ブリーチ(夢)

□カエデ9
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「よし!始めよう!」

箒と雑巾を手にチャカチャカと動き回って倉庫の中を掃除する。
今日の内に掃除しておけば、明日の昼休みにはここで本が読める。
そう思うとなんら苦ではなかった。むしろ明日が楽しみ過ぎて鼻歌まで出てくる。


バケツの水が真っ黒になる頃、楓は額の汗を拭いながら周りを見回した。

「うん、これなら、明日から本が読めるかな」

チリ一つ無くなった倉庫内。時間もかなりたっていて、もうすぐ日付が変わろうとしていた。

「お前は、本当に変わった奴だネ」

後ろを振り向けば、

「お兄ちゃん!」

一週間前に会った時となに一つ変わっていないその人が立っていた。

「え、なんで、ここ」
「お前にここの事を教えたのは誰だ?」

「お、お兄ちゃん、だけど」

なら、別にいたって変なことはないだろと笑う男に、困惑した。

楓はずっと、戸を閉めて掃除していたのだ。ここの扉は、許可書を持っていないと開けられない。そして、今も扉は閉まっている。

「帰るヨ」
「え?」

「掃除はもういいんだろ?なら帰るヨ」

送っていくから早く支度しろと言われ慌ててバケツと箒を片付ける。
しかし、箒を持っていた手を止めた。

「何をしてる」
「、そのっ」

思い出されるのは一週間前の事。こうやって送ってもらって、そして、

「何を、考えてる?」

ビクッと肩を震わせたのは、扉の前に立っていたはずのその人がすぐ後ろまで来ていて、耳元で話してきたから。

「そう期待されると、答えなければならないネ」

後ろから抱きしめられるように顎を捕まれ、持ち上げられて口をふさがれる。

「んー!」
「色気のない」

驚いて悲鳴を上げたのだが、口がふさがっていたため声にはならなかった。
おまけに、離した途端ため息をついてそんな事を言われる。

「なっ、なんっ!」
「分かる言葉で話したまヨ」

逃げ腰で後退れば、腰にテーブルが当たってカクンとへたり込んでしまった。

「何をそんなに慌てている」

初めてではないだろと言われれば、さらに顔が赤くなった。
目の前にしゃがんできた男を、目に涙を溜めて見上げる。

「お、お兄ちゃんは、」
「・・・」

「なんで、そんなこと、するの?」

すると、頬に手が伸びてきて顔を近づけられる。

「目をつぶりたまえ」

いつも不意打ちだったからか、目を見開いたままだった楓にそう言って、なにか反論する前に口をふさぐ。

「お前が、」

見れば、金色の目が優しく細められていた。

「お前が私を見つけ出せたら、教えてやら無くもないネ」

ほうけたままでいれば、手を捕まれて無理矢理立たされる。

「帰るヨ」

この日、捕まれていた手は、いつの間にかお互いに繋いだ形になっていて、楓の家まで離される事はなかった。
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