ブリーチ2(夢)

□カナ54
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次の日、

華奈が四番隊の執務室へ顔をだせば、ばったり平子に出くわした。
平子は元より華奈が来ると分かっていて来ていたのだが、そんなこと知らない華奈からすれば、今最も会いたくない人物に出くわしたという心境だ。

「そない嫌そうな顔すなや、」

顔をしかめて近づこうとしない華奈に歩み寄り、しゃがんで視線を合わせる。

「昨日は悪かった。悪気ぃは無かったんや」

しっかりと眼を見て謝れば、

「別に、」

顔を背けて視線を外す。

周囲にいた四番隊のみんなが、首を傾げて二人を見ていれば、扉が開いて卯ノ花、伊江村、勇音の三人が入ってきた。

伊江村を視界に入れた途端、先程まで伏せていた顔を上げて走り出す。

「伊江村さん!」
「来ていたのですか」

「はい!」

伊江村に抱き着いたまま笑い返し、

「卯ノ花隊長、昨日は挨拶しなくてすみませんでした!」

礼儀正しく頭を下げる。

「いいえ、元気になったようで、安心しました」

優しく頭を撫でられて、嬉しそうにヘラリと笑う。

「・・・めっさ傷つくわー」

違いがあからさま過ぎて酷いとため息をつき、その光景を見ていれば書類を持った拳西とローズがやって来て、

「ん?おー、お前か」

囲まれていた華奈を見て、調度良い位置にあるその頭へ手をのばした。

「こんにちは!六車隊長っ」

嬉しそうに尻尾が揺れる。

「ちょい待てや!」
「なんだ、いたのかよシンジ」

「いたは!それよか何や今のは!なんで拳西の時はんなに嬉しそうやねん!」
「だって、六車隊長好きですもん」

伊江村に抱き着いたままそう言う。

「なっ!?」

なんだと!?と驚いているのは平子を始めとする最近こちらへ戻ってきた三人だけ。

「なんじゃ、今日は賑やかじゃな」
「総隊長!」

笑顔で見上げてくる華奈に気がつき、またここに来ていたのかとその小さな頭を撫でる。
撫でられて、嬉しそうだった。

「な、なにっ?!」

総隊長もかっと驚いていれば、

「邪魔をする」
「狛村隊長!」

「ん?おお、お主か」

今日も元気がいいなと、頭を撫でればブンブンと尻尾をフリフリ。
幻覚ではあるが、はっきりと見えてしまうその感情の度合いを示す尻尾の揺れに、平子たちは何となく分かってきた。

「ローズ、お前行ってみろや」

平子に言われ、ローズは華奈に近づいて手を伸ばしてみる。

「?」

こちらを振り返って、不思議そうな顔をしてはいるが、ローズに頭を撫でられる事を嫌がっているそぶりは見せない。

「拳西」
「お、おう」

今度は拳西が撫でれば、尻尾の動きが早まった。そして心なしか嬉しそうである。

「卯ノ花隊長、ちぃと悪いんやけど、」
「構いませんよ」

微笑んで、華奈の頭に手を置けば、ブンブンと勢いよく尻尾が振られた。

「・・・」

今度は自分が、そう思って平子が手を伸ばせば、触れられると分かった途端身を固くして伊江村の着物をきつく握り締め、

「・・・」
「・・・」

撫でられている間も、じっとして過ぎるのを待っているといった感じを醸し出す。

「何やこの違いは!!」

みんなを振り返って喚き、通信機を取り出してどこかに架けだし、

数分後。


「何かあったの?」
「どうかしたのか?」

「何だよ、人が昼寝してるって時に」

ガヤガヤと集まってきた隊長格たち。

全隊長、副隊長が四番隊の執務室に集結。

集まった面々を前に平子が口を開いて、

「ちぃと、確かめたい事があんねん」

ほれと、伊江村にくっついているを華奈指さしてみんなに見せる。

「なんだ、華奈じゃねぇか」

言ったのは二番隊副隊長の大前田。

「よし!お前からいったれ!」
「は?」

何がと首を傾げれば、

「ええから、ちょっとこいつの頭撫でてみぃ」

耳元でボソボソと囁かれる。

意味が分からない。
分からないが、別にそんなこといつもしていると、低い位置にある華奈の頭に手を乗せた。すると、

「なんやとっ」

大人しく撫でられている華奈。
わずかだが、尻尾が揺れているようにも見える。

幻覚なのだが。

「なんか意味あんすか?これ」
「つ、次や!」

大前田の質問には答えず、砕蜂を前へ出し華奈と向き合わせる。

「なんだというのだ」
「ええから!」

全くとため息を吐きながら、華奈の頭に手を乗せる。そうすれば、華奈にも同じように撫でられた。

「あ、新しいっ」

撫で返してきよった!と、何故か興奮している平子。

そんな感じで、次々と他の者たちにも華奈の頭を撫でさせる。
みんなも、平子が何をしたいのか段々分かってきたらしく、黙ってそれに従う。

というか、華奈にとって自分はどう思われているのかが一目瞭然で面白がっているのだ。

この事で分かった事は、華奈は隊長たちよりも副隊長たちとの関わりが多いのか、そちらに懐いている事が多いようだということ。
恋次や吉良、乱菊、修兵、そして射場。

「こんな犬欲しいぃ」

乱菊に抱きしめられて、ちょっと苦しそうにもがいていた。

やちるには、撫でられた後自ら抱き着いて頬を寄せ、剣八に撫でられる、というか、手を置かれたらピンッと耳と尻尾を伸ばして見上げる。
どうやら、剣八とやちるは他の隊長たちとは扱いが違うようだ。

