ブリーチ2(夢)

□カノン41
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それは偶然だった。

仙太郎が書類を他隊へ届けるために走っていた時の事、

「花音さん」

聞こえてきた愛しい人の名前に、進めていた足を緩めて声がした方を見る。

「ごめんね、ありがとう」
「大丈夫ですか?」

「うん、あ、でも鼻緒が切れちゃった」

そこには花音と少年がいて、

「ここからだったら四番隊の方が近いですから、」

そこでだったら予備の草履を貸す事が出来ますよと言う少年に、うんと頷いて謝罪と礼を述べている花音の姿。

「じゃぁ、そこまで僕の草履で我慢して下さい」
「そ、それはいいよ!花太郎くんが怪我しちゃう!」

「あはは、大丈夫ですよ、怪我しても僕自分で手当て出来ますから」

しばらく言葉による攻防を繰り返して、折れたのは花音の方だった。

「ご、ありがとう」
「いえいえ」

一度謝ろうとしてその言葉を飲み込み、再び礼を述べて二人で四番隊舎へ歩いて行った。

手を繋いで。



「ど、どうかしたのか?仙太郎っ」
「なんでもありません!!」

「そ、そうか」

十三番隊の執務室。
今日は体調が良いと言うことで久々に浮竹も机の前に座っている。
だからいつも以上にはかどっている書類仕事。なのに、なのに仙太郎の心は晴れない。

先ほど見た光景が頭から離れないのだ。

この日、仙太郎は無心で仕事に没頭した。そりゃもう浮竹と清音が引くくらい没頭した。

そして就業時間。

「じゃ、じゃぁあたし先に上がるから、」
「おー」

机に突っ伏している仙太郎は顔も上げず手を振って来るだけだった。

「仙太郎、何かあったんですかね」

清音が隊舎の入口へ歩いている道中浮竹を見上げながら少し後ろを振り返り話す。

「あぁ、途中から急に、だったからな」
「はい」

二人で首を傾げながら歩いていれば、

「あれ?」

入口のあたりでどこか忙しなく行ったり来たりを繰り返している不審な人影を発見した。

「君は、」
「!う、浮竹隊長に虎徹三席!こんばんは!」

勢いよく頭を下げるのは話題に上がっていた仙太郎と付き合っている花音だった。

「どうしたんだ?こんな所で」
「あ、え、そのっ、せ、こ、小椿三席は、まだいるかなって、思って」

一気に顔を赤らめて吃りながらそう言ってきた花音に、浮竹は小さく笑って隊舎の執務室がある方を指す。

「執務室にまだいると思うから、行ってみるといい」
「え!?で、でも、私っ、仕事とかで来た訳じゃなくてっ」

だからここで戸惑っていたのかと清音は納得して笑う。

「もう就業時間だし、気にしないで行っておいでよ!」
「あ、ありがとうございます!」

礼を言って頭を下げ、小走りに執務室へ向かう花音の後ろ姿を見ながら清音は眉間にシワを寄せる。

「なんであんなに可愛い人が仙太郎を選んだのか分かりません」

その言葉に、浮竹はコラコラと眉を垂らした。



「し、失礼します」

そっと開けた執務室の扉。しかし、返事はない。
入れ違いになってしまっただろうかと中を見回すと、机に突っ伏している仙太郎の姿があった。

(疲れてるのかな・・・?)

そっと近づいて顔を覗き込む。眼を閉じていて、こちらに気がついている様子はない。

「仙太郎さん?」

疲れているのなら、ちゃんと部屋で休んだ方が良いだろうと名前を呼べば、ものすごい勢いでガバッと顔を上げて立ち上がってきた。

「ご、ごめんなさい!」

反射で謝ってしまったが、仙太郎は眼を見開いて花音を凝視していた。

「か、花音さん?!」
「ごめんなさい!起こしちゃって!あ、あのっ、休むならちゃんと休んだ方がいいと思って!あの!!」

わたわたと手を振りながら早口でしゃべるのはやはり花音で、見間違いや幻ではない。引き寄せて、その腕の中にしまい込む。

「ふぁっ!」

変な声を上げてしまったが、仙太郎はそれすら聞いては居なかった。

力強く花音を抱きしめて、首に顔を埋める。

「花音さん、これから暇ですか」
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