ブリーチ(夢)
□カエデ6
1ページ/1ページ
風呂に入ってから研究室に忘れ物をしてしまった事に気がついた。
普段ならネムに取りに行かせるのだが、今日は自分が言い付けた別の仕事をしに行っていていない。
舌打ちをして死覇装に着替えて外に出る。
隊長という事を示す羽織りは着なかった。
面倒臭かったからだ。そこに意味はない。
忘れ物を取って暗い道を歩いていると、後ろからかけてきた人物に袖を引かれた。振り返れば涙を溜めた女が見上げてきいる。
意味がわからない。
おまけに抱き着かれた。
なんだこいつは。
さっきから何か言っているようだが、泣きながら話しているせいでよく聞き取れない。
「や、やっぱりっ」
「・・・」
「お兄ちゃんだっ」
その呼び掛けに、懐かしい記憶が蘇ってきた。
浦原に連れられて研究をしていたあの時。
まだ設立されたばかりだった技術開発局での、ほんのわずかな、しかし忘れる事はなかった記憶。
「・・・チビ?」
人の休憩時間にやって来ては周りをウロチョロと動き回り、人の本を勝手に覗いてこれは何だと質問してきていた、餓鬼。
顔を上げた女は、やはり涙を溜めた目で見上げてきて、嬉しそうに頷いた。
時間というものは不思議だと思う。あのチビ餓鬼を女にするとは、すごいものだ。
おまけに、今は八番隊の八席だというではないか。
驚くべき進化だ。
チラリと、その手の中にある本を見る。当時では考えられないような内容の本だった。
言葉の意味も分からず、その度に聞いてきたあのチビがと、少し感慨深いものがある。
「私、いっぱい本を読んだんだよ?」
そう言って、笑いながら見上げられた。幼さの残る、しかし子供とは思えない笑顔。
「そうだ、お兄ちゃんって何番隊っ」
「お前が、」
今、自分がどんな立場にいるか言ったら、こいつはどんな反応をするのだろうか。
驚いて、もう、話しかけては来なくなるかもしれない。
「お前が自分で私に気づくまで、」
教えてやらないヨ。
気がついたら、そんな事を言っていた。自分からこんなにも情が篭っている声が出るとは思いもしなかった。
しかし、またあいつが自分を探しに来るかも知れないと思うと、口元が緩んだ。