ブリーチ2(夢)

□カナ46
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「雀部副隊長!」
「これは、華奈七席」

一番隊の執務室、窓からヒョコリと顔を出したのは十一番隊の華奈。

「どこかへ向かっているのですか?」
「今うちの副隊長を探してるんです!見ませんでしたか?」

仕事をすべきこの時間。
しかし、この子供のような七席と、子供そのものの副隊長には、あまり関係のない事なのかもしれない。
いや、本来ならそれを咎めるべき二人の上司が一番の問題児のような男なのだから、もう何も言うまい。

「いえ、こちらでは見ていませんね」
「そうですかぁ、どこ行っちゃったのかなぁ」

窓枠に上半身を預けてポリポリと頬をかく姿は、少女というよりも少年といった方が近いかもしれない。
ふと、自ら調べた彼女と四番隊三席の事を思い出した。確か、調べた事の中にこの少女は頭を撫でられるのが好きだとあったはず。

「?」

手を出して、撫でてみた。
こちらをジッと見上げて来る少女と眼が合ったかと思えば、ニヘラと笑顔を向けられる。

「雀部副隊長に撫でられたの初めてですっ」
「そうでしたね」

なるほど、これは確かにいいかもしれないと心の中で呟いて、走っていく華奈を見送った。

「副隊長ー」
「あー?」

「あ、大前田副隊長」

こんにちはと頭を下げて挨拶してくる華奈を見下ろして腕を組む。

「で?」
「?」

「何だよ、さっき呼んだだろ」
「あぁ!違いますよっ、うちの、草鹿副隊長のことです!」

「なんだよ、紛らわしいな」

ははは、すみませんと笑いながら謝ってくる華奈の頭が眼下で揺れる。
そういえば自分の所の隊長もこのくらいだったかと思い出し、普段の非道な扱いも蘇ってくる。

「うわっ」

ググッと頭を掴んで下に押していく。

「なんですか?!痛い痛い!!」
「お前ちいせぇなっ、頭の位置が調度いいぜ!」

「ぬぁっ!沈むー!首がー!!」

首が揺れる。撫でるというよりもすり潰される勢いでグリグリと頭を押され頑張って抗うが、

「大、前っ、力強いー!」
「お前みてぇなチビに何で俺がこき使われなきゃなんねぇんだよ!」

「何のことですか?!」

そんな事してないですよ!とジタバタもがきながら手を掴んで上へ持ち上げようと頑張る華奈。

何だか、その姿に加虐心めいたものが湧き、慌てて手を離せば、

「大前田副隊長が因縁吹っかけてきたーっ!」

うわーんと走って逃げていく。
それを見送って、うちの隊長とは大違いだなと思った。

「花太郎ーっ」

前を歩いていた花太郎の背中に飛びつきながらうわーんと泣きつく華奈に、飛びつかれた花太郎は「うわぁっ!」と目の前にいた荻堂に倒れて行く。

「あれ、華奈七席だ」
「花太郎ーっ」

花太郎を間に挟んではいるが、荻堂はここぞとばかりに華奈へ手を回して抱きしめる。

「く、苦しいですっ、お、荻堂八席っ」
「まぁまぁ」

笑顔で花太郎の訴えを聞き流し、緩く笑って華奈の感触を楽しむ。

「うちの副隊長見なかったか?」
「く、草鹿副隊長ですか?いえ、ここでは見てませんよ」

「えー、本当にどこ行っちゃったのかな?」

花太郎に回していた手から力を抜いて向かい合わせになれば、荻堂も名残惜しそうに手を離す。と、

「あ、伊江村さん!」

パッと顔を上げて、主人を見つけた犬の如くそちらへ走って行き飛びつく。

「か、華奈七席っ、力がっ」
「はっ、すみません!」

背骨が軋まんばかりの力で抱き着かれたため顔を歪ませた伊江村に、慌てて力を抜いて大丈夫ですかとその顔を見上げる。

「力を入れすぎなければ、はい」

息を吐きながら安心したように華奈の頭に手を置けば、砕けたように、悪く言えば腑抜けのように顔を緩めて笑顔を深める華奈に、伊江村は首を傾げた。

そんな華奈の姿を見て花太郎は小さく笑い、荻堂は顔を背けながら口の中で舌打ちを一つ。

「そういえば、阿散井副隊長が何か用があると言っていましたよ?」
「恋次さんがですか?何だろう?」

頭の上に「?」を浮かべて首を傾げる。
そんな二人に、荻堂が後ろから近づいて華奈の肩に手を乗せて見下ろす。

「草鹿副隊長も探さなきゃいけないし、大変ですねぇ華奈七席は」

見上げれば、笑顔を顔に貼付けた荻堂がいて、

「大変ではないですよ!副隊長探してて色んな人に会いましたし!」

楽しいです!と真上を見上げながら笑い返す。

「やっぱり、いいなぁ」
「?」

抜けているというか何というか。この何も分かっていないような顔をして人の事をよく見ている所とか、柔らかい所とか。

「荻堂八席も副隊長見つけたいんですか?」
「そこじゃないんですけど」

今目の前にいるこの男だけを見つめているせいで、この心の中で膨らんでいる気持ちには一切気がついていない君が憎いような、愛しいような。

どんな顔をしていたのか、頭を撫でられた。

「僕ってやっぱり撫でられるんですね」

華奈七席は撫でられる方が好きなんじゃないんですか?と聞けば、

「撫でるのも好きですよ!」

笑顔で言われ、

「わー、じゃぁ得しちゃいましたねぇ」

やっぱり君は憎くて、どうしようもない程愛おしい存在だ。

「コホンッ」

一つ咳ばらいをして、伊江村は四番隊の執務室がある方を指差して口を開いた。

「草鹿副隊長なら、卯ノ花隊長の所にいらっしゃいましたよ」

今は隊主室でしょうと、華奈に教える。
それを聞いてありがとうございますと元気に手を振って走っていく姿を見届けてから、

「ヤキモチ」

呟けば持っていたカルテが垂直に振り下ろされた。

「なんですか、図星つかれたからって八つ当たりしないでください」

そんな二人のせめぎ合いを止めようと頑張る花太郎は、今日も心労が堪えない。
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