ブリーチ2(夢)

□カナ61
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「伊江村はおるかぁ」

執務室にやって来た平子に、書類を書いていた手を止めて立ち上がる。

「なにかご用でしょうか」
「ちぃと、場所変えよか」

「は?」

平子に連れて行かれた先は五番隊の隊首室。入ればずらりと並んだ男達がこちらに顔を向けていた。

「おい、呼んだテメェが一番最後に来るってどうなんだよ」
「私は忙しいんだヨ。くだらない話なら他の者としていたまえヨ」

「そう言うなや、お前にも関係ある事や思うで?」

スッと隊長席に座ると、鍵のついた引き出しを開けて一冊のノートを取り出し、

「この前プラァっと歩いとったらな、拾ったんや」

ペラリとページをめくって、部屋にいる全員に聞こえるように読み上げる。

『一位草鹿やちる』

「あ?」

突然読み上げられた名前に、剣八が顔を上げた。

『二位華奈、三位楓、四位清音、五位花音』

「今のがロリランキングで、次が縛りたいランキング」

『一位伊勢七緒、二位花音、三位織姫、四位楓、五位砕蜂』

「次は飼いたいランキング」

『一位雛森桃、二位華奈、三位花音、四位乱菊、五位伊勢七緒』

ページをめくりながらそのランキングを読み上げていく平子に、集められた者達はピキピキと額に血管を浮かび上がらせていく。

「まぁ、このランキングだけやったら別にお前らを呼ぶ気ぃも無かったんやけどな」

ノートをめくり、

『レイプしたいランキング』

「これはあかんわなぁ?」

机に肘をつき、ノートの一番最後を開いてみんなに見えるように持ち上げた。

「写真一枚、結構な額ついてんで?」

殺気立つのはここにいる全員。

「それ、どこで拾ったんすか」

いつものような大声ではなく、低い声を出した仙太郎に、

「瀞霊廷の端にある庭や」
「じゃぁ、死神ってこと?」

「どうやろなぁ?ただ、何人もおるんは確かやろ」

とりあえず、今日は注意しておくように言いたかっただけだと、その場で解散となった。



「伊江村さーん!」

執務室の窓から入って来た華奈は、すぐそばにある背中へ飛びつく。

「?」

しかし、いつもと違うと首をかしげた。頭を撫でて来る手も、どこか違う。

「伊江村さん?」

見上げて名を呼べば、どうしましたと返ってくる。

「何か、あったんですか?」
「・・・そうですね」

伊江村は華奈を見下ろしてもう一度頭を撫で、

「華奈さん」

仕事中にも関わらず席次無しの呼び方で華奈を見る。

「しばらくは、夜間に出歩かないようにしてください」

それはつまり、伊江村の部屋に行ってはいけないということ。

「昼間も、出来る限り一人にならず、信頼できる誰かと行動して下さい」

それが無理でも、どこかへ行く時は誰かに言ってから行くように。伊江村の話を聞きながら、抱き着いていた手に力を込める。

「ちょっと、怒ってますか?」
「・・・はい」

静かに頷いて、しかしと口角を上げて笑って見せる。

「華奈さんに対してではありません」

ギュッと腹に顔を埋める華奈の頭を優しく撫でて、この言いしれぬ怒りを抑える。

「も、今までみたくしちゃダメですか?」
「日がある内は構いませんが、それでも極力は」

「っ、はい」

ここは執務室。
泣かないように気を張っている華奈の体は震えていて固い。
それからしばらくして、華奈は十一番隊へ戻って行った。


伊江村に気をつけるよう言われてから三日、華奈は剣八と一緒に昼寝をするようになった。

クルンと丸まって、伊江村にもらった練り香の入っている巾着を握りしめて眼を閉じる。
しかし、誰かが近づけば直ぐに起きてしまうほど眠りが浅い。
だから、夜だけでは睡眠時間がたりず、昼寝をするようになったのだ。

