ブリーチ2(夢)

□カナ46
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「伊江村さーん!」
「ぐはっ」

腹にのめり込む勢いで抱き着いてきた華奈に何とか踏ん張って、倒れないように持ちこたえる。

「か、華奈七席、ち、力をっ」

メリメリメリと音が聞こえてきそうな程すりついて来る華奈に顔を歪ませながら、どうにかこうにか息を吸う。

「・・・あれは?」

それをたまたま四番隊の隊主室から見ていた総隊長が後ろに控えていた雀部に尋ねるが、そんなの雀部だって分かるはずがない。
二人で首を傾げた後、卯ノ花に聞いてみた。

「あぁ、もう見つかってしまいましたか」

隠していた訳では無いのですがと、窓の下でもがいている伊江村を見ながら微笑みを浮かべる。

「伊江村三席が、華奈七席の認めた方ですよ」

それはつまり、

「あの者が飼い主だと?」
「その言い方はあまり好きではありませんが」

しかし、見ていると違和感がない事に苦笑が漏れてしまう。

しばらく見ていれば、やっと華奈が伊江村から離れて隣を歩きはじめた。
見上げながら伊江村の周りを走り回るその姿は本当に犬そのもので、

「わしはってきり、婿かなにかじゃと思っとったんじゃがな」
「あら、その通りですよ?」

「なに?」

二人から顔を離して卯ノ花に向き直れば、やはり微笑みを向けて来ていた。

「早く二人が結ばれればとも思うのですが、こればかりは本人たちが乗り越えていくことですから」

それを聞いて、もう一度窓の外を見る。
しかし、そこにはもう二人の影もみえない。

「・・・その三席とは、どのような男じゃ?」
「そうですね、真面目に仕事に取り組む方ですよ。現場では前線で救護の指揮をとってもらっています」

その答えに山本は口をつぐむ。
聞きたいのはそんな答えではない。
卯ノ花も分かっていて望まれている答えとは違う事を返していた。

「私の口からお伝えしても、納得の行く答えは得られないでしょう」

どうぞ、ご自分の眼で。
そう言われて山本は雀部を引き連れ隊主室を出て行った。

「あ!山本総隊長!」

こんにちは!と駆け寄ってくる華奈の頭を撫でて、ぐるりと執務室を見回すが、先ほど見た三席の姿は何処にも無い。

「ふむ」

十一番隊の華奈が四番隊の男を選んだという事に多少驚きを感じているのだが、そこは表面には出さず自分を見上げて来ている華奈に向き直った。

「して、それから調子はどうじゃ」
「いつも絶好調ですよっ!」

「そうか」

その答えを聞いて頭を撫でる。
まるで孫を可愛がっているようにも見えるし、犬を可愛がっているようにも見える。
何だこれ。

「総隊長どこか怪我でもしたんですか?」

卯ノ花の所に来ていた事でそう思ったのか、こちらを見上げながら心配そうに首を傾げている。

「なに、ちと話しがあっただけじゃ。怪我も体調も崩してはおらん」

長い髭を揺らしながらそういえば、それはそれは安心したように顔を砕けさせて笑ってきた。

執務室にいる者たちは山本と普通に話している華奈を遠巻きに見て驚愕している。

以前、現世から帰ってきた時にお土産のロシアンルーレット饅頭を持って行こうか悩んでいたが、本当にそんなに仲が良かったのかと眼を見開いた。

「お主は、」
「私は書類提出です!」

手に持っていた書類の束を見せてくる。
そうかと言ってもう一度頭を撫でると、雀部を連れて四番隊を後にした。

「、華奈七席って怖いもの知らず、だよね」
「う、うん」

そんな隊士の声が聞こえたとか聞こえなかったとか。


華奈の力が計り知れないという事は、藍染との戦いに参加した者達ならばみんなが知っている事だった。

しかし、知っているというのは知識としてだけで、実際その眼で見たものは誰ひとりとしていない。
平隊員の中にはこの事を知らない者もいる。ただ、十一番隊の七席は四番隊の三席にとても懐いているという事が知れ渡っていくだけだった。

「以上が、調べた限りで分かっていることです」
「うむ」

雀部が報告書を読み上げて山本に向き直る。

「聞く限り、人格、品行どちらも問題はないようじゃな」
「はっ」

いったいどれ程の力を秘めているのかも分からない華奈が選んだ男。
その男に全てを委ねるというのなら、調べなければならない。

本来ならそんなことは個人の自由と見守るべきなのだろうが、今回はそうも言っていられないのだ。
この世界だけではない、現世までもを巻き込んだ事件を起こした藍染という前例があるだけに。




華奈は思う。じいちゃんが言っていた言葉は本当だなと。

「伊江村さんっ」

伊江村の自室で、本を読んでいる伊江村に抱き着いて擦り寄れば、

「どうしました?」

細くて大きな手で撫でられて、華奈は嗚呼と眼を閉じる。

「大好きです、だーい好きです」

甘えるようにその胸へ頬を寄せ、眼を閉じた。
そうすれば背中を支えるように撫でられて、子供のように抱き抱えられる。

「伊江村さん」
「もう寝ましょうか」

閉じていく瞼を見て緩く撫でながら聞けば、首に腕を回して顔を近づけその小さな口で口づけを、

「だーい好きです」
「私も、ですよ」

『お前は鞘を探すべきだな』

じいちゃんが言ってた言葉を思い出す。

「伊江村さん」
「はい」

この手で撫でてくれたら、もう何もいらないと、私は思うのです。
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