ブリーチ(夢)

□カナ31
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華奈は知らない。
自分が藍染に気に入られていた事を。
彼が最後に残して行った言葉を、何一つ知らない。

そして、誰も教えない。

「華奈ちーん!」
「あ、副隊長!」

「あっそぼー!!」

やちると一緒に駆け回り、木陰で寝ている姿を見ながら隊長たちは首を傾げる。


この娘のどこにそんな力が隠れているのだろうか。


感じられる霊圧は人並みのもの。
戦闘専門部隊の七席を名乗るだけの事はあるほど腕は立つが、それもやはり七席のもの。

みんなは彼女の隊長である更木に聞く。

「更木くんは、あの子のどこにその力があると思ってるの?」
「あぁ?」

彼は多くを語らない。

だが、今回の事は語らなければならない。

ため息をつきながら視線を斜め上へ持ち上げて考える。

「やってみりゃぁいいじゃねぇか」
「え?」

返ってきたのはしごく簡単な答え。

「気になるならてめぇらで確かめな」

何か言葉を紡ぐよりも手っ取り早い。剣八は一人隊主会が開かれているそこを出て行った。

「えぇ?」

京楽が声を上げるが、返してくれる者はいない。


ただ今華奈は一番隊の隊主室に呼ばれていた。

「え、えっと、?」

なぜ自分がこんなに凄いところに呼ばれているのか分からない。
それもそのはずだ、誰も説明していないのだから。

「あ、あの〜?」
「急な呼び出しで驚いておるじゃろう」

「は、はい!」

ピンっと背筋を伸ばして姿勢を正す小さな少女に、みんなの顔が緩む。
だが、華奈の後ろにいた剣八はグワシとその頭を掴んでグググッと下に力を入れていく。

「た、隊長っ、痛いです!」
「で?誰がこいつと殺るんだ?」

「なんの事ですか?!」

華奈をここに連れてきたのは他でも無い剣八だ。
しかし、彼は知っているから自分が戦うとは名乗り出ない。

華奈は自分に懐いている。

つまり、本気の華奈とは戦えない。
つまんねぇと舌打ちをしたい気持ちが、この手にかかっている力に比例しているのだろう。

「私は、ダメでしょうね」

微笑みながら首を傾げて華奈を見る卯ノ花に、だから何が!?という視線を向けながら剣八の手を掴んで潰されないように踏ん張っている華奈。

「おい華奈、お前ここにいる中でだったら誰と本気で殺りあえる」
「殺っ?!やりませんよ!何でそんなことっ」

「いいから誰となら殺れんのか答えろ!」
「えぇ!?」

グググッと加わっていく力に耐えながら声を上げる華奈に、隊長たちは考え出す。

「どうして卯ノ花くんと更木くんはダメなの?」

京楽の質問に卯ノ花が微笑みながら答える。

「言いましたでしょう?好いている者には手を上げないと」

つまり、二人は華奈に好かれているという確固たる自信があるということだ。
それも凄い事だが。

「じゃぁ全く関係ない隊から選ばなきゃって事かぁ」

誰がする?と周りを見回せばマユリが口を開いた。

「下らないネ、こんな小娘が何だというんだ」
「ならおめぇが相手してとっとと終わらせりゃぁいいじゃねぇか」

剣八のその言葉にフムと考え、では負けたら実験台としてもらえるのかと聞けば「あぁ?」と額に血管を浮き上がらせる。
しかし、華奈はマユリを見て首を横に振った。

「涅隊長とは戦えません!」

その言葉にみんなが華奈を見る。

「何故かネ」
「え、いや、その、私の友達が、ですね、えっと、」

言い淀みながら言葉を探していると、言いたいことが分かったらしいマユリはなるほどと納得した。

「戦えないのなら行かせてもらうヨ、私はとても忙しいのでネ」

そう言ってスタスタと出ていってしまった。

「なんだ?」
「い、いや〜」

はははと笑ったのは華奈で、みんなは訳が分からない。
実は華奈の友人である楓がマユリと付き合っているなど、本人たちが公にしていないのにここで関係のない華奈が口にする訳にはいかない。
という理由が隠れていたりする。

「で?」

一人減ったがどうすんだと言えば、剣八が一人ずつ名指しで上げていく。しかし、華奈は全員にダメだといって首を横にふった。

「ふざけてんのかてめぇ」
「ふざけて無いですよ!っていうか何で理由もないのにみなさんと戦わないといけないんですか!!」

全くもって正論をいう華奈に、剣八はッチと舌打ちをして卯ノ花を見やった。

「らちがあかねぇ、おい、お前んとこの七席を貸せ」
「どうなさるおつもりですか?」

「ちぃとホロウがウジャウジャでるとこに置き去りにするだけだ」
「花太郎になんて事する気ですか!!」

あいつは戦うのは専門外なんですよ!?と訴えれば、だからだよとニヤリと口角を上げる。

「そうすりゃお前も戦う気になんだろ」

それも相手はホロウ。調度良いじゃねぇかという剣八にジタバタと暴れてダメですよ!と訴える。

「仕方が無いのう」

ため息をついた山本がコツンと杖を一つうち鳴らして立ち上がった。

「ワシなら、直接関係のある者もおるまい」

「え、」とみんなが固まって視線を向ける。
その瞬間、ゾワリとする霊圧が部屋全体に充満した。
息苦しい霊圧にビリビリと肌を刺されても立っている隊長たち。
そして華奈。

「ほう」

それを見て山本はゆっくりと歩き華奈に近づいていく。

「更木、そこをどけい」

華奈の頭に乗せていた手を退けて、剣八はチラリと華奈を見る。
震えてはいない。怯えてもいない。
いつも自分と向き合っている時と同じ顔。
剣八は先が読めてしまいため息をつく。

「ダメだな」

ボソリと呟いた声を聞いた者はどうしてだという疑問を視線で問うが、それはすぐに分かることだった。

「どうした、かかってこんか」
「出来ません」

「なぜじゃ」

華奈は幼い笑みを浮かべて笑い、山本を見上げる。

「総隊長は強いですからっ」

強い強い、きっとここにいる誰よりも。
その強さでみんなを守ってくれる。
強い強い。
大好きなみんながいるこの瀞霊廷を守ってくれる。安心できる強い人。

華奈を見てみんながあぁと剣八と卯ノ花を見る。

この子に好かれているという自信がどこから来るのかよく分かる。
全身で好意を示してくるその姿。笑顔。

山本は霊圧を下げて華奈を見下ろした。

「更木」
「あぁ?」

「この者を他隊へ移す気はあるか?」
「あ゛ぁ゛?」

同じ音なのに全く違う響きを含んでいるその言葉。しかし、それに答えたのは華奈だった。

「ありません!」
「・・・なぜじゃ」

「私は十一番隊が良いんです!」

みんなが言っている。
俺達は更木隊だと。ケンカに命をかける馬鹿な集団なのだと。
そこが好き。
己の体一つで相手に向かっていくみんなが好き。

力をつけたい自分はそこに入った。みんなを守る為に。
そこでみんなの事を好きになった。
みんなの誇りを守りたい。

華奈は剣八に連れられて部屋を後にする。その道中、ペシリと頭を叩かれたが、痛くはなかった。

「なるほどのぅ」

確かに、あの子がここを裏切るだとか、そういう事は考えられない。
とりあえず今のところは。

「して、その飼い主とは?」
「それはまだ秘密です」

卯ノ花はニコリと笑って答えた。
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