ブリーチ(夢)

□カナ36
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伊江村は一人きりの執務室で首を横に振る。
昼間見た華奈のあられもない姿が思い出されて仕方がない。

自分にまたがり、着物をはおっているだけのような姿の華奈。

考えるだけで、頭に血が上ってきそうだ。
今日一日はどうにか無心でやり過ごしたが、今こうやって一人でいるとどうしてもあの姿が思い出されて仕方がない。

「伊江村さん!」

幻聴まで聞こえてきた。ちくしょう。

「伊江村さん!」

ガバッと後ろから抱き着かれて身を固くしてしまう。

「華奈七席!?」
「お疲れ様です!」

華奈が伊江村の首に腕を回しているせいでものすごく顔が近い。
慌てて華奈の肩に手を置いて引きはがした。

「ど、どうしたんですかっ?こんな時間にっ」
「昼間、ちゃんとこの姿で言えなかったので!」

華奈は伊江村を見上げて笑い、しっかりとその腰に抱き着いて胸に顔を埋めた。

「ただいま!」

抱き着いてきた華奈の体温は、昼間抱き上げた赤ん坊よりも落ち着いていて、暖かいミルクのような匂いはしない。
しかし、それは紛れもなく華奈の体温と匂いと、柔らかさで、

「お帰り、なさい」

伊江村はぎこちなく華奈の背中に手を回して抱きしめた。

長かった一週間。

とても長かった。
君がいつ来ても良いように窓には鍵をかけなくなって、君がいつそこから入ってきて、笑顔を見せてくれるかと、ずっと待っていた。

「大好きです、伊江村さん」
「ありがとう、ございます」

僕はどうしたら良いんだろう。

君を好きになって、もう長い年月がたっていて、僕の眼は君しか見なくなったというのに、

「華奈七席」

好きだと、その一言が言えない。

ギュッと抱きしめて、伊江村は華奈の頭に口をつける。

君の全身から、僕に向けられている好意を感じる。君は僕を好き何だと、その全てで伝えてくる。

「伊江村さん」
「はい」

「伊江村さん」

掠れた声で呼んでくる華奈に、伊江村は返事を返しながら抱きしめてその頭に口づける。

あぁ、可愛い君。可哀相な君。

「淋しかったです」

脆い君。

いったい、自分のどこがいいと言うのだろう。自分でいうのも何だが、華奈の周りにはもっと逞しくて、頼りになりそうな男が沢山いるだろうに。
なのに、華奈は伊江村がいいという。
自ら会いに来て、抱き着いて、気持ちを伝えて、伊江村一人が良いという。

「華奈七席」

伊江村は華奈を膝に乗せて椅子に深く腰掛ける。
自分にもたれ掛かってくる華奈を抱きしめながら、優しく背中を撫でていた。

華奈は別に泣いていない。
しかし、泣いている時のように小さくなって伊江村に抱き着いていた。

しばらくして、ウトウトとしてきたのが伝わってくる。

「華奈七席、もう戻ってはいかがですか?」
「でも、」

頭を撫でながら隊舎へ戻るように促すが、離れたくないと首を横に振る。仕方がなく、また頭を撫でて沈黙した。

「華奈七席」
「、はい」

まどろみながら返事を返してくる華奈の頭に、口をつけた。

「私の部屋を、覚えていますか?」
「?はい」

「この前あなたが入ってきた窓は、鍵をしていません」

あれからずっと。

そう言って、伊江村は華奈に笑いかける。

「また、いつでもいらしてもらって、構いませんよ」

だから、ここでくっついているのも良いけれど、そちらの方が落ち着いていられるだろうと提案をして、伊江村は華奈を膝から下ろした。

「送りますよ、もう遅いですから」

君が好き。言葉に出来ないなら、せめて、せめて違う形ででも良いから、君に伝えたい。


次の日、伊江村が仕事を終えて部屋へ戻り、着替えて本を読んでいるとカタリという音が聞こえてきた。
寝室へ行って見れば、遠慮がちに窓ぶちに座っている華奈の姿。

「その、お邪魔、します」

緊張しているのか、いつもとは違う戸惑ったような物言いに笑ってしまう。

「どうぞ、夕飯はもう食べましたか?」

おいでと手で招き入れれば、嬉しそうに近寄ってきて抱き着いて来る。

また、昨日のように華奈は膝に乗っていた。眠たいのか、既にウトウトしている。

「あまり、よく眠れていないのですか?」
「ん、でも、ちゃんと寝てます、よ」

伊江村に背中を撫でられれば、そのまま静かに寝息を立ててしまった。
伊江村は華奈を起こさないように抱き上げて、布団に寝かせる。そして、その隣に自分も横になった。

今は、こうして一緒に眠れるようになったのが嬉しくて不思議で、腕の中に華奈をしまい込んで眼を閉じた。
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