ブリーチ2(夢)

□カナ59
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ある日、十一番隊に任務が出された。

それは現世へ行き、とある町に出没する虚を切るというもの。
その任務には、最低でも一週間はかかるとされていた。

「とりあえず、華奈は行けないね」

誰が行くかを決める話し合いで、弓親が顎に手を当てながらそう言えば、一角を初めとするみんなが頷く。が、

「えー、何でですか?」

本人だけは不満げな声を上げていた。

「あのな、今回は早くても一週間はかかんだぞ」

お前は七日間も寝ねぇ気かと、腕組みをした一角が華奈を見下ろす。

「大丈夫ですよ!もう眠れなくなったりしません!!」

ニパッと笑って元気よくそう言った。

「ああ?」

意味を計り兼ね、片眉を上げれば剣八の肩の上にいたやちるが、

「じゃぁ華奈ちんにお願いしよ!」
「了解です!」

ピシッと敬礼をする華奈に、ニコリと笑うやちる。

「ちょっ、副隊長まで!」

慌てる弓親には答えず、今日はもう帰って明日に備えてねと華奈を帰した。

「おいおい、本当に大丈夫かよ」
「つるりん心配しるぎー」

「つるりんって呼ぶんじゃねぇ!」

そう返した後カリリと頭をかいて、

「副隊長だって知ってるじゃないですか」

華奈が昼夜問わず眠れなくなり、戦闘中にも関わらず集中を解いて伊江村を求める姿を。

しかし、やちるはニコリと笑って、

「ヤソッチだって華奈ちんの事大事なんだよ?」
「は?」

「華奈ちんの事、いっぱい考えてくれてるよ」

フフフと嬉しそうに笑って剣八に頬すりを一つ。

「華奈ちん、何日で帰ってくるかなぁ」
「さぁな、あのヤローがなんて言うかだろ」



「という訳で、明日から一週間くらいの任務に行く事になりました!」

夜、伊江村の自室にやって来た華奈はその腰に抱き着いて今日決まった事を報告。

「そうですか」

抱き着いてきている華奈の頭を撫で、ソファーに座るとこちらに背を預けながら膝に座ってきた。

「伊江村さんにもらったコレ持って行くので、ちゃんと寝れますよ!」

それに今回は前と違って伊江村が現地で救護をしている訳では無いからその心配もしなくていい。

「・・・」
「?」

引き寄せられて、包むように抱きしめられた。どうしたのかと顔を上げようとするが、頭に口づけされたのを感じて動きを止める。

「無理はせず、」

どうか無事に帰ってきて下さい。
それを聞いて華奈は眼を閉じて耳をすませる。
聞こえるのは伊江村の息使いと、生きていることを知らせる鼓動。

「はい」

あなたが何かを望むなら、私はそれを叶えたいと思う。

「伊江村さん」
「はい」

「大好きです」

胸に溢れるこの気持ちを口から出して言葉にすれば、

「ありがとうございます」

優しい声で礼を言われ、口に温かくて柔らかい感触。

「、?」

入ってきた舌と、腰に回される腕。

求められていると分かるその触り方。

布団の上で重なり合い、汗で張り付いた髪を指で払われる。
見上げれば伊江村と眼が合って、

「ん」

熱い口づけをされた。

「華奈さん」

抱きしめられながら名を呼ばれ、声を出して返事をする代わりに抱き返せばまたキスをされる。

「伊江村さん?」

身に何もつけないまま眠ろうとしている伊江村の腕の中、華奈も裸なのだが、それを気にした様子もなく伊江村に顔を近づけて覗き込んだ。

「・・・一週間は、長いですね」
「?」

自分を覗き込んできている華奈の頬に手を添えて、耳の外角をなぞるように指を動かす。

「どうしたんですか?」

いつもと違う伊江村に少し戸惑っているのか、心配そうに眉を下げる華奈に小さく笑う。

「いえ、ただ」

君に会えない事を、淋しく思う。

そう言えば、驚いた様に眼を見開いた。

「淋しい、ですか?」

私に会えない事が?

「はい」

いつも突然現れて、飛びつくように抱き着かれ、言葉にしなくても分かるほど気持ちを溢れさせて、こちらを見上げ手を伸ばして来る君がいない。


名を呼んでくれる君がいない。


そんな日常に、僕はもう戻れない。

「華奈さん」

ほうけている華奈を引き寄せ、触れるだけの口づけを。

「もう寝ましょう。明日に響きます」
「、はい」

抱き込むように華奈を引き寄せて、髪に顔を埋めると眼を閉じた。




「じゃぁ行ってきます!」

見送りをしてくれている十一番隊のみんなに手を振って、華奈は現世へ向かって行った。

「何だか、思ったよりも元気だったね」

もっと名残惜しそうに行くと思ってたと呟く弓親に、一角も頭の後ろで手を組みながら「そうだな」と返す。

「つーか、あいつは何で見送りに来てねぇんだよ」

来てたら来てたで色々言う癖にと思いながらも、それは口に出さない。

「華奈なら大丈夫って、思ってるんじゃない?」

そうだとしても見送りに来ないのはマイナスだけどとため息を吐いて隊舎へ向かう。

「剣ちゃんだったら、見送りに来る?」

歩いて行ってしまう二人の部下の背を見ながら、やちるは剣八に問い掛ける。

「あ?」
「もしもだよ?あたしが一人でどっかに行くってなってね?戻って来るって分かってたら」

「見送りに来る?」と聞かれ、剣八は少し考えてみる。そして出た答えは、

「来ねぇな」
「なんで?」

「お前が来るなって言うだろ」

それを聞いて、やちるは心底嬉しいというように笑い、

「剣ちゃん分かってる〜!」

剣八のコケた頬に頬擦りを一つ。

「見送りなんかされたら、行きたくなくなっちゃうもんね!」

それに、

「こういう時は、淋しいから早く帰って来いって言われる方がいいなぁ」
「俺がんなこと言うと思うか?」

「言うよぉ!剣ちゃん淋しがり屋だもん」
「ああ?」

眉間にシワを入れて言い返すが、やちるは楽しそうに笑うばかりだった。



「あら、伊江村三席?」
「はい?」

救護塔でこれから使うカルテを用意していれば、卯ノ花がやって来て首を傾げた。
なぜ自分がここにいる事に疑問を持たれているのか分からない。
伊江村は卯ノ花のように首を傾げる他なかった。

「今日は華奈七席が現世へ向かう日ではありませんでしたか?」
「はい、そう聞いていますが、?」

今頃、門が開く時間だろうと言う伊江村に、

「見送りには、行かなかったのですか?」

それを聞いて、なぜ自分がここにいる事を疑問に思っているのかということが分かり、苦笑したように眉を下げる。

「すぐに戻って来ると言っていましたから」

今朝の事を思い出す。華奈が自分の部屋に戻る前、着物を着終わって、

「伊江村さん」

抱き着き、

「私、すぐに戻って来ます!」

頑張ってすぐ戻って来ると言う姿が可愛くて、「待っていますよ」と頭を撫でた。

伊江村が微笑むのを見て、卯ノ花は眼を細める。

「楽しみですね」

思っていた以上に、二人は順調に進んでいるようだと安心した。

とは言っても、あの小さな存在がいないというのはとても大きい。
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