ブリーチ(夢)

□カノン14
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あれから二日、花音は阿近を避けていた。

しかし、避けているのは花音だけで、阿近は普段通り接してきている。

「あ、花音ー」
「華奈ちゃん」

そんな時珍しい客がやって来た。昔からの友人で今は十一番隊にいる華奈。

「どうしたの?」
「ちょっと十二番隊に用があったからさ、そのついでに顔出しただけだ」

そう言って笑ってくる顔を見ていると、気持ちが安らぐ。

「花音の友達か」
「あ、阿近さん。こんにちは!」

「おぉ」

誰にでもフレンドリーな華奈は阿近にもこんな調子で手を振ってくる。そして、

「調度良い、お前にもこれやるよ」
「?」

「ほれ」

そう言って手渡されたのはジュース。
華奈と花音にそれを渡して、ヒラヒラと手を振りながら研究所の中に戻って行った。

「なんかあったのか?」
「う、ん」

手の中にあるジュースを見つめて頷く。

あの阿近がここまで気を使ってくれているのだから、これ以上それに甘えるのも悪いよなと反省して小さく息を吐いた。

「これ飲んだら、謝りに行ってくる」
「ケンカか?珍しいな」

「ケンカじゃ、無いんだけど」

どうも恥ずかしくてダメだと呟きジュースに口をつける。
それを見ながら華奈もジュースをゴクゴクと飲んで笑った。

「ま、私はジュース飲めてラッキーだったけどな!」
「もうっ」

そんなことを言いながら笑っていると、グラリと目の前が揺れた。

「あれ?」

見れば、それは華奈もだったようで、地面に膝をついて頭を押さえている。

「華奈、ちゃ」
「な、なんだ?」

そこから先を覚えていない。




「仙太郎!」
「・・・」

「はぁ」

ただ今十三番隊の庭で座り込んでいる三席を、もう一人の三席が怒鳴り付けていた。

しかし、怒鳴られている方は一向に返事をしない上ほうけっぱなしである。

「仙太郎はどうしたんだ?」
「た、隊長!」

寝てなくて良いんですかと慌てて駆け寄ってきた清音に、笑顔で大丈夫だと笑って見せる。

いつもなら清音と張り合うように浮竹の心配をして駆け寄ってくる仙太郎が、今は浮竹の存在にすら気づいていないかのように空ばかり見ていた。

「仙太郎」
「た、隊長!?」

肩に手を置いてやっと気がついたのか、慌てて向き直り正座をしながらおはようございますと頭を下げる。
今は昼なのだが、仙太郎の中では朝で止まっているのだろう。

「どうしたんだ?そんなにボーッとして」

らしくないじゃないかと言えば、いやと言葉を濁しながら顔を背ける。

「なにかあったのか?」

それなら自分がいくらでも相談に乗るぞと優しく笑ってくる浮竹に、ジーンとしてしまう仙太郎と清音。
清音にいたってはいろいろとフィルターがかかっているようにも思うのだが、今はおいておこう。

「その、」

仙太郎が口を開こうとしたその時、後ろでガサガサと草が大きく揺れて、

「あ!」
「!?」

「!!」
「君は」

花音が頭や着物に葉っぱを付けて植木の下からはい出てきた所だった。

浮竹は見覚えのあるその少女にどうしたのかと首を傾げる。
頼んでおいたフィギュアが出来たのなら阿近が連絡してくるはずだし、単に用事で来たのならそんな所からではなく入口から入ってくるだろうし。

そんなことを考えていれば、少女は立ち上がって満面の笑みを浮かべながら駆け寄ってくる。

「やっと見つけましたー!」

言いながら、隣にいた仙太郎にバフッと勢い良く抱き着いて倒れ込んだ。

「!!?」
「わー!?」

「これは・・・」

抱き着かれている仙太郎は目を見開いて固まっているし、それを見ている清音は手で顔を覆っているが指の間からしっかりと見ている。

「小椿三席ー」
「なっ、なっ?!」

首からなにから真っ赤になってうろたえる仙太郎が面白い。

少女に抱き着かれている仙太郎を眺めていると、今度は隊舎の入口の方から人がやって来た。

「おー、やっぱりここにいたか」
「阿近」

「お邪魔します」

もうお邪魔してからそういうのもどうかと思うのだが。
そんな事を気にした様子もなくタバコをくわえたままやって来て、少女に抱き着かれて放心している仙太郎を眺めながら煙りを吐き出した。

「いやー、こいつが間違って試作品の薬飲んじまって」
「薬?」

「まぁ、一種の真実薬ですよ」
「「「え(は)?」」」

驚いて阿近を見れば、面白そうにニヤリと笑っていた。

「こっちの質問に何でも答えさせるために開発してたんすけど、さっきも言った通りまだ試作品なんで、こんなふうに暴走しちまうんですよねぇ」

「ぼ、暴走?」
「好きな奴に飛びついたり」

面白そうに仙太郎を見下ろしてタバコを吸い、吐き出す。

「ちなみに、寝て起きたらこいつに今の記憶はない」
「はぁ?!」

仙太郎が叫ぶと、タバコをくわえたまましゃがみ込んで膝に肘をつき、

「当たり前でしょ。こっちが何を聞き出したのか敵に知られたら意味が無い。だから一度でも寝たらこいつは今自分がしていることも言ったことも全部忘れるように出来てるんすよ」

そこまで説明して、阿近は少女に顔を向けてやはりニヤリと笑った。

「おい花音、そんなに小椿三席が好きなのか?」

その質問に、みんなの視線が少女集中した。

「はい!ずっと片思いしてました!」
「ブッハ!」

「せ、仙太郎!?」

吐血の勢いで鼻血を吹き出した仙太郎に慌てて駆け寄る浮竹。
清音は顔を真っ赤にしてそれを見ている。

「ずっとねぇ、いつからだよ」
「五十年くらい前からです!」

「ほう?結構なげぇな」

花音に跨がれた状態で鼻血を吹き出しながら倒れている仙太郎は、阿近の質問に花音が答える度ビクビクと体を痙攣させている。

「せ、仙太郎ー!」

浮竹の悲痛な叫びがこだました。

「で?何で今日はここにきたんだ?」
「だって、」

そう言って自分の下で鼻血を吹いている仙太郎を見下ろして頬を染める。

「ずっと話しかけて見たかったし、」

こうやって抱き着いても見たかったんですと上目遣いで言われ、仙太郎の理性がブチブチと音を立てて切れていく。

直後、トンッと花音の首の後ろを阿近が手刀で突いた。

「っとまぁ、そんな訳で、うちの局員がご迷惑おかけしました」

気絶した花音を小脇に抱えて歩きだす阿近。隊舎を出ていく前に一度こちらを振り返って、

「あー、分かってると思いますけど、こいつ奥手なんで、待ってても自分からは来ませんよー」

「何せ五十年も片想いで終わらせてたんですからー」と、やっぱりニヤリと笑って十三番隊を後にした。

「す、すごい薬を作ってるんだな」
「そ、そうですね」

浮竹と清音がそんな会話をしている足元で、仙太郎は青い空を見ながら鼻血を止めていた。


以来、仙太郎がボーッとすることは無くなったそうだ。

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