ブリーチ(夢)
□カナ15
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にへらと向けてくる笑顔が子供のように可愛くてキュキュンと胸が締め付けられた。
(清音の小さい頃を思い出す・・・)
そっと手を伸ばして頭を撫でてみると、嬉しそう笑顔を深めて撫でられた。
そんな光景を見ながら、ちょっと自分達も撫でてみたいと思ってしまった他の四番隊のみんな。
「華奈七席、僕の事は好きって言ってくれないんですか?」
荻堂がふざけて華奈の前にしゃがみ、目線を合わせれば今まで勇音の裾を掴んでいた手を離して頭に手を置いてきた。
「荻堂八席も好きですよ!」
「わー、僕は撫でられるんですねー」
他のみんなには頭を撫でさせるのに、自分には撫でさせずむしろ撫でてくる華奈に苦笑を浮かべる。
「じゃぁこの子はどうですか?」
「好きですよ!」
荻堂が近くに立っていた平隊員の腕を掴んで華奈の前にだせば笑って頭を撫でた。
「じゃぁ山田七席は?」
「花太郎も大好きです!」
そう言って抱き着く。
「じゃぁこっちは?」
「こっちてお前っ」
「伊江村三席も大好きです!」
花太郎から離れて抱き着き、撫でてくれと言わんばかりに手にじゃれつく。
「、華奈七席?!」
「じゃぁ僕は?」
「好きですよ!」
よしよしと一生懸命手を伸ばして頭を撫でようとしてくる。
届いてはいないが。
「虎徹副隊長は?」
「好きです!」
手を伸ばして袖を掴み見上げて笑う。
「卯ノ花隊長は?」
「好きです!」
しがみつくように着物を掴み、グリグリと頭を擦り付ける。
「みんなのこと好きなんですねー、華奈七席は」
「はい!」
四番隊は特に好きですと満面の笑みを見せて頷いた。
「あら、十一番隊ではなくてですか?」
卯ノ花も面白くなって来たのか、自分にくっついている華奈の頭を撫でながら笑って聞いてくる。
「だって、うちのみんなのこと治してくれるじゃないですか!」
「なるほど」
そういう事なら確かに四番隊が好きだと言っても納得できるなと、みんなが苦笑した時、華奈はまた笑顔を深めた。
「私には出来ないやり方でみんなのこと守るから、四番隊のみんなのこと大好きです!」
その一言には、卯ノ花さえも驚いた表情をした。
「華奈七席は、どうして十一番隊に入ったんですか?」
「強くなりたかったからです!」
笑顔を絶やさず、華奈は質問してきた荻堂を見る。
「私は花音みたいに器用じゃないし、楓みたいに頭が良くないし、花太郎みたいに治療できないから」
戦える強さが欲しかったんですと言って、荻堂の頭を撫でた。
「だから、四番隊のみんなのこと尊敬してます!」
なでなでと手を動かして、無邪気な笑顔を見せる。
「あらあら」
十一番隊にこんなにいい子がいたなんて。そう言いながら華奈の頭を撫でる卯ノ花はとても優しそうに笑っていた。
「だから花太郎も伊江村三席も大好きです!!」
二人に飛びついて頭を擦り付ける。しかし、伊江村に抱き着いて頭を擦り寄せるとピタリと動きを止めてしまった。
「?」
「華奈さん?」
見れば、伊江村にしがみつきながら眠っていた。
「あー、やっと見つけた」
その声に、詰め所の入口を見れば阿近が頭をかきながらため息をついている所だった。
「こんな所にいたとは、すみません、ご迷惑をかけました」
「どういうことでしょうか?」
「いやー、こっちのミスでちょっと」
「え、花音さん?!」
阿近の抱えている人物が花太郎の友人、花音であることに気がつくと、そういやお前も知り合いかとズカズカ中に入ってきた。
そして、先ほど卯ノ花に問われた質問に答える。
「間違って真実薬の試作品を飲んだみたいで」
「真実薬?」
「はい」
ここにくる途中、十一番隊にも顔を出したのだが華奈は来ていないと言われ、他にいそうな所も思いつかず、とりあえず花音を預けようとここまできた阿近。
今は眠っている花音を見せながら薬の効果のことを説明すれば、卯ノ花はそうですかと頷いて伊江村に向き直った。
「伊江村三席、そのまま華奈七席を運んでいただけますか?」
「は、はい!」
「阿近さんも、花音さんを連れて着いてきてください。お二人が目覚めるまでベッドに寝かせてあげましょう」
「ありがたいです」
勇音を引き連れて、華奈を抱えた伊江村と花音を抱えた阿近が執務室を出ていくと賑やかさが戻ってきた。
花太郎は今、執務室にいるもの達に囲まれて質問攻めにあっている。
荻堂はそれを見てから執務室を後にした。
誰もいない廊下の角で、髪をかき上げながらため息をつく。
「なるほどね」
みんな気がついただろうか。
卯ノ花は気がついただろうなと思いながら笑った。
華奈は伊江村の事が好きなのだ。
花太郎と伊江村には、他のみんなに言った好きよりも強いものを感じた。
『大好きです!』
みんなには好きとしか言わなかったのに、あの二人には大好きと言った。
花太郎の事は男として見ていないのだから、伊江村には。
そう考えると、ジリリとした痛みが胸を襲う。
「茶化して、面白がって、」
それだけで良かったのに。そう思いながらもう一度ため息をついた。
『荻堂八席のことも好きですよ!』
あんなに綺麗な笑顔で言われると、こんなにも心臓に突き刺さるものだとは思わなかった。
なんの打算もなく、心の底から思っている言葉。頭に乗せられた小さな熱い手が、ジリジリと胸を焦がす。
「罪な人だなぁ」
面白くなって質問していたのは自分なのに、そう呟いて自嘲気味に小さく笑った。
「とりあえず、伊江村三席に嫌がらせしよう」
くっつくにはまだかかりそうだし、何より諦めるなんて自分らしくない。引っ掻き回すだけ回して、隙が出来たら付け込もうという答えに頷いて執務室に戻った。
次の日から、四番隊のみんなが十一番隊に少し優しくなった事は言うまでもない。