ブリーチ2(夢)
□カナ43
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「死神が来たぞー!!」
ズガンッとかまされたドロップキックをもろに背中へ喰らった伊江村は前のめりに倒れ込む。
「こ、こら!お前たちなんてことをしてるんだ!」
「へっへー!」
こちらを馬鹿にしたように手を振って見せる子供が数名。それを咎めている男が一人。しかし、子供たちはまったくその男の言葉を聞いてはおらず、
「今伊江村さんにキックかました奴、前に出て来いっ」
額に血管を浮き上がらせながら指をバキバキと鳴らして仁王立ちした華奈が前に出た。
「いやぁ、子供達が申し訳ありませんでした」
「い、いえ」
着物についた土を払い、この施設の責任者らしい老人に向き直る。
「卯ノ花様からは聞いていますよ」
ニコリと笑って、施設の中を案内するために歩き始めた。
「ここはもともと私が住んでいたただの家だったんです」
こちらにやって来た子供、生まれたけれど親に捨てられたか死に別れた子供を引き取って一緒に住むようになれば、いつの間にか大所帯。
「いまだって、別に施設と名乗った事は一度もありません」
「そうなのですか?」
「はい」
老人は優しく笑って伊江村を見上げる。
「もう大分前になりますか、あの山に薬草を取りに来た卯ノ花様がたまたま私たちに気づかれて、」
時折様子を見に来てくれるようになったのですよと、眼を細める。
「捕まえたぞコラー!!」
「うわー!山猿ゴリラ女ー!!」
「誰が猿じゃ!!」
子供の襟首を掴み持ち上げて怒鳴る華奈と、仲間を助けようと向かっていくが返り討ちにあっている他の子供達。
それを見て、老人は声を上げて笑った。
「今日は何やら元気なお供もご一緒で」
「はは」
もう、渇いた笑いしか出てこない。
老人に卯ノ花から預かっていた薬などが入った袋を渡す頃には、すっかり仲良くなった華奈と子供達が庭で遊んでいた。
「お前つえーな!女なのに!」
「女だからってナメんなよ!男よりも強い女なんていっぱいいるんだぞ!」
特に瀞霊廷の中なんか五万といるぞと言えば、「へー!」と眼を輝かせて声を上げる子供達。
「華奈は死神なのか?」
「もちろんだ」
「でも、黒い着物着てないな」
あのヒョロイのみたいなと伊江村を指差す一人にデコピンをして、笑って見せる。
「今日は休みで、たまたま伊江村さんを見つけたからついて来ただけだしな」
だから、普段は死覇装だって着てるんだぞと苦笑する。
優しい、柔らかい笑顔で伊江村の名前を呼ぶ華奈に、子供達はムスッとして口を尖らせた。
「華奈はあれが好きなのか?」
「あれって、伊江村さんの事か?ちゃんと名前で呼べよ」
「っ、いいだろ!伝わるんだから!」
意地でも伊江村を名前で呼びたくないのか、抵抗し続ける子供たちに華奈はため息を吐いて諦めた。
「好きだよ、大好きだっ」
この世界の中で誰よりも。
「華奈七席」
伊江村が華奈を呼べば、弾かれたように顔を上げてそちらに向かう。
「もう帰るんですか?」
「えぇ、預かっていた物も届けましたし、暗くなってから森を抜けるのは危ないですから」
「そうですね!」
ニコリと笑って伊江村を見上げている華奈が、気に喰わなかった。だから、
「おっと」
「っつ!」
高くジャンプして背中に足を突き刺そうとしたのだが、避けられた上に空中で担がれた。
「伊江村さんスゲー!」
「そう何度もは流石に」
屈辱感が満ちていく。
という事で、男なら誰だって痛い場所を攻撃して逃げてやった。
「テメっ、この!!」
「うっせー!もうとっとと帰れよ!!」
「謝れコラー!!」
「なんか、元気が有り余ってるって感じの奴ばっかでしたね!」
「そ、そうですね」
よくわからないまま、あの家にいた子供達に敵視されてしまった伊江村は大事な所が大丈夫かとても心配だ。
二人並んで森の中を進んでいく。空はまだ明るい。
「日が大分長くなりましたね」
「そうですねー!暖かい日も増えてきましたし、もう春ですね!」
華奈は笑顔で伊江村を見上げて言う。
なぜだか、そう、理由は分からないが、華奈が春と言った時、なぜだか引っかかった。
何が、引っ掛かったのだろう。
そっと、手を握られたのでそのまま手を繋いで歩いていく。華奈は楽しそうに周りを見たり、こちらを見上げて話しかけたりして来る。
「森の中を散策してた時とか、もう花の蕾もついてて」
「それは、開くのが楽しみですね」
「はい!」
なぜだろう。なぜ、
「華奈七席」
「はい?」
「・・・いえ、」
泣くのを我慢しているように見えるのだろう。
手を繋いだまま瀞霊廷へ戻ってきて、そのまま四番隊舎へ向かった。
「あれ、華奈さん」
「オーッス!」
普段着のまま四番隊の執務室へ入ってきた華奈に、花太郎が首を傾げながら近づいていく。
「森で遊んでたら伊江村さんに会ってさっ、そのまま一緒に帰ってきた!」
笑っている華奈に、花太郎は一瞬表情を固くしたが、何もなかったように首を傾げて笑いかける。
「森の様子は、どうでしたか?」
「ん?もうすぐ春だなって感じだったよ!花も咲きそうだった」
「そうですか」
それはよかったですねと言って、華奈の手を取って執務室を出ていく。
伊江村はそれを見送ってから卯ノ花がいるであろう隊首室へ向かい報告をしていった。
「そうですか、変わりは無いようで安心しました」
それで?と微笑まれる。
「それで、と申されますと、?」
「先程華奈七席の霊圧を感じました。共に行ってきたのでしょう?」
その微笑みにはありありと進展はあったのかと書いてあって、伊江村は慌てて首と手を横に振る。
「な、何を誤解されているのですか!たまたま森の中であっただけでっ」
「あら、森の中で?」
「そ、そうです!!」
卯ノ花の頭の中では、伊江村がルコンガイの外れまで出かけるから華奈を誘って出かけた、という筋書きになっていたのだが、どうやら宛てが外れたらしい。
「華奈七席は森で遊ぶ事がよくあるようでっ、今日っ、たまたま非番だったため森でばったり!」
たまたまをとても強調して言ってきた伊江村に、つまらないとでも言うようにため息をついて窓の外を見た。
「確かに、もうすぐ春ですものね。眠っていた動物たちも起き出して、森も楽しくなって来る頃でしょうか」
もともと野生児のような華奈だ。
その陽気な雰囲気に誘われて行っても不思議はないかと眼を細めて笑う。
「・・・動物たち?」
「えぇ、冬眠から目覚めて、活動を始める季節です」
今度薬草でも取りにまた山へ行こうかしらと微笑んだ卯ノ花のその言葉を聞いて、伊江村は顔を下げる。
華奈がなぜあんなに泣きそうに見えたのか分かってしまった。
先程、花太郎に連れていかれた時、一緒に森を歩いている時、なぜ気がついてやれなかったのか。
失礼しますと頭を下げて隊首室を出ると足早に外へ向かった。
華奈と花太郎の霊圧を探り、見つけだす。
君は今、泣いているのだろうか。