ブリーチ2(夢)

□カナ58
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「伊江村さーん!」

救護詰所でカルテを整理していれば、名前を呼びながら抱き着いてきた。

四番隊にとって、この光景はもう見慣れたものだ。
しかし、ここは四番隊だけでなく、他隊の隊員たちもたくさんいる病棟。
周囲にいた者たちはざわつく。

伊江村は一度手を止めると抱き着いている華奈の頭を撫で、またカルテの整理を始める。
華奈は撫でられた事が嬉しかったのか、見えない尻尾をブンブン振ってグリグリと額を擦り付けていた。

「な、なんだありゃっ」
「十一番隊の、七席、だよな?!」

十一番隊が四番隊に懐いてる!!と、遠巻きに華奈と伊江村を見ては、目の前で起こっている事が現実なのかと囁きあう。

伊江村さん、伊江村さん、

まるでそう言っているかのように、伊江村が動けばその後を追うようについて行き、構って構ってと抱き着く。

「・・・犬か」

誰かがボソリと呟いた。
その呟きが聞こえて者の中へ浸透し、

「華奈七席」

呼ばれれば、なに、なに、なに、と嬉しそうに見上げる姿に、ハッキリと耳と尻尾が見えてしまった。

こうして、二人を見るみんなの頭から、華奈が女で、伊江村が男であるという認識の上から犬と飼い主というものが上書きされてしまったのだった。

「手伝います!」

荷物を運ぶ四番隊三席の隣を嬉しそうについていく華奈。

誰も、二人の間に恋愛という名の情を想像出来なかった。


「って、みんな言ってますよ」

荻堂が机に肘をつき、書類を作っている伊江村を見る。

「いいんですか?」
「何がだ」

そう返せば、荻堂は口を閉じて黙る。
そして伊江村から眼をそらし、

「もっと、女の子扱いしてあげればいいのに」

二人の仲が勘違いされる一番の要因は華奈ではなく、伊江村にあると言う。
伊江村が華奈に接する時、もっと分かりやすくすればいいと。

「仕事中だ」

ため息をついて、出来た書類を荻堂へ差し出せばそれを持って立ち上がり、

「華奈七席には注意したりしないくせに」

そうボソリと残して、みんなが出払っている執務室を出ていった。

伊江村は一人になると眼鏡を外し、疲れを取るようにきつく目頭を抑えた。

分かっている。
仕事中だと割り切るのなら、華奈にも言ってやめさせるべきだと。

しかし、

『伊江村さん!』

こちらに一直線に走って来る姿が可愛くて、頭を撫でれば力を抜ききった様に笑い返して来る顔が愛おしくて、

「はぁ」

やめろなんて、言える訳がない。

「なんや、辛気臭い面しとるのぉ」
「、平子隊長」

眼鏡をかけて顔を上げれば、こちらをジッと見下ろして来る平子と眼が合い、

「?」

首を傾げればニヤッと口角を持ち上げられた。




「なにしてんだお前ら!!」

叫びながら走り、振り下ろされた木の棒を掴んで止めた。

「君、いきなり飛び込んで来るなんて危ないじゃないか」
「危ないのはそっちだろ!こんなもん振り回しやがって!」

こいつの頭割る気かよと、自分の後ろにいる男を顎でさしながら棒を離した。

「割る気なんてないさ」
「まぁ、割れたからって気にする事でもないだろ、そんな奴」

その言葉に、華奈は眼を細めて男達を見上げる。

「もしかしたら私は間違うかもしれないから、先に謝っとくぞ」

お前らの間で何があってそう言うのかは分からないのに口を挟んですまんと、華奈は顔を俯かせ、

「お前達が弱い者イジメしてるようにしか見えねぇ」

低い声を出してそう言うと、後ろで腰を抜かしていた男に向き直って手を差し出す。

「立てるか?」

そっと立たせ、自分よりも大分背の高い男を見回し、

「怪我してんな。四番隊行って治してもらって来いよ」

その背中を押すが、

「待ちなよ」

肩に手を置かれて、止められた。

「そいつにはまだ仕事があるんだ」

虫唾が走る笑顔で見下ろして来る男達に、オドオドしている男が一人。

「お前らが代わりにやっといてやれよ。こいつが四番隊に行って帰ってくるまでの間くらい」

パシリと肩に置かれていた手を払い落として睨む。

「どっちが男か分からないな」

クスクスと笑いながら言われた一言。

それは華奈をけなすというよりも、その後ろで下を向き、唇を噛んでいる男に向けられた言葉だった。

「なら、お前らはなんなんだよ」



夏帆はたまたまそこを歩いていた。
書類を運んでいた足を止め、角から顔を出して憧れの小さな姿を目視する。

「自分より弱いと思ってる奴をいびるような輩は、男、女の前にただのクソヤローだろ」

一人の男を背に庇い、自分よりも大きな男達にそう言い放った華奈に心臓を射ぬかれた。


「って事があったんですよ!!」

両手で顔を抑えながら悶えて話す夏帆はテンションが高い。

「あいつは、何やってんだよ」

夏帆から話しを聞いていた恋次はため息をつきながら頭をかいた。

「それで、その後華奈先輩が全員のしちゃって!みんな肩に担いでその助けた人と四番隊まで運んで行ったんですよ!?」

「なにあの男気!」と、キャーっと胸のうちを声に出して叫ぶ。

「はぁ」

悶えている夏帆にも、赤の他人でもそういうのを見過ごせない華奈にも、ため息が出た。
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