ブリーチ(夢)
□カホ18
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「あぁ、気にせんでええ。お前あいつの後輩か何かじゃろ」
「?はい」
「単に、ここまで送りたかっただけじゃ」
先輩どこまでも男前過ぎる!!
なに?!送りたかったってなに!?さっき書類飛ばしちゃったから?心配かけちゃった?!それともため息ついてたから!?何なの先輩!!
手で顔を覆いながら悶えていれば低い笑い声が聞こえてきた。
「あいつも変わっとらんようじゃのぉ」
「?」
見れば、恋次と同じような顔をして笑っている射場がいた。
夏帆はもしやと思って口を開く。
「あの、」
「ん?」
「あ、えっと、射場副隊長って、華奈七席のこと知ってるんですか?」
「おぉ、ワシは元十一番隊じゃけぇ。あいつが入隊してきた時から知っとるぞ」
「本当ですか!?」
身を乗り出して近づけば驚いたように一歩下がるが、すぐに苦笑して見下ろしてきた。
「なんじゃ、あいつの事でも聞きたいんか?」
「はい!私ずっと華奈せ、七席に憧れててっ」
「あいつにのぉ」
頭をかいて、腕を組みながら柱に背を預けるように寄り掛かる。
「まぁ、分からんでもないか」
いつも元気がよくてやちるにも劣らない程の自由人。そのくせ人の事はよく見ているから、どうも情が湧きやすい。
「華奈七席っていつも笑ってるじゃないですか。大変そうにしてるとこって見たことがなくて」
「確かにのぉ」
さっきだって、只ため息をついていただけなのにコンペイ糖までくれて。
そう言って俯きながら自分の爪先を見る。
先輩って、辛い時どうしてるんだろう。
「あいつは、十一番隊に入隊した時から、ワシの知るかぎり一辺も泣いとらん」
「え?」
「泣くゆぅ以前に、弱音も吐いとらんな」
そんなこと、ありえるんだろうか。
「いつも歯ぁ食いしばって耐えとった」
『ま、正義のヒーローも、歯ぁ食いしばってんだけどな』
恋次と同じ事を言う射場に、夏帆はほうけてしまう。
(華奈先輩って、どこまで完璧なんだろう)
強くてかっこよくて優しくて、可愛くて。
「じゃが」
「?」
「たまにフラッと消えるんじゃ」
「消える?」
「おぉ、フラッといのうなりよったと思うとったら、またフラッと帰ってきて」
いつものように笑ってこっちを見上げて来る。
「今思えば、そん時にどこぞで息抜きでもしとったんじゃろ」
泣き腫らしたように目元が赤かったという事には、気づかない振りをしていた。
その時も、誰もそのことに触れなかった。
きっと今もそれは変わっていないのだろう。
七番隊の隊舎を後にした夏帆は、何の気なしに四番隊へ向かっていた。気がつけば、前に華奈と伊江村を見かけた所に来ていて、二人を探すようにあたりを見てみる。
(そんな都合よくいないか)
ため息をつきそうになって、手で口を押さえながら懐から袋を出してコンペイ糖を眺める。
「華奈さーん!」
その声に釣られて物影に隠れながら覗いて見れば、花太郎と話しをしている華奈の姿があった。
楽しそうに笑っていて、泣いている姿なんてどこにもない。
「あ、伊江村三席ー!」
書類を抱えて歩いている伊江村に手を振りながら近づいていく華奈と、その後を追う花太郎。
「そうだ!伊江村三席にもこれあげます!」
出したのは夏帆に上げた袋と同じもの。
「華奈さんそんなにコンペイ糖好きでしたっけ?」
「いや、私じゃなくてさっ、うちの副隊長が好きだからあげようと思って買ったんだけど、」
あげると全部食べちゃうから。と苦笑して違う袋を花太郎にも渡す。
「ここのコンペイ糖美味いんだって!」
「華奈七席は食べていらっしゃらないのですか?」
「そういえば、まだ食べてなかったです」
花太郎と伊江村が笑いながらため息をつけば、華奈は照れたように頬をかいた。
「では、」
ちょうど良いですかねと言ってその場で袋を開けた伊江村は、華奈にコンペイ糖を手渡して自分の口にも入れる。
「おー!甘くて美味い!」
「本当だ、このコンペイ糖すごく美味しいです!」
花太郎ももらった袋から一粒取出して舐め、華奈と顔を見合わせながら笑いあっていた。
そんな華奈を見ながら口元を緩めている伊江村に、夏帆は気づく。
(伊江村三席って、華奈先輩の事が好きなんだ)
ずっと華奈の方ばかり見ていて気がつかなかったが、今、気がついてしまった。
華奈は伊江村が好きで、伊江村は華奈が好き。
(華奈先輩、可愛いなぁ)
子供のように笑って、伊江村を見上げている顔が可愛い。
いつも可愛いとは思っていたが、それとはまた別の笑顔。
花太郎に見せる笑顔にすごく近いけど、少し違う。
夏帆はそっとその場を離れて自隊の執務室へ戻って行った。
(華奈先輩は、何処がとか何がとか、考えてないんだろうな)
ただ好きだから好き。それ以上は必要ない。そんな感じがする。
(やっぱり、カッコイイや)
自分に素直に生きて、人に優しく出来て、弱い所を見せない。
まるで完璧な人。
きっと、知らない所でいろいろあるんだろうけど、私の目にはカッコイイ正義のヒーローに見えちゃってるんだからしょうがない!
懐からコンペイ糖を取出して一粒食べた。すごく美味しかった。
「お、良いもん食ってんな」
俺にもくれと恋次が手を出してきたが、サッと机の引き出しにしまう。
「上げませんよ!せっかく華奈先輩が私にくれたんですから!」
「何だよケチクセー」
「これは特別なんです!」
恋次とそんな言い合いを楽しみ、夏帆は思う。
(私も、頑張ってみよう)
ヒーローに憧れて、私は今ここにいる。学院生の時から、目指すのは華奈先輩たちだった。
「阿散井副隊長!」
「ん?」
「今度戦い方教えて下さい!」
突然どうしたと見下ろせば、瞳の奥をメラメラと燃やしている夏帆の姿。
「私も華奈先輩みたいになったら、もっといろんな事が見えてくると思うんです!」
歯を食いしばって耐えるその先が。
「あいつに憧れんのは勝手だけどよ、あんまお勧めは出来ねぇな」
そう言って頭を撫でられた。
「ま、なって見りゃわかるか」
私は、ヒーローに憧れている平凡な女子です。