ブリーチ(夢)
□カナ38
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なんだかフワフワした感覚の中、華奈は眼を覚ました。
「起きましたか?」
「あれ、伊江村さんだ」
周りを見回せば、そこは華奈の部屋で、花太郎の姿はない。
「山田七席なら、二日酔いの薬を取りに行っている所ですよ」
戻ってくるまで、自分が華奈の様子を見ていたのだと言う伊江村に、そうだったんですかと呟いて、ありがとうございますと礼を言ってきた。
「どこか、辛い所はありませんか?」
「今のところは、」
「そうですか」
さらりと華奈の髪を撫でて、伊江村はその顔を見つめる。
すると、華奈が伊江村の手を握ってきた。
「何か、あったんんですか?」
「・・・どうして、ですか?」
聞けば、上半身を少し起こして伊江村の頬に手を添えてくる。
「なんか、泣きそう?」
「そんな顔を、していますか?」
身を屈めて、華奈の顔に顔を近づけていく。
チュッと、華奈の瞼にキスをして、その眼を覗き込んだ。
「悲しい訳では、ないんですが」
「なら、よかったです」
柔らかく笑った華奈の唇に口をつけて、そのまま布団に寝かせる。
「このまま、眠ってしまった方が楽ですよ」
そうすれば、明日の朝には何もかもがいつも通りにもどっているから。
「おやすみなさい」
君が好き。
君は知らないけれど、知らせるつもりもないけれど、もう何十年も前から、僕は君を見ていた。
あの日、泣いている君を見て、手を伸ばしたくなったのを覚えている。
抱きしめて、好きなだけ甘えさせて、いつか、また笑ってくれたらそれでいいと、思っていた。
笑顔に、僕ができたらと思っていた。
「愛しています」
脆くて繊細で、逞しくて大胆で、みんなを笑顔に変えていく君が、好きです。
大好きです。
愛しています。
「華奈さん」
その小さな体で、また世界を動かして行ってください。
疲れたら、いつでも休みに来て、甘えていって下さい。
その役割を、他の誰にも渡さずに待っているから。