ブリーチ(夢)

□カナ29
2ページ/2ページ



四番隊では、花太郎と華奈の噂を知らない者はいない。
今回の一件で尚更それは確信を持って広まった。

実際は恋次を助けるために利吉によって脱獄させられた花太郎なのだが、四番隊の中では華奈を助けるために脱獄したと思われている。

普段は気弱な花太郎が、そこまでして助けたいと思った相手が華奈ということで、まるでラブロマンスを実際にやってのけた二人のように持ち上げられていた。


「い、いけません!まだ寝ていないとっ」
「あぁ?!」

「四番隊が俺達十一番隊に指図してんじゃねぇよ!」

救護詰所が騒がしい。書類を提出するために歩いていると大きな声が聞こえてきた。
どうしたのかとそちらに向かえば、人だかりが出来ていた。その中心には入院しているはずの十一番隊の数名と、救護詰所の看護士。

「俺達がもういいっつってんだから良いんだよ!」
「ですがっ」

「とりゃぁっ!!」
「おふっ!」

騒いでいた一人が吹っ飛んだ。

「お前ら何騒いでんだ!」
「、華奈七席?!」

そこには、威風堂々という言葉がピッタリな感じで腕を組んで立っている華奈の姿。
吹っ飛ばされた男は飛び蹴りを受けた脇腹を押さえながらヨロヨロと立ち上がる。

「な、何するんすかっ」
「お前らがまだ完全じゃないのに騒いでるからだろ!」

その完全じゃない隊士に飛び蹴りしたことには触れず、ビシッと指をさして口を開く。

「あんな蹴りも受け止められないならまだ寝てろ!」

自分たちよりも小さい少女にそう言われてたじろぐ大男たち。
伊達に七席を名乗っているわけではないようだ。

「華奈さんもそんなに動いちゃダメですよ!」

後ろから走ってきた花太郎に顔を向けて、華奈は親指を立てる。

「大丈夫だ!傷が開いたら花太郎に任せるから!!」
「そっ、そういう事じゃないですから!」

怪我をしても治すけれど、怪我をしないに越したことはないのだと訴えるが、華奈は声を上げて笑っているだけだった。

「後二、三日大人しく寝とけ!そしたら嫌でも道場で稽古するんだからさ!」

白い歯を見せてニッと笑いかけられ、騒いでいた隊士たちはすごすごとそれぞれの病室に戻っていく。

「ごめんな?」

男たちに絡まれていた看護士の顔を覗きながら、申し訳なさそうに眉を垂らす。

「あいつら体力有り余っちゃって、じっとしてるの苦手なんだよ」

苦笑して頬をかくその姿からは、あの男たちよりも上の立場に立っている者とは思えない程柔らかい空気が漂っていた。

「い、いえ!止めていただいてありがとうございました!」

頬を少し赤らめて頭を下げ、その場を後にした看護士を見送る華奈に花太郎が話しかける。

「華奈さんも行きましょう。念のためにもう一度傷を見せてください」

その言葉に華奈は笑って頷いた。

そんな二人を見て、周囲にいた者たちがヒソヒソと話し出す。

「華奈七席、本当に山田七席にしか治療お願いしないんだ」
「山田七席も、彼女が十一番隊じゃ心配だよねぇ」

顔を背けてその場から立ち去ろうとすると、後ろから荻堂がやってきた。

「今日も熱々ですね、お二人とも」
「あ、伊江村三席に荻堂八席!」

「おはようございますっ」
「・・・おはようございます」

荻堂が話し掛けたことによって、華奈と花太郎がこちらにやって来る。
伊江村は二人が並んでいるのを見ないように視線を反らしながら挨拶をした。

「お二人って、いつからそんなに仲が良いんですか?」
「学生の時からですよ!なっ」

「はい」

笑顔で頷く花太郎に、嫉妬という感情が沸き上がってくる。

「長いですねぇ」

荻堂の質問に、周囲で聞き耳を立てている者たちが集中しているのがわかる。

これ以上二人の仲を見せ付けられたくない伊江村としては、早くこの場を立ち去りたいのだが、

「そんなに仲がよかったら、付き合ってるって誤解されませんか?」

一瞬、空気が固まった。

「そういや学生の頃も聞かれたな!」
「ありましたね、そんなこと」

クスクスと笑っている花太郎と、あははと笑っている華奈。
その二人以外の時間はピタリと止まったままだった。



現在、病室の一角をカーテンで覆い、その中で花太郎に傷を見てもらっている華奈。

カーテンの外には荻堂と、荻堂に連れてこられた伊江村が立っていた。
その周りにはさらにやじ馬がいるのだが、カーテンの中にいる二人にはそんな事わからない。

「華奈七席って、何で山田七席にしか治療受けないって決めてるんですか?」
「ん〜、昔から花太郎が手当してくれてたんで、その流れでそのまま?」

「華奈さんはよく怪我して帰ってきましたからねぇ」

痛くないですか?と聞きながら包帯を巻く花太郎。それに頷いて大丈夫だと答える華奈。
カーテン越しにそんなやり取りを聞いているこっちとしては、二人が付き合っていないという事実がまだ信じられない。

「そんな流れみたいなもので、命かけちゃうんですか?」

その疑問に、華奈は笑って口を開く。

「かけちゃいますね!」

その言い方はとても軽くて、自分の命を軽視しているように聞こえた。
しかし、花太郎は苦笑して包帯を止める。

「華奈さんは、昔から変わりませんね」
「花太郎は治療の腕が上がったけどな!」

死覇装の上を着付けながらそう言って、カーテンを開けて出てくる。

「明日、包帯を取ったら一応完治になります」
「わかった!じゃぁ明日もう一回来るな」

「あ、でもまだあんまり激しく動いちゃダメですよ?!手合わせとかは出来るだけ避けてくださいね!」

それはあんまり約束出来ないなぁと笑って、華奈は救護詰所を出て行った。

包帯や治療に使用した機具を片付けている花太郎に、荻堂が近づいてそれを手伝う。

「華奈七席って、」
「あ、別に死ぬことを軽く見てるとかじゃないんですよ」

先程の疑問を口にする前に花太郎が手を振って弁解してきた。

「ただ、言い方がああだから、いつも勘違いされちゃうっていうか」

困ったように頭をかいて、少し俯きながら笑う。

「昔から怪我が絶えないのだって、別に華奈さんが望んでそうなったとかじゃないんです」

自分や花音、楓を守ろうと立ち向かうからぶつかって、本当は華奈が負わなくてもいいような傷まで負って帰ってくる。
それを手当するのは花太郎で、華奈が人の事で手一杯になる度に助けていたのが花音と楓。
いつも守られているから少しでも返したいと始めた事なのに、

「僕たちが後ろにいるから、何も考えないで前に行けるって、」

信頼して、何もかもを任せてくる。
命さえも。

花太郎の話しを聞いて、伊江村は歩き出した。卯ノ花に書類を提出して、執務室に向かう。

あの時、悔しいと泣いていた少女は、何度もボロボロになって帰ってきたのだろう。
何度もボロボロにされて、心も体も疲れきって、花太郎の、自分のすべてを任せられる者の所に帰ってきて、休んで、そしてまた進んでいく。

華奈の休みにくる場所が花太郎という事が少し、羨ましかった。

それだけのことだ。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