ブリーチ(夢)
□カナ37
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私は、きっと何回だってあなたに恋をする。
現在、十一番隊舎の庭では宴会が行われている。それも、
「まぁ、こんなに賑やかな宴会は久しぶりです」
「宴会なのに盛り上がらねぇのかよ、あんたんとこは」
剣八に冷たい微笑みを向けながら酒を飲んでいる卯ノ花。
そう、華奈が言っていた四番隊も交えての宴が開かれているのだ。
庭では、綺麗に真っ二つに割れたように座っている四番隊と十一番隊がいて、その様子を見ながらどうしたものかと考える両隊長。
いや、考えているのは卯ノ花の隣にいる虎徹副隊長だけで、二人の隊長はそれぞれ隣同士で座っていながら我関せずを貫いている。
しかし、
「花太郎ーっ、食ってるか?!」
十一番隊だろうが四番隊だろうが、気にせずその目に見えない線を軽々と越えていく少女が一人。
「あ、はい、この煮物美味しいです」
「花太郎は飲めないからな!いっぱい食えよ!」
ほら!と料理がどちゃりと乗った皿を花太郎の前に置きながら笑う華奈に、苦笑しているような笑顔を返してありがとうございますと礼を言う。
「華奈七席はお酒強いんですか?」
「んー、そんなに強くはないですけど、飲むのは好きですよ!」
やって来た荻堂にそう答えて、華奈は酒を手に持ってみせる。
「荻堂八席は飲めますか?」
「はい、ちょっとだけですけど」
「じゃぁ注ぎますよ!」
「はい!」と構えてくる華奈に、えっと止まる。
「普通、僕がするんじゃないんですか?」
七席の華奈よりも荻堂の方が立場としては下なのだからと言えば、あははっと声を上げて笑う。
「こういう時はそんなの気にしちゃダメですよ!」
普段から席次を気にしていないけれど、とは口にしない。
じゃぁと酌をしてもらっていれば、十一番隊が固まって騒いでいる方から声がかけられてきた。
「酒が無くなってきたぞ!」
「持ってこいよ!」
その命令とも思える言葉の迫力に、あぁやっぱりこうなるのかと四番隊がため息を吐いたその時、
「酒ならそこにいくらでもあるんだから自分達でやれ馬鹿ども!」
カーンとお猪口を投げながらそう言って、
「まったく、めんどくさがり共め」
肩を竦めて立ち上がり、フツフツと湯が沸いている大きな平たい釜の所へ行って熱燗を作りはじめた華奈。
「熱燗飲む奴いるかー?まとめて作っちゃうから本数言えー」
「七席自ら!?」
慌てて止めに入る十一番隊の平隊員たち。しかし、華奈は駆け寄ってきた数名にキョトンとした顔を向ける。
「なんだ、熱燗くらい作ってやるぞ?」
簡単だからなと言えば、やるから!自分達がやるから!と釜の前から退かされてしまう。
「どっちなんだよ」
やれって言ったりやるなって言ったり。ポリポリと頭を掻いてから、じゃぁと料理がどっさり置かれている台の前へやって来た。
「料理足りてないとこあるかー?」
持ってくぞーと聞けば、だから七席自らそんなことしなくていいから!と別の平隊員たちに追い出されてしまう。
「ちぇー」
せっかくやろうとしたのにと、ちょっと拗ねながら帰ってきた華奈を見て、四番隊のみんなは思った。
天然って強い。
「華奈七席って、すごいですよねぇ」
「あははは」
渇いた笑いを零す花太郎。しかし、これがいつもの華奈なのだと知っているのは自分しかいないため、何とも言えない。旧友四人で集まったなら、そういうことをするのは当たり前なのだ。
「じゃぁ隊長たちにお酌してこよ!」
タタタッと酒を持って上座へ近づいていく。
「卯ノ花隊長〜、更木隊長〜、お酒のお代わりいりますか?!」
