ブリーチ2(夢)
□カナ48
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「おう、来たかお前ら」
「なんかあったんすか?」
楽しそうに口角を上げる一角に、
「十刃になり損ねた破面の残党がゴッソリ現れたらしいぜ」
一角よりも凶悪そうに顔を歪ませて、剣八は立ち上がる。
「行くぞお前らっ」
「これから班を分けて戦闘を行っている各隊の救護へ当たります。十一番隊、七番隊が前戦へ向かっているため上位席官の多くをそちらへ、私はより重傷者を運び込むテントにいます。緊急時は速やかにそこへ避難、もしくは患者を運ぶように」
「はっ」
「行きましょう」
走り始めた四番隊。伊江村は伝令信機である人にかけた。
どうか、
『はいっ』
走っているのか、いつもとは違う乱れた高い声が聞こえてくる。少し、安心した。
「どうか、無理はなさらず。出来るだけ怪我には気をつけて下さい」
それだけを伝えて、通話を終わらせた。
「華奈!そっちにいったぞ!」
「了解です!」
大きな破面を切り倒していく華奈の姿を、十一番隊と七番隊のみんなは見つめる。
「あいつ、あんなに強かったか?」
その呟きはいったい誰のものだったのだろうか。
周辺に敵がいなくなったのを見て、今日はここで野営をすることになった。
四番隊は後援が忙しいらしく、まだ来ない。
「華奈、傷見せろ」
今のうちに手当をして、明日に備えろという一角たちに華奈は首を横に振る。
「大丈夫ですよ、私怪我してませんから」
「あぁ?んな血だらけでなに言ってやがる」
「これ、全部返り血ですもん。私は大丈夫です!」
笑って、袖で顔についた血を拭っていく。
その言葉に、みんなが息を呑んだ。この対戦の中、怪我を一つもしていないというのか?
「マジかよ」
「はい!」
トテトテと歩いてみんなの側へやって来れば、そこにあった岩へポスリと座る。
「今日は私が見張ってますから、みなさんは先に休んで下さい!」
笑顔でそう言って、足の裏を合わせて背中を丸めた。
あなたは今頃、なにをしているだろうか。
無事、だろうか。
出来るだけ、出来るだけ後ろに敵を回さないように、怪我をしないように、みんなを守って、それから、それから、
戦い初めて二日がたった。まだ、四番隊は来ない。
「華奈、今日は僕が起きてるから、」
「いえ、弓親さん怪我してるんですから、ゆっくり休んでて下さいっ」
「・・・」
この二日間、華奈は一睡もしていない。
テントの中へ入って、弓親はそこにいる剣八、やちる、一角に首を振ってみせた。
「あいつ、なに焦ってんだ?」
「さぁ、でも、今日も怪我一つしなかったみたいだよ」
この二日間、華奈は一つも怪我を負っていない。
「華奈ちんすごいねぇ!」
「凄すぎだ馬鹿野郎」
いつもの華奈とは違う。
何か、どこかピリピリと神経を尖らせている姿が痛々しい。
「華奈」
「、鉄さん」
華奈の隣にドカリと座って、その大きな眼を見つめる。
「何をそない焦っとるんじゃい」
「焦ってませんよ?」
見上げてくるその頭に手を置いて、クシャリと撫でた。
「ここまで誰も死んどらん、恐ろしく順調じゃけぇ」
「はい」
「少しは休め」
「・・・でも」
「?」
眠れないんです。そう呟いて小さく笑う。
「どうせ起きてるんだったら見張ってた方が効率いいじゃないですか」
華奈は笑顔でそう言って、だから鉄さんも休んで下さいと背中を押した。
貴女は今頃何をしていますか。
怪我は、していませんか。
苦しくて辛くて、泣くことも出来ず、小さな背中を丸めて堪えているのだろうかと、心配で仕方がありません。
「華奈!」
破面の爪が華奈に向かって振り下ろされた。
なのに華奈は微動だにしていない。慌てて大きな声で呼んだその時、
「ぁ」
小さく声を出して、振り下ろされた爪を破面ごと八つ裂きにしてその血を浴びる。
プルプルプルと頭を振って、それはもう本当に犬が体を振って水を飛ばすような仕種で赤黒い血を飛ばし、袖でゴシゴシと拭う。
しかし、その袖さえも血で汚れていたため、さらに血を付けてしまう事になる。
「?」
頭の中で何かがちらつく。何だろうか。
「おい!なにボーッとしてんだよ!まだ終わってねぇんだぞ!」
「!はい!」
激を飛ばされて、弾かれたように刀を構えて前へ出る。
破面を切る度、血が飛び散って染み込んで来る。
変だ、匂いがしない。
あの薬みたいな、暖かい、あれ?
