ブリーチ(夢)
□カナ32
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大好き大好き、大好きです!
「伊江村三席―!」
走っていた勢いのまま抱き着けば、一度よろめいてから踏ん張って持ちこたえる伊江村。
「、華奈七席!?」
目には見えない尻尾をブンブンと振って伊江村の腰に抱き着きスリスリとすりつく。
「あー、昼間っからなにしてるんですか?伊江村三席」
「わ、私は何もっ」
「荻堂八席!こんにちは!」
伊江村に抱き着いたまま荻堂を見上げて挨拶をしてくる華奈に、荻堂も笑顔で返す。
「華奈七席、今日はどうしたんですか?」
山田七席なら今いませんよと言えば、花太郎じゃないですと首を横に振って手に持っていた書類の束を伊江村に差し出して来る。
「届けに来ました!」
「そ、そうだったんですか」
「はい!」
グリグリと伊江村の背中に顔を埋めて嬉しそうにしている華奈。
とても異様な光景だ。
「じゃぁお願いします!」
好きなだけ抱き着いて、手を振って行ってしまう。
いったい何がしたいんだ。
書類を手に持ったまま呆然としている伊江村に荻堂がため息をつく。
「なんでこんなのが良いのかなぁ」
伊江村がなにか言い出す前にそそくさと退散した。
「華奈ちん、華奈ちん」
「はい?」
「華奈ちんってヤソっちの事好きなんだよね?」
十一番隊の執務室、やちるの質問にみんなが固まり。
「はい!」
笑顔で答えた華奈にみんなが吹き出した。
「今日ね、女性死神協会の集まりがあるんだ!華奈ちんも一緒に行こうよ!」
「え、いいんですか?そういうのに勝手に行っちゃって」
「だーいじょうぶ!だってあたしが会長だもん!」
机についた両手で顎を支えているやちるに、華奈は深く考えないまま頷いた。
華奈とやちるがいなくなった執務室で一角が口を開く。
「おい、」
「なに?」
「ヤソっちって誰だ」
「あの三席でしょ?四番隊の」
名前が伊江村八十千和だからじゃない?という弓親に、一角を含むみんなが血管を浮かせる。
「あれのどこがいいってんだ?!」
ありえねぇ!と叫べば、弓親もため息をついて知らないよと返した。
「応援するつもりだったけど、まさかあれだったとは」
美しくないねとこぼしてお茶を飲んだ。
その頃、華奈は女性死神協会のみんなに囲まれていた。
「あの?」
「まあまぁ!お茶でも飲んで!」
「饅頭もあるぞ」
「はぁ」
出されたそれをパクリと口に入れてモグモグと胃に収めていく。
その姿はやちるに近い。
小さい子供のようで、可愛らしい。
「ねぇねぇ!あのメガネのどこがいいの?」
「メガネ?」
「ちょっ、乱菊さん!」
そんな言い方は失礼ですよ!と苛める七緒に、だってと口を尖らせる乱菊。
「あのね、みんな華奈ちんがヤソっちのどこがいいのか知りたいんだって!」
「知りたいんですか?そんな事」
「へー」と言いながらズズッとお茶を飲む華奈に、みんなは興味津々といった目を向けてくる。
しかし、華奈は「んー」と考えた後やちるを見た。
「副隊長も隊長のこと好きですよね?」
「剣ちゃん?うん!大好きだよ!」
笑顔で頷くやちるに華奈も笑って頷く。
「私もそれと同じ感じですよ!」
「そっかぁ」
頷いて笑うやちる。他の面々は訳が分からず首を傾げるばかりだ。
「いや、全くわかんないんだけど」
「えー?んーとねぇ」
考えながら首を捻るやちると華奈。
「一緒にいると楽しくてねぇ、ずっとくっついていたくなるの!」
「そんな感じですねぇ」
ニコニコと笑って納得しあう二人は見えている世界が同じなのか、そう思えて来てしまう。
しかし、剣八ならまだ分かる。
強いし男らしいし、まだ分かる。
だが、華奈の好きな伊江村は男らしくはない。
なよなよしている訳ではないが、地味だし気が弱いし、どこがいいのか分からない。
「・・・具体的には?」
「具体的・・・」
フムと考えてニパッと笑う。
「頭を撫でてくれるとこですかね!」
それは、伊江村じゃなくてもいいのでは無いだろうか。
饅頭を食べて帰って行った華奈を見送り。シンッとした部屋で乱菊が呟く。
「冷めるの、早いかもね」
「な、なんて事言うんですか!」
慌ててフォローする七緒。しかし、やちるだけは「なんで?」と首を傾げた。
「だって!頭撫でてくれたからって!」
「凄いことだったんだよ、きっと」
彼があたしに名前をくれた事がそうであったように。彼女にとってそれはとっても大きかったんだよ。
やちると華奈は似ている。
それは本人たちも無意識下で気づいているのか、よく一緒にいる事から分かる。
「華奈ちん、うまく行くといいね!」
やちるの言いたいことが分からない他のみんなは、納得できていないという顔をしてやちるを見るが、やちるは笑ったままだった。
貴方が好き。大好き。優しく頭を撫でてくれた。
応援してくれた。
好きなだけ泣きなさいと言ってくれた。
あぁ、あぁ、私の心は貴方でいっぱいになっていく。
大きな世界。色付く世界。守るものが増えた世界。
私が少しでも強くならなければ守れない。
「やるぞー!」
守って見せる。大好きだから。