ブリーチ2(夢)

□カナ42
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今、救護詰所の一室の前で、何人もの四番隊の隊員たちとそこにたまたま居合わせた他隊の患者、もしくは見舞いに来ていた隊士たちが立ち止まって顔を赤らめていた。

「ひっ、」
「怖いなら眼を閉じていてもらって構いませんから」

「す、すみませっ、でもっ」

扉一枚隔てた向こうから聞こえてくる四番隊士ならば聞き慣れた伊江村三席の声と、十一番隊士の華奈の声。

「いっ!!」
「痛かったですか?」

「だ、大丈夫っ、です!」
「もう少し我慢してください、こうしておけば、後から楽ですから」

「っ、はい」

二人が付き合っているという話しは聞かないが、華奈がものすごく伊江村の事を好きだというのは周知の事実。
伊江村だって男なのだから、こういう事になったっておかしくはない。

しかし、こんな真昼間の、それも自分が勤めている職場でしなくても良いだろうと、思っても口には出せない。
そして、この扉を開けて行為を止める事も出来ない。

という訳で、みんなはそのまま事が進んでいくのを扉の前で聞いているのだ。

「な、なんか」
「こうしてると、伊江村三席が男の人なんだって、思えてきた」

「うんっ」

失礼なことを言っているが、その言葉に頷いたのは一人や二人ではない。
普段、男として全く眼中にも入れていなかった人物だが、改めてこういう場に立ってみるとやはり男なのかと思い知らされる。

「華奈七席」

しかも、なんか落ち着いて聞いてみるといい声じゃないか?と、何人かの女性死神たちが顔を見合わせた。
普段は喚いたり何か独り言を言って怒ったりしているが、

「大丈夫ですか?」
「は、はい」

優しくて落ち着きのある大人な感じじゃない?と頬を染めていた。

「うわー、何盛っちゃってんですか?あの眼鏡」

はははと、恐ろしいほど真っ黒なオーラを背中に背負って前へ出てきた荻堂に、みんなは怯えて一歩下がる。

まさか、もしかしなくてもその扉を開けるつもりなのかお前っ!とみんなが静かに慌てた。

「マジで有り得ないですねー。ほんと、勘弁してほしいですよ」

笑顔が怖い。なにあいつ。
八席なのに三席のこと眼鏡とかあいつとか扱いがいつも以上に酷くなってるけど?!

「どうしてやろうか、十一番隊に引きずってってあることないことまくしたてて晒してやろうか」

どんどん口調が変わってきてるー!!

みんながガクガク怯えて荻堂から距離をとっていると、

「あれ、みなさんどうしたんですか?」

この場にそぐわない柔らかい、悪く言うと気の抜けた声がかけられた。

「いえ、伊江村三席がちょっとマジで勘弁しろよって事をこんなとこでやりやがりだしたので、どんな方法で葬ったらいいのか考えてた所です」

荻堂ー!!

「へ?伊江村三席が、ですか?」

首を傾げていれば、

「はうっ!」

聞こえてきた華奈の息を呑む声。

「華奈さん!?」

そう言って、おもむろに扉へ手をかけて引いた花太郎に、みんなが「あー!!」と叫んで止めようとするが、時既に遅く

「大丈夫ですか!?」

開け放たれた扉の向こうの光景が飛び込んで来た。

「あぁ、やっと来ましたか」

「山田七席」そう言って立ち上がった伊江村の着物は一切乱れておらず、

「は、花太郎ヘルプミー!」
「い、今治しますから!!」

華奈も衣服を乱してはいない。
いや、袖を片方だけ捲って肩まで上げてはいるが、それは決して生々しいものではなく、

「うう、隊長の馬鹿力のせいだ」
「骨には異常ありませんでしたが、多少心配な箇所がありますね」

「折れてないんだったらすぐに治りますよ!」
「ありがとうーっ」

半泣きになりながら礼を言って赤黒く腫れ上がっている腕を差し出してきた。

みんなの心は一つだ。

腕の様子診てただけかよ!!紛らわしいんだよ!!!

「なーんだ、傷の具合を診てただけですか」

僕はてっきり伊江村三席が抑え切れなくなって華奈七席をここに連れ込んだのかと思いましたよはははと、部屋の中に入りながら笑う荻堂。

「ばっ、するわけないだろそんなこと!!」
「いやー、世の中何があるか分かりませんから」

実際みんなそう思ってた訳ですしと、入口で折り重なるようにこちらを見ているみんなを指差してみせた。

「・・・君たち」
「す、」

「すみませんでしたー!!」

わー!!と声を上げながら散っていくみんなを見て、ため息を吐いてから伊江村も扉へ向かう。

「では、私は先に行きますね」
「あ、はい!」

「ありがとうございました!」

頭を下げて見送る花太郎と、礼を言って手を振る華奈に見送られて伊江村は部屋を出て行った。
扉が閉まるのを見届けてから、荻堂は華奈に近づいてしゃがみ目線を合わせる。

「華奈七席は伊江村三席に治療してもらわないんですか?」
「はい、やっぱり治してもらうなら花太郎が良いんで!」

「あんなに好きって言ってるのに?」

首を傾げれば華奈も首を傾げてきて、

「好きと治してもらうのは、違いますから?」

疑問形で返ってきた答え。

「あれですかね、僕は主治医で、華奈さんが好きになったのがたまたまその上司だった、みたいな」

「おー!それがしっくりくるな!!」
「・・・ふーん?」

好きなら、それを治してあげられる技術があるなら、僕だったら他の男がその人に触れるのだって嫌だと思うけど。

そこまで考えて、あぁと膝に乗せていた腕に顔を埋める。

(こういうとこで、負けてるって思うなんて)

好きで、大切にしたい相手が、命をかけて通したい意地を、

(嫌だなぁ)

お願いすれば、華奈はきっとその意地を捨ててくれるだろう。
しかし、それは同時に信頼を寄せている相手を裏切れと言っているという事で、だから、伊江村はそうしてくれとは言わないのだろう。

でもやっぱり心配だから、華奈が許す範囲で確かめていたのだ。

どれ程酷い傷で、どのくらいの時間と器具が必要なのか。
治す花太郎がすぐにでも取り掛かれるように。

「荻堂八席?」
「いえ、ちょっと、」

僕って自分が思ってたよりも子供だったんだなーって。そう言えば、フワリと頭に手を乗せて撫でられた。

「じゃぁこれから大人になるんですね!」

「子供は可能性の塊って聞いたことありますよ!」と、君が幼い顔で笑ってくるから、

「そうですね、幼虫もサナギっていう過程から蝶になる訳ですし」
「私は甲虫がいいなー!強そうだ!!」

「華奈七席らしいですねぇ」

僕はやっぱり、君を諦められないまま、頑張ってあの眼鏡よりもいい男になろうと思ってしまうんだ。
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