「どうかしたの?」
「いや、なんか匂いが」
「お前は返り血浴びすぎなんだよ!」
着物までガビガビじゃねぇかと一角にポカリと頭を叩かれ、あーと声を漏らしながら周りを見る。
「じゃぁ、あそこでちょっと洗ってきます」
そう言って川へ近づいていくとドプンと飛び込む。
「あいつ、どうしたんだ?」
「さぁ?」
川の中で立ち上がってスンスンと自分の匂いを嗅ぐ。
しかし、あの匂いはしない。
「?」
首を傾げながらずぶ濡れのまま帰れば、一角に怒られ、弓親には着物を乾かすから脱ぐように言われ、華奈の頭はスッキリしない。
「華奈、お前ほんまに大丈夫なんか?」
もう三日も寝とらんのじゃぞと射場に心配されるが、
「大丈夫ですって!今日も怪我しませんでしたもん!」
元気ですよと笑って、この日も見張りをかってでた。
「早く四番隊が来るといいね」
「あぁ?」
火を囲んでいる中、やちるが言った一言に剣八が眉をしかめた。
「なんだ、お前どっか怪我したのか」
「違うよ、あたしじゃなくて華奈ちんのこと!」
しかし、そういわれてさらにみんなは首を傾げる。
華奈の方こそ、どこも怪我をしていないのだから四番隊は必要ないではないかと言えば、
「んもー!みんな分かってないんだからぁ!」
やちるは頬を膨らませて、剣八の膝の上で腕を組む。
「四番隊の中にヤソッチがいるでしょ?」
「なんであいつがでてくんすか」
眉間にシワを寄せて言う一角に、やちるはため息をつく。
「華奈ちんは心配なの!こっちに来る時だって急だったからヤソッチに会えてなかったし、四日もたつのにまだこっちに来ないし」
心配で仕方がない。
せめて無事である事を知りたい。
私は、
「華奈ちん、ずっと待ってるんだよ」
あなたが来るのを待っている。ここで、待っている。
「はっ、本当にあいつは犬だな」
鼻で笑うように剣八がそう言えば、狛村が唸るように牙をむいた。
「その言い方は無いだろう更木っ」
「なにをむきになってんだ?」
犬っころと付け足して口角を上げれば、いがみ合う二人を射場と一角が止めに入る。
「でも、それにしても変じゃないですか?華奈の様子」
弓親はそんな二人を気にも止めずやちるに向かい合う。
「うん、溜め込んじゃって、るのかな?」
華奈ちんは、ヤソッチにしか甘えないからなぁと頬杖をついて、離れた所で座っている華奈の背中を見つめる。
華奈は、誰に頭を撫でれらようが、大切にされようが、甘えない。
弱いところを見せない。
「前はヨダレンだったけど、ヤソッチに決めてからはヨダレンにも甘えてないみたいだし」
もう本当に、華奈は伊江村に決めてしまったと言うことだ。
「華奈ち〜ん!」
「はい?」
大きな声で呼べば、こちらを振り返って駆け寄って来る。
「まだみんな寝ないみたいだし、お話してようよ!」
袴の裾を引っ張ってその場に座るよう促せば、そうですねと笑って大人しく座る。
「華奈ちん、今日も怪我しなかったんでしょ?すごいねぇ」
「いやぁ、すごいことは何も」
はははと頭をかいて苦笑した。
「ヤソッチに、怪我しちゃダメって言われたの?」
やちるのその一言に、みんながピタリと動きを止めて華奈を見る。
「ダメとは言われて無いですけど、出来るだけしなようにとは言われました」
「言われましたって、お前っ」
「はい?」
「まさか、だから今まで怪我しないように、しとったんか?!」
「?はい」
そんなこと、言われたからといってはいそうですかと出来るものではない。
「ここら辺は森だもんね、華奈ちんはこっちの方が動きやすいんだ!」
「そうですねぇ、何も無い所に比べたら、いくらかは」
「なんだ、お前森育ちか?」
「はい!学院に入るまでずっと森で生活してましたよ!」
その妙に野生児を思わせる雰囲気は本物だったかと、十一番隊のみんなは呆れのような息を吐く。
「その森で、一人で過ごしてたの?」
「いいえ、じいちゃんと二人でです」
森に捨てられた赤ん坊だった自分を拾って、死ぬまでずっと一緒にいてくれた祖父を思い出して笑えば、どんな人とやちるが眼を輝かせる。
「どんな、んー、見た目はぁ、そうですね、総隊長に少し似てて、中身は、花太郎みたいな、」
「じゃぁ優しい人だったんだー」
「優しくはありましたけど、スッゴく強くて、いっぱいゲンコツをしてくる人でしたよ」
熊を飼ってて、と言えば、みんなが「はあ?!」と驚きの声を上げた。
「熊って、あの熊か?!」
「はい、すごいでっかくて、そうですね、狛村隊長くらいありました」
巨大すぎじゃねぇかとみんなが驚愕している顔を見て華奈は面白そうに笑う。
「でも大人しくていい奴でしたよ!」
寝る時はいつも布団変わりになってくれて、冬は冬眠のためにいなくなってしまうが、だからこそ春が待ち遠しかった。
「私の物心つくころにはもう既に年寄りだったんで、そいつが先に死んじゃったんですけどね」
それから祖父と二人で過ごし、祖父が死ぬその時、
「死神になるように言われたんです」
自分が死んだら、お前は森を出て瀞霊廷へ向かい、そこで死神の学校へ入学しなさいと、そう言って頭を撫でてくれた。
そこで、探しなさいって言われた。
「お前は抜き身の刀みたいな奴だって、いつも言ってたんで、心配だったみたいです」
細く薄く、美しい曲線を描いた刀のような華奈。
曲がる事がなく、何でも斬る事ができるその代わりに脆く、簡単に折れてしまう弱い刀。
「学院に入ってから花太郎とかに会って、楽しかったですよ!」
花太郎は、一番華奈の求める鞘に近かった。
しかし、近いというだけで、鞘にはなれなかった。
まだ、若くて精神が成熟していない青い部分が残っていたから。
『お前が刀なら、鞘になってくれる者を見つければ、それでいい事だ』
パチリと焚火が跳ねて、眼をつぶったやちるを照らす。
華奈はその頭をそっと撫でてから抱き上げると剣八に渡して、
「お休みなさい」
そう言ってまた離れた所に腰を下ろして見張りに戻った。
「華奈のこと、そうとう可愛がってたんだろうね」
眼に浮かぶようだよと呟いて、弓親は眠るために眼を閉じた。