「で、や」

卯ノ花が撫でれば、ブンブンと勢いよく尻尾を振って嬉しそうにその裾を掴んだ。

「おおっ」

剣八を抜かし、隊長たちの中で一番懐いているのは卯ノ花らしい。
その次が狛村。
副隊長では射場と恋次が同等と言ったところだったのだが、それは二人が十一番隊という過去があるからだろうと納得がいく。しかし、

「・・・」

平子が手を出せば、今まで揺れていた尻尾は完全に見えなくなり、ピタリと動きを止めて撫でられるその手が過ぎ去るのを待っている。

あからさまなこの違いに、ベッコリと凹んだ。

「お前何したんだよ」

嫌われてんじゃねぇかと拳西が言えば、

「嫌いじゃ無いですよ」

華奈が首を横に振って違うと示す。

「好きじゃないだけです」
「同じようなもんやないかい!」

違いますと言う華奈に、ローズがしゃがんで目線を合わせると首を傾げた。

「シンジ、何かしたの?」

その質問に、うっと詰まってから拗ねた子供のように口を尖らせて、

「やだって言ってるのにずっと移隊しろって言ってくるし、」

昨日は嫌な事も言われたからと頭に生えている耳を垂れさせる。
幻覚の。

「あ?オメェあれマジで言ったのか」

それを聞いて剣八が平子を見下ろせば、はっと鼻で笑う。

「だから最近華奈ちん元気無かったんだー!」

よしよしとやちるに頭を撫でられ、コクンと頷く。
みんなにあーあという視線を向けられた平子はお冠だ。

「なんでやねん!勧誘するんは自由やろ!」
「あんまりしつこ過ぎると嫌われるんですよ」

こんな風にと、伊江村に抱き着く華奈を指さして乱菊が平子の肩に手を置く。

「そうだっ、最後にあんたも撫でなさいよ!」

伊江村に華奈の頭を撫でろと言う。
華奈がここまで人に違う反応を示して来るのだから、飼い主に撫でられればどんなに嬉しそうにするか見たいというのだ。

「は、はぁ」

飼い主では無いですがと一言断りを入れて、自分の脇腹に顔を埋めている華奈に手を伸ばせば、

「!」

撫でるその前から眼を輝かせてブンブンとちぎれんばかりに尻尾をふり、撫でてくれるのか!とさらにきつく抱き着く。

その後ろから平子が手を伸ばして華奈に触れれば、

「・・・」

ピタリと固まって動かなくなる。

うちひしがれるほかない。

剣八は爆笑。卯ノ花は冷笑。他の隊長たちは苦笑。
者によっては肩を震わせて笑いを堪えている。

「いやでもっ、逃げられないだけましじゃない?」

京楽が慰めのつもりなのかそう言って平子の肩をポンと叩けば、ガラリと執務室の扉が開いて花太郎と荻堂の二人が入ってくる。

「あれ、隊長たちが勢揃いだ」
「ほ、本当だっ、何かあったんですかね?」

「花太郎!」

ブンブンと尻尾を振り、更に手も振る。名を呼ばれた花太郎は、華奈がずらりと厳つい面々に囲まれている今の状況を見て「わぁ!」と声を上げていた。

「あいつにも懐いとるんやったか」

呟いて、四番隊だったのかと顎を摩り、

「華奈の好みがわからんなぁ」

剣八や拳西のように屈強な者に懐いたと思えば、花太郎や伊江村のような戦いとは縁遠そうな者を好きになったり。

口の中で小さく言えば、ぞっとするような視線を感じた。

見れば、華奈が眼を三角にしてこちらを睨んで来ていて、

「な、何やねん」

全身の毛を逆立てている犬に見える。

「もしかして平子隊長、あの七席に何かしたんですか?」

修兵が聞けば、

「何もしとらんは!」
「やな事言いました」

花太郎だけじゃなくて伊江村さんにもと、伊江村の腹に顔を埋めて威嚇したいのを耐える。

「でも、威嚇しちゃダメって言われたから、もうしません」

昨日はすみませんでしたと謝って、

「・・・シンジ」
「あんなんただの表現やろ!?悪口ちゃうぞ!」

しかし、華奈はフンッと顔を背けて平子の存在を無視する。

ローズに肩を叩かれ、

「ドンマイ」

呟かれた言葉が虚しく響いた。

こうして、華奈は平子には懐かなくなった。

「平子隊長」
「?」

「疑問をお持ちになるのは仕方がありませんが、」

やり方を間違えて華奈をこれ以上追い詰めないようにと、卯ノ花から冷たい視線と笑顔をもらった。
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