ブリーチ(夢)

□カエデ5
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ずっと憧れていた人がいる。
その人はいつも本を読んでいて、何か難しい記号のようなものをノートに書いていた。

話しかけても相手にしてくれないくせに、側にいる事は許してくれていて、難しい本に書いてあることを質問すればぶっきらぼうに教えてくれる。

名前を聞いても教えてくれないその人を、お兄ちゃんと呼んで慕っていた。


私の家は元下級貴族だった。
しかし、それも昔のこと。

今はその名残に、少しばかり大きい屋敷があるだけ。両親はもういない。私が霊術学院に入学する前に死んでしまったから。
悲しくて淋しかったけど、学院で出来たし友達がよくここに来て騒いでいたから、いつの間にか寂しさを忘れることが出来ていた。

それに、一人でいるということは趣味に没頭しても誰にも何も言われないということだ。

子供の頃、こっそり家を抜け出して遊びに行く場所はお兄ちゃんがいる場所。友達のいない私にとって、お兄ちゃんが唯一の話し相手だった。

『お兄ちゃん』
『また来たのか、お前はそんなに暇なのかネ』

ブツブツ文句を言いながらも追い返さない優しいお兄ちゃん。
たまに頭を撫でてくれたお兄ちゃん。大好きだった。私もお兄ちゃんみたく死神になりたかった。

そしたら、

「楓ちゃん?」

声をかけられて、ビクッと肩を震わせて振り返る。

「きょ、京楽隊長っ」
「どうしたの?ボーッとするなんて珍しいね」

「す、すみません!」

慌てて止まっていた筆を動かすが、京楽は笑って頭を撫でてきた。

「疲れたら、たまには休むんだよ?」

その大きな手は温かくて、

「はい」

昨日会った男を思い出させた。

青い髪に金色の目。子供の時から大好きだったお兄ちゃん。死神になったら、少しは大人として扱ってくれるかなと思っていたのだけれど、昨日の反応からいってそれは期待できないなとため息をついた。

「伊勢副隊長みたいに、」
「うん?」

かっこよくて、できる女性になれたらなと思う。
そうすれば、大人として扱ってくれるだろうか。

執務室に入ってきた七緒に顔を向けて呟いた。

「あんな風に、なりたいです」

「楓ちゃんは、七緒ちゃんに憧れてるもんねぇ」
「はい」

恥ずかしくなって下を向けば、また頭を撫でられた。

「楓ちゃんはこのままでも可愛いと思うけど?」

七緒ちゃんとはまた違う魅力があるよと言う京楽は、まるで娘でも見ているかのように優しい目で楓を見下ろす。

「ありがとう、ございます」

その言葉に頬を染めて、また顔を伏せた。

お兄ちゃんは、どんな人が好きなんだろう。

憧れて追い掛けていた子供の頃から、胸を占めているこの気持ち。

昨日会って核心してしまった恋心。
淡いなんて、そんなものじゃ無くなっていた。

「名前だけでも、教えて欲しかったな」

お兄ちゃんとしか呼べない自分が、少し寂しくなった。
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