ブリーチ2(夢)
□カナ57
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十一番隊の庭に着けば、すでに楓、花音、その他にも呼んだ者たちが集まっていた。
もちろんその中には一角や弓親といういつものメンバーもいる訳で、
「おい華奈!お前これどうすんだよ!!」
「どうするって、これから食べるんですよ!」
麻で出来た袋が大量に置かれていて、何やら赤い物が滲んでいる。
「大丈夫ですよ!血貫は森でしてきたんで、後は捌くだけです!」
ガサガサと袋の口を開けて、中からベロンと動物の死体を引きずり出す。
「う、うぉわぁぁぁ」
口を手で押さえながら引き気味の平子と伊江村たち。しかし以外にも、
「じゃぁ、僕たちは野菜の準備をしてましょう」
「そうだね」
「お鍋、家から持って来ておいて良かったよ」
華奈の旧友たち三人は着々と鍋の準備を進めていく。
「あ、鳥は鍋で食うけど、鹿はそのまま焼いて食おう!」
「焼肉久しぶり」
「野菜炒めも作りましょうか」
慣れた感じで話は進む。
「うわー!すごいいっぱいだよ剣ちゃん!」
「いっぱい過ぎだろ」
「あまりそうだったらもっと人を呼びましょう!」
そう笑って、華奈は大きな布を引いた上に鳥を一羽ねかせて包丁を構える。
「お、お前、捌けるんか?」
「当たり前じゃないですか」
いや、当たり前って何?と、平子はみんなを振り返るが、みんなは華奈から距離を取っているため無言で首を横に振るだけだった。
「華奈ちんは山育ちだから、こんなの慣れっこなんだよ」
剣八の肩からやちるがみんなを見下ろしてクスクスと笑う。
「あたしたちもルコンガイにいた頃は動物捕って食べたりしたよね!」
「そういや、そんな事もしたな」
桃色の彼女に笑顔を向けられ、大きな男、剣八は口元を緩めて小さく笑う。
「それでも、あんなふうにちゃんと捌いたりはしてなかったけどね!」
いつも丸焼きだったもんねと、楽しそうに過去を語る桃色に男は頷く。
「そ、そういうもんなんか?」
「わ、私は瀞霊廷内で育ったもので、」
分かりませんという伊江村に、他のみんなも肯定を示して来る。
「でも、それなら山田七席もそうじゃないんですか?」
荻堂が花太郎に首を傾げれば、
「あ、はい。僕も初めて見た時は驚いちゃって」
何日か食事が出来なくなりましたと、頭をかく。
「私も、こうやって捌いてるのを見るのは華奈ちゃんが初めてだったなぁ」
「私もそうだったけど、食べたら美味しかったから」
懐かしいねぇと、遠い過去を思い出している三人。
「まだ学院生だった時に、」
華奈がみんなで鍋をしようと言ってきたのが始まりだった。
楓の家で準備して待っててくれとどこかへ行ってしまい、帰ってきた時には背中に布を背負っていて、
「あの袋から血だらけの雉を出された時の事が、忘れられません」
「そうだね」
はははと、渇いた笑い声を上げる花太郎と花音。
「でも、あんなに美味しい鳥鍋食べたの、初めてだったよ」
そんな二人に楓は笑った。
雉の衝撃が強すぎてその鍋を食べられなかったのは二人だけで、楓は普通に食べていたのだ。
この中で言えば、元貴族である楓が一番そういうものに拒絶反応を示しそうなものなのだが、そうでは無かった。
ダンッダンッと木で出来たまな板の上で鳥をぶつ切りにして皿に盛り、血だらけの手でこちらにやって来る華奈。
「鳥出来たぞー!」
ゴチャッと乗っているその鶏肉に、おぉぉぉ!とみんながちょっと距離を取った。
「本当に大量だね」
「やっぱり、もっと人を呼んだ方がいいかな」
「その方が良いかも知れませんね」
まだ鹿もあるしと、四人で顔を見合わせる。
「よし花音!十三番隊の人も呼んでやれよ!」
「ええ!?」