「おう、気が利くじゃねぇか」
「ありがとうございます」
「副隊長たちには料理の追加です!」
「わー!ありがとう華奈ちん!」
「あ、ありがとうございますっ」
ニコニコ笑いながら酌をしていけば、十一番隊のみんなもこちらに寄ってきて騒ぎ出す。
「あ、伊江村さん!」
しかし、華奈のこの一言で一瞬静まり返った。
「遅れてしまって申し訳ありませんでした」
「いえ、救護詰所の方は、問題ありませんでしたか?」
「はい、今日は患者数も少ないですか、ら?」
卯ノ花に報告をしていれば、一角が立ち上がって伊江村の目の前に立ち、
「よぉ、今日はもう仕事も終わってんだ、俺の酒、飲めるよな?」
「ま、斑目三席っ?」
「そんなに畏まんなよ、同じ三席同士、仲良くやろうぜ?」
「な?」と、有無を言わせぬ物言いで伊江村を自分の前に座らせてお猪口をその手に押し付ける。
「ゆっくり話し合いながら飲もうやっ」
顔が狂暴に笑っていた。
「一角さん、どうかしたんですかね?」
華奈が卯ノ花たちに後ろ向きに振り返って聞くが、ふふふっと笑って流される。
「よい友人になれると良いですね」
あの二人が?無理だろ。そう思っても、口にできる者はいない。
さらに時間が進み、
「あ、あの、斑目三席」
「あ?」
「私そんなにお酒には強くないもので」
もうそろそろ、そう言って酒を注ごうとしている一角にたんまをかける。
というか、この拷問かと思えるような空間で飲みたくないのだが、
「俺の酒が飲めねぇってのか!?」
「い、いえ、十分もう飲みましたがっ」
「なにー!?斑目三席の酒が飲めねぇだとっ!?」
断ろうものなら一角の後ろにいる十一番隊の者たちが野次と殺気を放って来る。
なんだこれ。どういうあれだ。
「いやー、伊江村三席もそんなに照れないでグイグイ行っちゃえばいいじゃないですか」
ニュッと顔を出した荻堂に驚く伊江村。そして、
「あ、わかった。華奈七席のお酌じゃなきゃ嫌なんでしょ」
ニヤッと笑って爆弾を落とす。
違う違うと弁明しようとしても、
「ほう?確かに、俺みてぇなヤローよりも、華奈の方がまだましだろうな?」
笑顔が狂暴さを増していく。
もう伊江村には口から煙りを出している怪物に見えた。
「何ですかー?お代わりですか?」
名前を呼ばれたことに気がついた華奈がひょこっとこちらにやってくる。そして、
「華奈、こいつに酌してやれよ」
「い、いえ、あのっ」
「?はい!」
ニコリと笑って伊江村の持っているお猪口に酒を注ごうとする華奈を止めた。
今酒を注がれて飲めば、この男たちになにをされるか分からない。
しかし、華奈に注がれたら飲まない訳にはいかない。
なんだこの拷問は。
「その、これ以上飲んでは酔ってしまうのでっ」
「あぁ?今夜は宴だぜ?酔わねぇでどうすんだよ」
ほら、飲めよと迫って来る一角たちが無茶苦茶怖い。だが、伊江村に救いの手が指し伸べられた。
「ダメですよ!酔いたくないって言ってる人に無理させたら!」
「華奈七席」
小さな背中で伊江村を守ってくる華奈にジーンっとしていれば、
「じゃぁお前が変わりに飲むか?」
一角の振りにえっとそちらを見れば、座った眼で華奈を見てきていた。
「えー、私もそんなに強く無いんですけど」
「ならお前は黙ってろ、俺はそいつと飲む」
どうやっても伊江村に飲ませたいらしい。というか潰したいのだろう。もしくは醜態を晒させたいか。
華奈はちょっと考えた後キョロキョロと周りを見て、目的のものを見つけると声をかけた。
「花太郎ー!」
呼べば、「どうしたんですか?」とやって来るその少年に向かって首を傾げる。