剣八の側というのも、伊江村が信頼できる者といるように言ったから。
剣八でなければ一角でも弓親でも、やちるでもよかった。

「何かあったの?あれ」

体を小さく丸めて寝ている華奈を遠くから見つめる弓親が一角に問う。

「眠れないんだって」

しかし、答えたのは一角ではなく桃色の髪をフワフワ漂わせたやちるだった。

「ヤソッチが今忙しいんだって、それが終わるまではあのままかなぁ」

心配なのか、俯せに寝た状態で手に顎を乗せ、足をゆらゆら揺らす。

「剣ちゃんもなんか変なんだぁ」
「隊長が?」

「うん」

いつもはどこに行くとか聞いてこないのに、事細かに聞いてくる。
そして、自分といない時は一角か弓親、隊長か副隊長の誰かといるようにと、一人になるなと言ってきた。

「なんかあったのかなぁ?」

眉を垂らすやちるに、一角と弓親は顔を見合わせて眉間にシワを入れると再度華奈と剣八が寝ている方へ眼を向けた。


十日目。

「隊長!!?」

射場は隊首室に入って、目に映った光景に慌てる。

「鉄座之門か」

机に向かっている狛村の腹が異常に膨らんでいるのだ。
そりゃもう、現世にあるお伽話に出てくる赤い頭巾をかぶった少女を飲み込んだ狼のごとく。

「少し、声を押さえてくれるか」
「はっ、はいっ。しかし、その腹は・・・?」

「それがな」

クイッと前の合わせをはだけさせて中を見せれば、

「華奈!?」

なんでも、窓から入ってきてそのまま懐に入り込んできたらしい。

「む、ゴン太」

狛村の毛で覆われた腹に顔を擦り寄せて呟く寝言。

それを聞いて納得してしまった。

「寝ぼけて、隊長を熊と間違えたんでっしゃろ」

以前から、昔一緒にいた熊と狛村に近いものを感じていたいようだったのでなおさらだ。

「しかし、随分寝ていないようだが・・・?」

いつもはつらつとしている華奈の目の下にはハッキリとクマが出来ている。
首を傾げる狛村に、実はと、今問題になっている事を話し出した。


「華奈七席!!」
「ふ?」


華奈が怪我をして運び込まれたと伊江村のところに知らせが入った。
瞬歩で病室に行けば、花太郎と卯ノ花、それと十一番隊の面々。
ベッドにはこめかみの辺りにガーゼを貼られ、丸まって寝ている華奈の姿。

「、容態は」
「飛んできた棒が当たったらしくて、」

その傷以外は特に問題はないと苦笑する花太郎に、詰めていた息を吐き出した。

「普段のこいつなら簡単に避けれたはずだ」

一角は眉間に入れたシワを更に深くして伊江村を睨む。

「お前、なに言いやがった。こいつはもう、何日もまともに寝てねぇ」

華奈は強い。
力もだがそれに見合うだけの精神力だってある。
だが、ある一部の者に対してその強い精神力は脆くなる。

その最たる存在が、伊江村だ。

伊江村の胸倉を掴む一角に、剣八がやめろと口を開く。

「今回の事に関しちゃ、そいつに非はねぇ」
「隊長!」

「いったい何を隠しているんですか」

一角の手を伊江村から離させながら弓親が問えば、ため息を吐いて、

「おい、お前んとこにも関係あんだ。部屋かせ」

卯ノ花に隊首室を使わせろと言う。

「わかりました」

「では、皆さんこちらへ」と、卯ノ花は歩きだし、立ち止まる。

「伊江村三席。華奈七席の看病をお願い出来ますか?」
「、はい」

任せましたよと微笑みを残して、花太郎も含めた全員を連れて出ていく。

「華奈さん」

サラリと頭を撫でて顔を覗き込む。
目の下に出来たクマ。
血色の良かった肌は青白い。

君は、こんなになるまで我慢していたのか。

ベッドに腰をかけ、片方の膝を曲げたその上に華奈を抱き上げて寝かせる。
すると、袴を握ってきた。

「華奈さん」
「、?伊江村、さん」

ガーゼの貼られているそこを労るように撫でれば、目に涙を溜めて幸せそうに笑い、

「伊江村さん」

縋り付くように、丸めていた体を解いて手を伸ばす。


あなたが私の世界。


「辛い思いをさせました」

申し訳ないという意味を込めて撫でれば、緩く首をふって笑い、そして、

「ふっ」

ボロボロと涙を流して抱き着いて来る。

今、この子を甘やかさなければきっと壊れてしまうと、伊江村には分かる。

極端に力の抜きかたが下手だからこそ、誰かが気づいて遣らなければ、

「ゆっくり、休んで下さい」


誰にも気づかれない所で、この子は壊れて行くのだろう。


あやすように頭や背中を撫でていれば、聞こえてきた静かな寝息。

哀れになるほど不器用な、愛しい子。

四番隊の隊首室では、平子と射場が呼び出されていた。そして、平子が拾ったノートの事を話す。

「その事を伊江村から聞いて、男性死神協会でも話し合っとった所やったんです」

伊江村は副会長。
会長である射場に相談し、このノートを書いた者達にばれぬよう秘密裏に犯人を探していたのだ。

それを聞いて眼を見開く一角と弓親。

「では、これからは女性死神協会の理事として、私もその話し合いに参加いたしましょう」

真剣な顔でそう言った卯ノ花は、

「ですが、他の女性死神たちには内密に、どこでその犯人たちに気づかれるかわかりませんから」

しかし、男性死神協会のメンバーにはその旨を伝え、女性死神を一人にしないための協力をして欲しいと申し出る。

「そりゃぁもちろん!」
「更木隊長、草鹿副隊長の事はお任せしてよろしいですね?」

「ああ」
「なら、華奈はしばらく入院させたらどや?」

膝に肘をつき、手の平に顎を乗せて平子が言う。

「いつものあいつならまだしも、あないフラフラじゃ何もでけへんやろ」
「そうですね、とりあえず体調が回復して落ち着くまでは」
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