ブリーチ2(夢)
□カナ57
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実際、二人の関係は何なのだろうかと、その疑問を改めて問われる出来事がつい先日起こった。
あの伊江村が記憶を無くすという事件。
それももう数週間前の出来事になってしまった今日だが、
「伊江村さーん!」
窓から急に現れた華奈に抱き着かれた伊江村は、いつもの事だと受け止めてその頭を撫でる。
最近、伊江村が逞しくなってきたように思うのは、絶対に気のせいではないと、みんなが確信していた。
「?」
伊江村が首を傾げて華奈を見る。
華奈の格好は死覇装ではなく普段着。
そして、その背中には何やら大きな包みが背負われていて、
「どこかに、行っていたのですか?」
「はい!」
森に遊びに行ってましたと笑顔で返して来る。
だからいつもの以上に髪や着物に木葉や枝を付けているのかと小さく笑って、それに気がついていない華奈の頭を撫でながら取ってやる。
嬉しそうにブンブンと尻尾を振って腹に顔を埋めていくその姿はやはり、
「付き合っては、いない、のかなぁ?」
「さ、さぁ」
散歩先で派手に遊んだ犬を迎え入れている飼い主にしか見えず、二人の関係を計りかねているみんなは首を傾げるばかりだ。
「あれ、華奈七席だ」
「荻堂八席!」
「今日は非番だって、言ってませんでしたっけ?昨日」
そう言いながら伊江村に抱き着いている華奈に近づいていく。
「はい!だから森で遊んでました!」
じゃぁなぜ四番隊の執務室に?聞けば、カラリと隊主室の扉が開いて卯ノ花と勇音が、
「卯ノ花隊長!」
伊江村から手を離して、卯ノ花の前へ、
「あら、華奈七席」
どうしました?と笑顔で見下ろして来る卯ノ花に、華奈は笑顔で背負っていた包みを差し出す。
「?」
「森で遊んでたら見つけたんで、お土産です!」
包みを開ければ色とりどりの花が、
「まぁ」
「卯ノ花隊長は、花が好き何ですよね?」
「えぇ、ありがとうございます」
生け花に使わせて頂きますねと、華奈と目線を合わせて微笑めば、嬉しいというように幼く笑って見せた。
「あ、華奈さん」
「花太郎!」
手を上げて笑顔を深める先には、信頼を寄せている旧友の姿。
「今日の夜って暇か?」
「はい、今のところ用事はありませんけど、?」
「じゃぁ楓の家で飯食おう!」
「あ、もしかしてこれから森に行くんですか?」
「うん!」
今帰ってきた所だというのに、また森に行くのかと思ったが、それよりもなぜそんな事が分かるのかと、みんなは首を傾げながら窓から出ていく華奈を見送った花太郎を見る。
「よく分かりますね、華奈七席のこと」
「いえ、華奈さんが森に行った後の食事はだいたい決まっているので」
「そうなんですか?」
「はい」
苦笑したように笑った花太郎は荻堂を見上げて、
「多分、森で何か捕ってきて、それでお鍋ですから」
みんなが固まる。
「捕って、え?」
「前はぼたん鍋でした」
帰りは野菜を買って帰ろうと一人呟いて机へ向かう花太郎に、みんなが動きだすまでしばらくかかった。
「で?」
「は?」
伊江村の机の前、平子が肘をついて仕事をしていたその手を止めさせる。
「せやから、華奈をどないしたいねん、お前は」
「どうしたい、と、言われましても」
いきなり始まったこの会話についていけない。
「みぃんな噂してんで?お前と華奈は付き合ってるんかぁてな」
「そんな噂があったんですか」
知りませんでしたとため息をついて見せる。
「華奈がお前を好きいうんは見てればわかんねんけど、」
お前がどないなんかが分からへんねんと、眉間にシワを入れた。
「はぁ」
「ちゃんと答えてやらんと、華奈も辛いんちゃうんか?」
そこでやっと平子の言いたいことが分かった伊江村はポカンと口を開ける。これは、