「今日飲まないつもりだったんだけど、飲んでもいいか?」
何故そんな事をこの四番隊七席に聞くのだろうか。
「あ、はい、わかりました」
じゃぁとおもむろに手を出せば、華奈は袖の中に手を入れてゴソゴソと探り、あるものを花太郎に手渡す。
「潰れたらよろしくな!」
「はい、でも、程ほどにですよ?」
二日酔いになったらきついのは華奈さん何ですからという言葉には苦笑を返す。
「よし!飲みましょう!!」
ほうけている一角たちに向き直ってお猪口を手に取ると酒を注いで、一角の分にも酌をする。
「待て待て待て!なんだ今のは!」
「だから、潰れた時の保険に、」
「なんだ保険って!つーか、今渡したのはなんだ!」
「なにって、鍵ですよ。私の部屋の」
チャラっと花太郎の手の中で光っているのは紛れもなく華奈の自室の鍵で、みんなは眼を見開いて停止した。
「私潰れたらそのまま寝て起きないんで」
「僕が華奈さんを部屋まで送り届けるために先に預かっておくんです」
「はぁ?!」
つまり、花太郎は華奈の部屋に入るという事で、
「ダメに決まってんだろそんなこと!!」
「いや、こんなとこで寝てたら風邪引いちゃうじゃないですか」
「それ以前の問題だ!!」
華奈にそれがどんなに危ない事かを言って聞かせようとするが、クイッと酒を飲んでしまう。
「大丈夫ですよ!花太郎にはちゃんと後でお礼しますし」
「そこじゃねぇよ!つーかお礼とか言うな!」
「他に言いようがないじゃないですか」
「なぁ?」と花太郎に顔を向けて首を傾げ合う二人。二人の間にいかがわしい感情はいっさいない。
「まぁまぁ!飲むって決めましたから私が伊江村さんの分も相手しますよ!」
はいと、一角だけではなく他のみんなにも酌をしてほら飲もうと笑えば、逆らえる者などいない。
「荻堂八席も飲みますか?」
「僕は遠慮しておきます」
面白いものが見れそうですからと、華奈にも聞こえないように呟いて笑顔を深めた。
しばらくしても、華奈に変わった様子は見られない。
普段から飲んでいる一角たちと同じペースで飲んでいるというのに。
「お前、そんなに強くないんだよな?」
「はい」
しかし、華奈はいつもと変わらない。
こいつもしかしてすごい酒豪何じゃ無いか?と思っていれば、華奈の隣で座っていた花太郎が水の入ったコップを差し出してきた。
「華奈さん、お水です」
「あ、ありがとうな」
それを受け取ってコクコクと喉を鳴らすのを見て、
「華奈さんだいぶ酔ってきましたね」
と、華奈が最も信頼を置いている少年は言った。
「あー、もう見て解るくらいか?」
「まだそこまでじゃないですけど、」
「んー、私もまだ自分が何してるのか分かってるからな!」
そんな会話を聞いて、
「お前、酔ってんのか?」
「はい」
結構来てますよと返して来る。傍目からじゃ何の変化もないのだが、本人がそういうのだからそうなのだろう。
「あー」
声を上げながら横で見守っていた伊江村にもたれかかりながら足を崩す。
「大丈夫ですか?」
「、はい」
眼をしばしばさせて、指で眼をこする。
「一角さん」
「あ?」
「このままだと寝ちゃいそうなんで、ゲームしましょう」
「あ??」
そんな華奈の発言を、一人あーぁと見ている花太郎。
「斑目三席、あの、もしかして華奈さんがここまで酔うの、初めて見ましたか?」
「そういや、そうかもな」
思えば、いつも飲んでいなかったように思う。飲んでる姿を思いだそうとしても、一杯か二杯辺りまでで途切れてしまう。
「その、華奈さんって」
「よし!腕相撲で負けたら罰ゲームな!!」
絡み酒なんです。と、花太郎の小さな声は華奈の声に掻き消された。