「じゃぁ、十二番隊の人も呼んでいい?」
「こんだけあれば大丈夫だろ!」
「次は鹿だ!」と、鳥を捌いて取った内蔵や羽を袋に詰めてから鹿を引きずり出してまた包丁を握った。
「華奈七席って、本当に逞しいですねぇ」
「・・・そうだな」
鹿の腹に包丁を刺して切り開いている姿を見ながら、伊江村は食欲が無くなっていくのを感じた。
一匹目を捌き終える頃、楓と花音に呼ばれてワイワイとやって来たみんな。
「なんや?マユリも呼ばれたんか?」
「馴れ馴れしく話し掛けるんじゃぁないヨ」
マユリに睨まれたが平子は怯まない。
「花音さん!!呼んでいただいてありがとうございます!」
「いえ、友達が呼びなって言ってくれたので」
やって来た仙太郎に笑顔で答える花音。その後ろには浮竹と清音、ルキアと、何故か恋次の姿が。
「あれ、恋次さんだ!」
「おー、なんだ、呼んだのってお前だったのか」
ただで飯食えるって言われて来たと恋次が笑って言えば、ルキアに脇腹を小突かれる。
「森に行ってきて、大量だったんですよ!」
ほらと、麻袋から鹿を出して見せる。
「お前が捕ってきたのかよ!」
「はい!」
笑顔で答える華奈に、鹿肉は久しぶりだと近くにしゃがむ恋次。
やっぱり、ルコンガイ出身だと普通の事なのか?!とみんなで顔を見合わせる。
「ふむ、これは君が捌いたのかネ?」
「?はい」
「なかなか上手く出来ているじゃないか」
「ありがとうございます!」
捌かれて皮と内蔵だけになった残骸を見て華奈を褒めるマユリ。
「こんな処にいい逸材がいるとはネ。しかし、解剖だけでは意味がない。これを繋ぎ合わせる技術もあれば、うちで引き取ってもいいんだがネ」
ブツブツと顎を触りながら良からぬ事を考え出す。
「コラコラ、華奈に引き抜きの話ししたら嫌われるでぇ?」
平子がマユリにそう言うが、
「涅隊長は嫌いにならないですよ?」
そう言って平子を見上げる華奈。
「なんでやねん!」
「だって、やな事言ったりしませんもん」
つーんと顔を背けて、新しい鹿を捌きにかかる。
「こいつ、伊江村が記憶無くしたんはマユリのせいやて、分かってるんか?」
「元をただせば、貴様が二人に絡んでいったのが原因だろう?」
「っく」
渋い顔をして食い下がる平子を尻目に、マユリは華奈の手際の良さをジッと見つめる。
「楽しそうでよかった」
呼んで大丈夫かと心配したけどと呟く楓に、ネムは柔らかく微笑んで見下ろす。
「マユリ様は、喜んでお出ででしたよ?」
楓もそれに笑い返して、少し小さな鍋を用意して煮込んでいる鳥鍋をそちらに移す。
「花音」
「なに?」
「こっちに、ネギ入れないでね」
そのお願いに、花音は笑って頷いた。
鹿も全て捌き終えると華奈は内蔵やらを全て袋に入れて背負うと、
「じゃぁ、これ返してくるから!」
そう手を上げて賑わう庭を出ていく。
「返して来る?」
華奈の言葉に首を傾げるのはドン引きしていたメンバーで、それに花太郎たちが笑って答えた。
「森に、埋めに行ったんですよ」
「わざわざ、ですか?」
「はい」
森で捕ったものは森に返す。
そして、そこで土に返って、新しい命を作る糧になり、またそのおこぼれにあやかって生きていくから、返す事を怠ってはいけない。
「華奈、いつも食べる前に返しに行っちゃうんで、」
その間に私たちが食事の準備をするのも、いつもの事なんですよと、笑う。
「食べる前に返さなきゃ、後味悪いって言ってましたから」
「華奈って、変な所で律儀だよね」
ああ、君は、
「伊江村三席?」
「・・・いえ」
首を傾げてきた花太郎に、何でもないと返した。
あの子が、なぜ君たちをそこまで信頼しているのかが、分かった気がしたから。
少し、そう、ほんの少し、幸せな気持ちになったんだ。