ブリーチ(夢)
□カエデ10
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この日、残業をしていたにも関わらずまったく仕事が進んでいない事に気がついたのは布団に入ってから。
なので、今日はいつもより早く出勤している。昨日と今日の分、就業時間までに終わらせようと意気込み、昼休み返上でバリバリとこなしていく。
「今日は、ずいぶんと張り切っているねぇ、楓ちゃん」
「隊長も見習ってください」
そんな会話がされていたとは露知らず。
そして、待ちに待った就業時間。
倉庫が近づいてくると、足を動かすスピードも一緒に落ちて行った。
頭に過ぎるのは昨日のこと。
男との一時ではなく、涅隊長との出来事。
怖くなって足を止めてしまったが、倉庫に行かなくては会いたい人に会えない。
おまけに約束まですっぽかした事になってしまう。
両手をきつく握り、大丈夫、隊長はいないはず、大丈夫と何度も言い聞かせて暗証番号を打ち込んだ。
扉を開けても、電気はついていなかった。
涅がいなかった事に安堵して、男よりも自分の方が先についたのかと暗い室内に入りながら電気のスイッチを手探りで探す。
すると、
「来たか」
後ろから手で目隠しをされ、驚いていると扉のしまる音が聞こえてきた。
「ふっ、ん」
真っ暗な部屋の中で壁に押し付けられながら口を貪られていた。
昨日と同じ感覚に、さっき聞こえた声。相手が大好きな男だと分かると、侵入してきた舌にも素直に応じることができた。
「おに」
「私は兄にはならないと、言ったはずだが?」
「だ、だって、名前っ、ん」
他に呼びようがないと訴えても、口をふさがれて流される。
「ほら、舌を出したまえヨ」
恥ずかしさから男の着物を力強く握って俯くが、そんなことは許されない。
顎を掴まれて上を向かせられれば、顎を掴んでいる親指に力が入って口を開かれる。
「んっ、あっ」
「物欲しそうな顔だ」
「ちがっ」
「違わないだろ?」
また深まる口づけに、頭が溶けてしまったかのように何も考えられなくなっていく。
そうしていると、男の手が楓の太ももから腰をはい上がってくるように撫でてきた。
「やっ!」
「本当に初だネ、お前は」
ため息をついて手を離し、リップ音を上げながら口を離した。
「お、お兄ちゃん?」
怒ったのだろうかと不安になり見上げるが、暗くて何も見えない。
しかし、向こうは見えているのか、手探りとは思えないはっきりとした動きで頬を撫でてきた。
そして、また首筋に吐息を感じると、着物の合わせが少し開けさせられてゾワリと背中が粟立つ。
「お、お兄っ!」
肩を押しても今度はやめてくれずチリッとした痛みを感じた。
「約束のヒントだヨ」
胸から顔を上げるとそう言って楽しそうに声を揺らしてくる。
「ひ、ヒントって」
「なんだ、そのために来たんだろ?」
「そ、そうだけど!」
これではなんのヒントだかまったく分からない。
半泣きで抗議すれば、やれやれとため息をつきながら頬を撫でてくる。
「めぼしい者を見つけたら聞いてみればいい」
「?」
「この体のどこに所有印があるか、知っているのは私だけだヨ」
「そ、そんなこと聞けるわけないよ!!」
ブワッと顔を真っ赤にして、恥ずかしいのか怒っているのかポスポスと胸を叩いてくる。
それが面白いので少し眺めてから、考えた。
「なら、お前も同じ事をすればいい」
「?」
ほらと自ら胸元を開けて楓の頭を掴むと引き寄せる。
「えっ!?」
「早くしたまえヨ。私は気が短い」
「ちょっ、んー!!」
グリグリと押さえ付ければ、単に胸に顔を付けて唸ってくるばかり。
しかし、しばらくすると観念したのか、開き直ったのか、耳まで真っ赤にして口を寄せてきた。
「つ、つかない」
「下手だネ、お前は」
ほんのり赤くはなるが、後が残るほどはつかない。きっと朝になったら消えているだろう。
「まぁ、お前が私を見つけてそれを見せて来れば済む話しか」
「み、見つけても見せないよ!」
「なんのための印しだと思っているんだネ」
見せるから意味があるんだろうと耳元で囁けば、大袈裟なくらい肩を揺らせて驚く楓。
そっと耳を甘噛みしてその奥へ舌を捩込んだ。
「ん、っん!」
「なんだ、耳が弱いのか」
「や、ちがっ」
「口だけの反論など聞きたくないヨ」
ズッと口に指を入れて舌をいじりながら、耳を丹念にね舐めていく。
ピチャピチャと響く水音に、少し興奮してしまった。
だが、今は楓を抱く気はない。
耳から口を離して、小さな口の中から長い指を抜き取る。
「いい顔をするじゃないか」
蕩けたように見上げてくる口に一度だけキスをして笑った。
「続きがしたいなら、早く私を見つけることだネ」
腰が抜けている楓を抱えるように立ち上がって、倉庫を後にした。
この日、口に出して言わなかったが、実はもう一つヒントを出していた。
いつもは押さえている霊圧を、この日は押さえなかったのだ。
もしも、楓がそれに気がついたら、追って来れるだろうと思いした事だが、あの様子ではそれに気づいてすらいないだろうとため息をついた。
いつもの化粧をして、いつものかぶり物を身につける。
自分で言うのもなんだが、まるっきり別人だ。
楓がこの姿の自分に気がつくのは一体いつになることやらと、またため息がでてきた。