ブリーチ2(夢)

□カナ39
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部屋に帰って、いつも日記をつけているノートを開くと思いの丈をぶちまけていく。

せっかくの誕生日、部下たちから(華奈が出ていって落ち着いてから他のみんなも祝ってくれた)おめでとうと言われ、浮かれてもいいだろうに!ぷるぷると震えてから大きなため息を吐いて風呂へ向かった。

華奈は、今日が自分の誕生日なのだと言うことを知らないのだろう。
知らなくて当然だ。

話したことなど無いのだから。

もう一度大きく息を吐いて、トプンと湯舟に浸かっていく。

風呂から上がると、眼鏡をかけることなく着流しを身につけてソファーに沈む。
あぁもう、このまま寝てしまおうかと考えながら眼をつむっていると、寝室の方からカタッという音が聞こえてきた。
まさかと思いながらも勢いよく体を起こして寝室へと続く襖を開けた。

「お、お邪魔、しますっ」

伊江村の勢いに驚いたのか、窓から片足だけこちらに入れた状態でそう返してきた華奈の姿が、そこにはあった。

まさか、来るとは思わなかった。

華奈は時々こうやって伊江村の部屋に来るようになっていた。
来ても何かする訳でもなく、二人で並んで寝て、朝には帰る。
そんな事は、今では日常にさえなって来ている。しかし、今日も来るとは思わなかった。

「え、っと、あの、今日は、まずかった、ですか?」

いつもと違う伊江村に、華奈は視線をさ迷わせながらうろたえる。
その姿を見てやっと我に返った伊江村が慌てて首を横に振った。

「い、いえ!ただ、来るとは思ってなかったので」

「蛇は、どうしたんですか?」と聞くと、伊江村が驚いていた意味がやっと分かったのか、安心したように体を全部部屋の中に入れてきた。

「友達に水槽を借りて来たんで、今は部屋にいますよ」
「本当に春まで世話する気ですか?」

「まぁ、今放したら死んじゃいますし」

この寒空の下、森に返したって食べるものもろくになく、なおかつ寒さに弱い生き物をほうり出す事も出来ないからと苦笑を浮かべて頬をかく。

「あの、伊江村さん」

呼ばれて顔を向ければ、どこか落ち着きなく見上げてきた。

「その、一角さんに聞いて、やっぱりしないほうが良いのかなとも思ったんですけど」
「はい?」

今、十一番隊三席の名前が出てくるのは何故だそうか。

「でも、言うだけでもしたいなって、思って」

チラリと壁にかけてある時計を見ると、また伊江村に向き直って、

「お誕生日、」

ボーンと、重いけれど心地好い低い音が部屋に響いていく。
しかし、伊江村の耳はそれとは違う高い声を拾いとっていて、時計の音がやたらと遠く聞こえた気がしていた。

「おめでとうございます」

あなたが生まれてきてくれた日。

その日が四年に一回しか無いというのなら、せめてほんの一瞬だけでも、ゼロが一に変わるその一瞬だけでも、この人が生まれた日だと思わせて。

恥ずかしそうに見上げてくる華奈に、胸が詰まる気がした。

身を屈めて、華奈の顔に近づけて指で唇を撫でる。

「ありがとうございます」

どんな物をもらうよりも、君が言ってくれるその一言に勝るものはない。

礼を言って、口づけをする。

あぁ、生まれた事に感謝しよう。

「ん、っふ」

角度を変えて何度も口づけていけば、息が上がってきたのか着物の合わせ部分を掴みながら胸を軽く押された。

「嫌でしたか?」

華奈の手を取りながら聞けば、それは違うと首を横に振って来る。
顔を真っ赤にして見上げてくるその姿が、なんとも可愛らしい。

「こ、こんなキス、は、初めて、で」

戯れのようなキスをする事はあっても、今のように熱が込もっているものはしたことが無い。
華奈の言葉を聞いて、伊江村は華奈を抱きしめてその頭に顔を埋める。

(何でこんなに可愛いんだっ)

悶えんばかりの思考をなんとか言葉にしないように押さえて、伊江村はもう一度、触れるだけの口づけを贈る。

君が好き、何千、何万、何千万回でも、それを伝えて、心からの祝福を。

今日は君を抱きしめて、深く深く眠って、産道を通ったあの日の夢を見よう。
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