ブリーチ2(夢)

□カナ62
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華奈も元気になったと言うことで、退院するにあたり卯ノ花から注意事項が一つ。

「三日に一度は伊江村三席のところでゆっくりお昼寝してください」

前のように毎日来て甘えられない今、そうでもしなければ華奈が眠れないという事が判明したので出された処置だった。

それからというもの、

「あれ、伊江村三席みなかった?」
「ああ、いまなら仮眠室にいるよ」

「仮眠室?」

首を傾げてから、あっと手を叩き、

「今日三日目か!」


仮眠室では午後から使うカルテを見ている伊江村の膝に頭を乗せて眠っている華奈の姿があった。
スウスウと寝息をたてて伊江村の袴を握りしめている。

チラリと時計を見て、もうすぐ昼休みが終わる時間だと確認して頭を撫でた。

「華奈七席」

軽く揺すれば、

「むっ」

スリと膝に頭を擦り付けて身じろぐ。

「もうすぐ昼休みが終わりますよ」
「う、ふぁい」

ゴシゴシと眼を擦りながら起き上がり、寝ぼけた声で返事をしてくる。

「伊江村さん」

子供が親に抱っこをねだるように、伊江村の首へ腕を回してキスをすると、首筋に顔を寄せて深く息を吸って吐き出す。

背中に手を添えて頭を撫で、ついこの前までガーゼが貼られていたこめかみへ口をつけ、

「はい」

ここにいるよと返事をする。

ああ、この子を抱いて眠りたい。

同じ布団で身を寄せ合って、君の熱を感じて、




「って訳なのよ」

女性死神教会では、最近ストーカーが続出していると、机の上に被害届を並べて話し合われていた。
やちるに着いてきた華奈もそこにいて、その被害にあった女性たちの届けを見て眉間にシワを入れている。

「今まで出されている被害をまとめると、もしかするとただのストーカーではないかもしれませんね」

七緒がメガネを直しながら、机に並べている届けを見る。

「どれも、カメラで写真を撮られているみたいです」

勇音が言えば、みんなが頷く。

「もしかして、一つの集団が出来ているのかも・・・」
「もしそうであれば、これ以上被害が拡大してしまう前に何か対策を考えなければなりませんね。会長」

やちるを見れば、

「捕まえてやめさせなきゃ!」

いつになく真剣な顔で言った。



男性死神協会ではノートを書いていた者達を探し、やっとそれらしい者をみつける事ができた。
これも隊長、副隊長のおかげだ。ため息をついて目頭を押さえる。

この騒ぎが収まれば、また華奈が自由に出歩いても大丈夫だ。
夜部屋に来て一緒に過ごす事も出来るようになれば、華奈の寝不足も自身の心も潤うだろう。

眼をつぶって休んでいれば、花太郎が慌てた様子で執務室の扉を開け、

「伊江村三席!」

一緒に来てくれと、伊江村を連れて走りはじめた。



「さぁ!吐いてもらうわよ!」
「貴様以外にも仲間が居ることはわかっているのだ」

十番隊の隊首室。
女性死神協会の面々に取り囲まれ、小さくなっている男が一人。
伊江村が駆け付けた時には、他の男性死神協会の者達も集まっていた。

「犯人が、捕まったんですかっ?」
「一人だけじゃがのぉ」

だが、これからいもずる式に他の者達も捕まえられるだろうと言う射場に、安堵のため息をついていれば、

「伊江村さん!」

ドスッと腹にくる衝撃。
見れば、いつかのようにカツラを被り、女性らしい化粧と着物を着た華奈の姿。

「華奈七席?」

その恰好は?と聞けば、乱菊たちが誇らしげに胸を張る。

「こいつを捕まえられたのも華奈のおかげなのよ!」

人目の着くところで華奈を今のように着飾らせ、しばらくしたら他のみんなは隠れて華奈を見張る。
そうして現れたこの男を取り押さえたのだという。

それを聞いて、なんて危ない事をするんだと怒る射場を初めとする男性陣。
女性陣は、それで犯人を捕まえられたのだから良いではないかと言い返す。

「?」

華奈は、伊江村の異変に気づき、腹に埋めていた顔を上げて固まった。

「華奈七席」

いつもよりも少し低い、怒気をはらんでいるその声に、抱き着いていた手をビクッと離した。

「っぃ」
「私が今、怒っている理由が、わかりますか?」

静かなその声に、華奈は怯えたように首を横に振る。
手はきつく自身の着物を掴んでいて、今にも崩れ落ちそうなのを何とか奮い立たせていた。

伊江村と華奈の様子に気がついた他のみんなは、言い合っていた口を閉じて顔をそちらに向ける。
見えるのは伊江村の背中と、いつも以上に小さく思えるほど体を固くしてビクビクしている華奈の姿。


勇音から報告を受けた卯ノ花がやって来た時、

「私は、無理はしないようにと言ったはずです」

初めて聞くのではないかと思えるほど、静かな怒りを含んだ伊江村の声が聞こえてきた。

「他の人達が近くにいるからといって、そんな危険な賭けをするのは、私の言った無理をするという事に入るとは思いませんでしたか?」

その言葉に、

「す、っみませっ」

下を向き、喉を詰まらせながら謝罪の言葉を吐く。

華奈を責める伊江村を止めようと女性陣が口を開くが、卯ノ花がそれを止めた。

「華奈七席」

しゃがんで華奈と目線を合わせる伊江村に、ビクッと肩を震わせてさらに強く着物を握る華奈。

力を入れすぎて、小さな手はどちらも白くなっていた。

「もしもの時は、一人でどうにかしようと思っていましたね?」

その質問に、顔を歪ませてコクリと、小さく頷いた。

みんなを、大好きなみんなを困らせる悪い奴を捕まえる。
みんなもいてくれる。
でも、みんなに何かあったら大変だ。
守らなきゃ。

頷いた華奈を見て女性陣が眼を見開く。華奈がそんな事を考えていたなんて、思いもしなかった。

「あなたの性格からいって、誰かのために動くなという事はできないでしょう」

だからそれは良い。そこが華奈の良いところでもあるのだから。しかし、

「その誰かのために自分を犠牲にしても構わないという考えは、捨ててください」

俯いていた顔を上げ、同じくらいにある伊江村と向かい合う。

「、はい」

返事をして、また下を向いた。

「伊江村三席、華奈七席を休ませて上げてください」

犯人を捕まえたのだから、とても疲れているだろうと優しく微笑む卯ノ花は、勇音から受け取った華奈の着替えの入った包みを伊江村に渡し、そっと華奈の頭を撫でた。

「華奈七席、伊江村三席に着いて行ってください。後の事は私たちに任せて」
「はい」

伊江村は華奈に触れることなく、華奈も伊江村に触れることなくその場を後にした。

「あなたたちも、反省すべき点があると分かりましたね?」

結果として犯人を捕まえられたが、とても褒められるものではない軽率な行為ですと言う卯ノ花に、シュンとして肩を落とす女性陣。そして、

「さぁ、この方を十二番隊へ」

縛られた状態の男には、全てを吐いてもらわなくては。

「涅隊長が、今回の件に関してとても協力的でして」

それはある種の死刑宣告。

「あなたのお仲間たちの処分も全て一任させて頂きました」


かくして、ストーカー事件は幕を閉じる事となる。

犯人たちについては、どうなったのか誰も知らない。
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