ブリーチ(夢)

□カエデ9
2ページ/2ページ



お兄ちゃんは意地悪だ。

探せっていうくせに、いつも霊圧を消して現れるから探しようがない。
ヒントを何もくれないのに、諦めさせてもくれない。

お兄ちゃんは意地悪だ。

「はぁ」
「どうしたんですか?」

「は、花太郎くんっ」

突然話し掛けられて驚いたのか、過剰な反応を見せる楓に話しかけた花太郎も驚いた。

「す、すみませんっ!」
「ご、ごめん!ちょっと考えごとしててっ」

「考え事?」
「う、うん」

花太郎たちには、あれからも時々お兄ちゃんに会っている事は言っていたので、すぐに感づいたようだ。
しかし、楓が浮かない顔をしているため、花太郎もなにかあったのかと眉を垂らしながら首を傾げる。

「その、なんで、何も教えてくれないのかな、って」

なのに探し出せなんて、無茶にも程がある。

「きっと、楓さんに見つけて欲しいんですよ」
「?」

お互いに書類を持って歩いてたのだが、その言葉で足を止めた。

「ほら、前に会ったとき、ずっと探してた事を伝えたって言ってたじゃないですか」
「うん」

「きっと嬉しかったんじゃないですかね?」

自分を追い掛けて来てくれたことが、百年近くも諦めずに探してくれていたことが。

「だから、ちゃんと見つけて欲しいんですよ!多分、ですけど」

最後に弱く付け足された言葉に、花太郎らしさが出ていて笑ってしまった。

「ありがとう」

もっと頑張って探してみるよと笑って見せれば、安心したように花太郎も笑顔を返してきた。



今日も、楓は昼休みを技術開発局の倉庫で過ごしている。
最近はそれが日課になって来ていた。

本に没頭していて気づかなかったが、影が出来て後ろに人が立っている事に気がつく。振り返れば、

「く、涅隊長!!」

慌てて立ち上がって向かい合うと、こちらをジッと見下ろしている目と目が合った。

「あ、え、えっと、あの!ここに入る事を許可していただいてありがとうございました!!」

ガバッと頭を下げれば、沈黙が落ちた。とてつもなく気まずい。
他になにを言ったらいいのか分からず、下を向いたまま押し黙っていると目の前に見えていた足が動いて近づいてきた事に気づく。

「?」

顔を上げると、そのまま壁に押さえ付けられる程力強く手を掴まれそして、

「?!」

口をふさがれた。それも口で。

訳が分からず呆然としてしまったが、すぐに我に返り手に力を入れて押し返す。

「やっ」

胸に広がる不快感。

お兄ちゃんじゃない人からのキス。
お兄ちゃんじゃない人からの抱擁。

嫌だという気持ちしかやって来ず、気がついたら平手打ちをしていた。
パンッという渇いた音が響いて、自分がなにをしてしまったのかという事に気づく。

「あ、す、すみません!!」

隊長に、なんて事をしてしまったんだと慌てたが、今は頭が混乱していてそれ所ではない。
いつの間にか流れていた涙を拭うこともせず、逃げるように走って倉庫を出た。

午後からの仕事は全く手につかず、やむなく残業をすることになるのだが、

「はぁ」

それでも、仕事が進むはずもない。

どうして涅隊長はあんなことしたんだろうという疑問と、好きでもない人とキスをしてしまったという事への嫌悪感。
頭の中がグルグルしていると、後ろでカタッという音がして勢いよく振り向いた。

「お前は、また残業をしているのかネ」
「、あ」

今一番会いたくて、会いたくなかった人がそこにいた。

「何を泣いている?」

勝手に流れてくる涙を止めようと袖で拭うが、止まる気配はない。強まるいっぽうだ。

触れて来ようと伸ばされた手に気づき、身を引いて避けた。

「・・・」
「ご、ごめっ、」

手を避けたことに関してか、はたまた別の事に対しての謝罪か。
泣き止まない楓にしゃがんで顔を近づけ、頭に手をおく。

「何を泣いている」

手を避けた事は怒っていないのか、優しい声でそう聞かれて、楓は泣きながら抱き着いて胸に顔を埋めた。

嗚咽混じりに一通り訳を話すと、楓の方も落ち着いてきたのかグズッと鼻を鳴らすだけで、もう涙は流れていなかった。

「お前は、そんなに十二番隊の隊長が嫌いなのかネ」
「き、嫌い、なんじゃっ、なくて」

好きな人ではないという事。

「ほう?」

それを聞いた男はニヤリと笑って顔を近づけてきた。

「なら、私がお前に同じ事をしたとき、なぜ泣かなかった」

うっと詰まって顔を赤くさせていけば、何も言わなくても伝わってしまう。
男は可笑しそうに笑うと口が触れるか触れないかという距離まで顔を近づけて、

「なぜだネ」
「そ、それ、は」

「それは?」

恥ずかしすぎて、それ以上目を開けていられなくなり、目を閉じると意を決して言葉を続ける。

「おっ、お兄ちゃん、が」
「・・・」

「す、好き、!」

フッと口に柔らかな感触がして離れたと思ったら、今度はさらに強く押し付けられた。

「ふ、んっ」

唇を割って入ってきた暖かいモノに驚いて体を離そうとするが、頭の後ろに手を回されている為それも出来ない。

「お、おにぃ、」
「私は、」

一度口を離して、目をしっかりと見ながら宣言される。

「お前の兄になるつもりなど毛頭ないヨ」

そう言ってまた深く口づけられていく。

長い舌が口の中で好き勝手暴れて、逃げていた小さな舌を絡めて吸い上げる。

「ん、んんっ」

鼻につくような甘い声が聞こえてきた。息が苦しいのか、弱い力で胸を押してくるが、その手を掴んで首に回させる。

「明日、」
「あ、んっ」

「仕事が終わったら倉庫においで」

口の端からこぼれていたどちらのものか分からない唾液を舐めながらそう言うと、今度は触れるだけのキスをして口を離す。

「ヒントをあげよう」
「ひん、と?」

見上げれば、金色の目が笑っていた。

「お前が私に告白なんぞしたんだからネ、褒美だヨ」

キスの余韻でトロンとしたまま見上げてくる楓が面白くて、首筋に顔を埋めると舌でなぞり、耳のふちをペロリと舐める。

「っ」
「このまま体で褒美をやってもいいが?」

「やっ」

小さな手で肩を押し返してくるのに逆らわず、その手を取ってチュッと音を立てながらキスをした。

「冗談だヨ」

クスリと笑えば、真っ赤になった顔で涙を溜めて見上げてくるのが面白い。

まるで誘っているかのようなその表情。

きっと、本人は無自覚なのだろう。

「そういう顔も、」
「、?」

「いや、教えがいがあるネ」

そんな顔をして男を見ればどうなるか、これからジックリとその空っぽな脳みそに刻み込んでやろうと考えながら立ち上がった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