「平子隊長?」
「俺も、この前のは悪い思っとるんや」
伊江村が記憶を無くした数日間、華奈はどんな思いでいたのだろうかと口を閉じる。
「あいつ、俺に懐いてへんし、謝りはしたんやけど、それで俺の気が晴れる訳でもなし」
平子なりに考えた結果、伊江村とどうにかなるのが華奈にとって一番嬉しい事だろうと思い、こうして話し掛けてきたらしい。
「あの事は、もう華奈七席も気にしていませんでしたよ」
小さく笑って言えば、それは華奈にも言われたとため息をつく。
「俺やったら、耐えられへん」
「?」
「記憶や、好きな奴が俺の事忘れてお前誰や言うたら、心臓止まるわ」
あの釣り眼がこちらを見て、冗談ではない疑問を投げかけてきたと考えたら、
「謝って、そない簡単に許されんのも、こっちとしては辛いねん」
華奈が本当にもう気にしていなかったとしても。
伊江村は少し驚いたように眼を見開いて平子を見た。
この人にも、そう思える相手がいるのかという驚きも、ただいつものようにふざけているだけの姿しか知らなかったのに、こんなに反省していると見せてくることも、驚きでならない。
「あいつって何が好きなんや?」
「そうですね、よく、甘味処に行ったと聞きますが」
「甘味か、あいつも女やな」
女はなんでそないに甘いものが好きやねんと、腕を組んでここにはいない人物を思い出しているのか空中を睨む。
その姿が、少し面白かった。
「そういや、お前あいつになんか物やったりした事あるんか?」
「物、ですか?」
考えて見るが、
「一度も、ありませんね」
「はぁ?!」
物凄く驚かれた。
「おまっ、したことないて!じゃぁ飯をおごった事は!」
「ありませんね。というか、一緒に食事をしたこと自体があまりないので」
前に一度森で昼食を食べたり、四番隊と十一番隊との宴会で飲んだくらいしかないと答える伊江村に、平子はさらに眼を見開いていく。
「それで、華奈はなんも言わんのか?」
「はぁ、?」
首を傾げれば、平子は手で顔を押さえてため息を吐いた。
「なるほどな、付き合うてるのか分からんて、噂が流れる訳や」
伊江村の態度だけの問題ではなかったかと、平子はうなだれる。すると、
「伊江村さーん!」
ガバッと窓から飛び込んできた華奈が伊江村の背中へダイブしてきた。
「あれ、隊長もいたんですか」
「おぉ、相変わらずつれない言い草やなぁ」
そんな会話を一つ二つして、伊江村の首に顔を埋めて幸せそうに笑う。
「花太郎いますか?」
「山田七席は、書類を出しに行ってまだ帰ってきていませんよ」
頭を撫でてやんわり距離を取らせると、その手にしたがって首に回していた腕から力を抜いていく。
それでも、伊江村の着物から手を離そうとはしなかったが。
「そうだ!伊江村さん!今日の夕飯一緒に食べましょう!」
「はい?」
「おー!華奈からの誘いか!」
一緒に飯くらい食いに行けと思っていた平子は良かったと、ニヤリと笑って華奈と伊江村を見る。
「隊長も来ますか?」
「阿保か、何で俺が二人で行く食事についてかなあかんねん」
おかしいやろと顔をしかめるが、
「二人?」
華奈は首を傾げて何を言っているんだという顔をする。
すると、荻堂が執務室に入ってきて、
「あ、荻堂八席!今日暇ですか!?」
元気よく手を振って声をかけていく。
「待て待て待て!何で他の奴を誘うねん!!」
「だって、思ったよりも大量だったので」
「何がや!」
騒いでいればここに来た目的の花太郎が帰ってきて、
「今日は大量だったから、楓ん家じゃなくて十一番隊の庭でする事にしたんだ!」
「えぇ!?だ、ダメですよ!そんな勝手なことしたら!」
「大丈夫だ!隊長と副隊長の許可取ったから!」
他のみんなにも知らせたからもうすぐ集まって来るぞ!と、華奈は早く行こうとみんなの背中を押して執務室を出て行った。