ブリーチ2(夢)
□カナ39
1ページ/2ページ
「んー?」
華奈は考えていた。執務室にある自分の席に座り、腕を組んで首を傾げながら唸る。
「うんうんうるせーな、なんなんだよ」
一角にそう言われるが、華奈は唸ったまま一角の方に顔を向けて口を開く。
「閏年の人って、その年じゃない時の誕生日っていつお祝いするんですか?」
「あー?」
「だって、閏年って四年に一回じゃないですか」
だから、祝うにしてもその前後になってしまうから、それなら前と後のどちらの方がより近いのだろうと質問され、一角はくだらないとため息を吐く。
「しらねーよ、四年に一回なんだから、その時がくるまで祝わなくていいんじゃねぇか?」
「えー、それは味気ないじゃないですか」
「つーか、いきなり何でそんな事で悩んでんだよ」
何気ない、本当に何気ない質問だった。
「伊江村さんが閏年生まれなんですよ!」
「だから気になって!」と、幼い笑顔を向けられて華奈と話していた一角以外のみんなもピタリと動きを止めた。
「いつ祝ったら良いんですかねぇ?」
また首を捻りながら腕を組んで机を睨みつける。
「華奈」
「はい?」
「閏年の奴の誕生日は四年に一回だ」
「だからそれじゃ味気無い、」
「考えてもみろ、誕生日でもねぇ日におめでとうって言われて嬉しいか?」
そう言われ、考えてみる。
嬉しくないという訳では無いだろうが、何とも微妙な気分にはなるだろう。
「えー、じゃぁ昨来年までなしかぁ」
単純な華奈は、一角が言ったこの一言で納得してしまったらしくちぇっと口を尖らせた。
華奈が伊江村の事を物凄く好きなのは分かった。
この前酒の席で嫌と言うほど味わった。
しかし!だからといって可愛い妹分が男といちゃつくのを良しとしている訳ではない。
些細な嫌がらせくらい許していただこう。
何だか、ものすごい視線を感じる。
それもマジで殺してやろうかという殺気が込められている視線を。
「なんなんだっ」
伊江村は自分の机に突っ伏して頭を抱えていた。どうも最近やたらと十一番隊から睨まれている気がしてならない。
いや、睨まれるなんて今に始まった事ではないのだが。
こうして、伊江村の心労の絶えない日々は続く。
2月28日
いつものように仕事を終えて机の上を片付けていれば、花太郎が近づいてきて声をかけてきた。
「あの、伊江村三席」
見れば包みを持っている花太郎が怖ず怖ずとそれを差し出してくる。
「お誕生日、おめでとうございます」
「・・・は?」
間抜けな声を出してしまった。
しかし、花太郎はもじもじと包みを机に置いて「あの、何がいいか分からなかったので、」と少し恥ずかしそうに話し出す。
お前は女子かと言いたい。
「あー、山田七席、もう渡しちゃったんですか?」
僕が先に渡そうと思ってたのにと、荻堂も何やら小さな箱を手にやってくる。
「ほらほら〜、開けてみてくださいよー」
「なんでちょっと上から目線なんだ」
しかし、まさか自分の誕生日を祝おうとしてくれるとは思っていなかった伊江村は、荻堂に手渡された箱の蓋を開けようと手をかけた。そして、
「どわぁ!」
「うわぁ!」
「まぁ、中身は毒蛇ですけど」
ニュルっと出てきた毒蛇に慌てて後退る。
「お前はっ!私を殺す気か!!」
ちょっとでもお前を信じようとした私が馬鹿だったと掴みかかれば、まさかと笑って返された。
「大丈夫ですよ、念のために解毒剤も用意してましたから」
ほらと小さな瓶に入っている液体を揺すって見せてきて、はははと伊江村の机の上で動いている蛇を見る。
「可愛がって上げてくださいね」
「飼うか!こんな危ないものを部屋に連れて帰れる訳ないだろ!!」
「人からの好意を無下にするなんて、ろくな死に方しませんよ」
「好意だったらな!」
これは悪意だろ!と、舌をチロチロ出している蛇を指差して騒いでいれば、
「お邪魔しまーす」
執務室の入口から入ってきた華奈がこちらに寄ってくる。
「どうしたんですか?あー!なんで蛇がこんな所に?!!」
ちなみに、執務室に残っていた隊員たちは壁際に避難している。
しかし、華奈は臆する事なく騒いでいる三人に近づいていき、蛇を覗き込もうと身を屈めた。
「ちょっ!華奈七席!危ないですから!!」
「それ毒蛇ですよ!?」
「大丈夫だよ、何もしなかったら噛み付いて来ないって!」
はははと笑って蛇に近づいていく。
「華奈七席って蛇とか怖くないんですか?」
「はい!森とかで遊んでたらそこら辺にいますし」
「森とかで、遊んでるんですか・・・?」
「副隊長を探しに行ったり、隊長から逃げてる時に避難したり、」
非番の日に出かけたり、結構頻繁に行ってますよと返してくる。
この子の普通って何だろう。
みんながそう思ったその時、
「っ華奈七席!!」
蛇が口をカッと開けて華奈に飛び掛かってきた。
伊江村が咄嗟に手を伸ばして華奈を引き寄せようとしたのだが、それよりも蛇の方が早い。
息を飲んで、全てがスローモーションのように流れていくのを見ている四番隊のみんな。しかし、
「こら、噛んじゃダメだぞ」
パシッと飛んできた蛇の首を空中で掴みぶら下げる華奈。みんなは呆気に取られた。
「こいつ、誰かのペットですか?」
華奈の腕に体を巻き付けて反撃してくる蛇を気にも止めていないのか、華奈は伊江村たちを振り返って見上げてくる。
「僕が伊江村三席にプレゼントしたんです」
「じゃぁ、伊江村さんが飼い主?」
首を傾げながら伊江村に顔を向ける。
「ち、違います!飼いませんこんな危険物!!」
「せっかくプレゼントしたのに」
「ただの嫌がらせだろうが!!」
蛇を持ったまま言い争う二人を眺めて、手の中でもがいているそれに顔を近づけてニパッと笑う。
「今の時期に森に帰っても食べるものも無いし、冬が終わるまで私のとこにいるか?」
「?!」
驚いたのは伊江村だけではなく、花太郎もだ。
「か、飼うんですか?!」
「いや?春になったら返すから、預かっとく、かな?」
「それとも保護?」と首を傾げて蛇を見ながら笑う。
「そうと決まれば、花音に頼んで水槽借りなきゃな!お邪魔しましたー!」
叫んで、華奈は執務室を出て行った。
「華奈七席って逞しいですよね」
「!、!!」
頭を抱えて、伊江村はこのやるせない気持ちをどうにか押し込めた。