、梅並のこういう所が好きだと思う。
フェミニストなのは女になっても変わらないが、それは梅並の長所だとも思っている。
「何か飲もうか。紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「緑茶」
「すっかり日本人だね」
クスクスと笑って立ち上がり、ソファを見て動きを止めた。
「気分はどう?」
いつからか、妖精が起きていたらしい。
セブルスも振り返れば、ボールのような大きな目を開けられるだけ開けている妖精がいた。
「君も緑茶でいいかな?初めてかもしれないけど、待っててね」
リビングを出て行く梅並に声をかけることもできず、固まっている妖精。
「そのまま休んでろ。話はお茶が来てからする」
本のページを捲り、羊皮紙に内容を書き足していく。
静かな中でそれを続けていると、梅並がお茶と和菓子をトレーに乗せて戻ってきた。
セブルスは本と羊皮紙を片付けてテーブルの上を整える。
「口に合わなければそれでいいから、とりあえず一口食べてみて」
お茶をゆっくり飲めば胃も驚かないだろうからと椅子を引いて妖精を座らせる。
「突然で不安かもしれないけど、警戒はしなくていいよ」
私の名前は梅並・スネイプ。梅並って呼んでと、笑いかける。
「彼が君をここまで運んだんだ。傷の手当てもね」
「見つけたのは梅並だ。僕はセブルス・スネイプ。好きに呼んでくれていい」
「優しいけど誤解されやすいんだ」
「やめてくれ」
顔をしかめればクスクスと笑いだす。
「君の名前は?」
その質問を最後に、妖精が泣き出した。
「ラ、ラグにっ!こ、こんなにお優しく!!」
どうやらラグと言うのが名前らしい。
それから落ち着くのを待って、夕食の時間になった。
セブルスと梅並がキッチンへ向えば、ラグが騒ぎ出す。
「ラグが!ラグが!!」
「うん?じゃぁ一緒に作ろうか」
おいでと手招きをすると、また泣き出したがついて来た。
いったいどんな家に仕えていたんだと思ったが、想像しても仕方がない事なのでやめた。
「驚いたりで今日は疲れたでしょ?」
「この部屋が空いてるから、使っていいぞ」
「ですが、ウメナミ様とセブルス様は、」
「私たちはこれから薬を作るから、もう少し起きてるよ」
「ストックを減らすと後が大変だ」
作れる時に作れるだけ作らないとと、二人で研究室へ入った。
明け方、大鍋を使って作れるだけ薬を作り、二人で目の下にクマのある酷い顔でリビングへ戻ってくる。
すると、すぐにラグがやって来た。
「お疲れ様でございます!!」
「起こしちゃった?ごめんね」
「いいえ!何かご用意いたしますか?」
「コーヒーを頼む」
「私も、お願いしていい?」
「お任せください!!」
嬉々としてキッチンへ入って行くのを見送り、二人はソファへ座り込む。
「このまま寝れそう」
「ああ」
そんな話をしながらも、ラグからコーヒーを受け取って飲んだらまた研究室へ向う。
今日中に送らなければならない薬のリストと在庫を確認していく。
全部の薬を確認し終え、まだ時間的に送れないと目を擦る。
「梅並、もう休もう」
「そうだね、私も限界だ」
二人でふらふらしながら部屋へ向い、ラグに昼くらいに起こしてくれと頼んで眠りにつく。
同じベッドで横になり、セブルスは梅並を腕の中へ入れてすぐに意識を手放した。