ブリーチ(夢)

□カエデ5
1ページ/2ページ



楓は窓の外を見て、時計に目をやる。いつの間にか就業時間が過ぎていた。
そういえばと記憶をさかのぼらせる。
七緒があんまり遅くまで頑張らなくてもいいのだからと帰り際声をかけていったように思う。

それが結構前の記憶だと気づけば、そりゃこんなに暗くなるよなと納得してしまった。

今まで作っていた書類を机の傍らに寄せて、一度伸びをしてから立ち上がる。
引き出しから読み終えた本を取り出して脇に抱え、執務室を出た。

暗い道を一人で歩く。三日月だが、とても綺麗にでていたおかげで足元はハッキリと見えるし、何よに虫の声がよく聞こえてあまり恐怖を感じなかった。

そのまま進んでいくと、前を誰かが歩いているのに気がついた。

こんな遅くまで残っていたのかと、自分の事は棚に上げてその後ろ姿に目をこらす。


気がついたら足が動いていた。
早く動いて、前を歩いていたその人物の着物を掴む。

「あの!」
「・・・なにかネ」

青い髪の毛に金色の目。
そしてこの声。
嬉しくて嬉しくて、目に涙を溜めながら抱き着いてしまった。

「やっぱり!お兄ちゃんだっ」

抱き着いたことで動揺したのか、それとも勢いに負けたのか、男が踏ん張っているのが分かる。
しかし、今はそんなことよりも会えた事が、見つけられた事のほうが嬉しくて、その着物を掴むのが精一杯だった。

「おに、お兄ちゃんっ」

やっと会えたと言えば、今まで黙って抱き着かれていたその男が首を傾げながら声をかけてきた。

「・・・チビ?」

懐かしいその呼びかけに、以前だったら怒っていたのだが、今は嬉しさが先行してしまって頷くしか出来なかった。

「なぜここにいる?」
「だって、私死神になったんだもん!!」

泣き止んだ楓は、お兄ちゃんと呼ぶ青い髪をした男の隣を歩いていた。いつもより幼い笑顔を浮かべて見上げるその男は、知っている顔とは少し変わっていた。

「お兄ちゃんって何番隊なの?私ずっと探してたんだよ?」
「お前が探した所で、たかが知れているけれどネ」

どうせただの平隊員なんだろと馬鹿にしてくる男に、違うよと掴んでいる袖を引っ張った。

「八番隊の八席!」
「八席?お前が?」

「そうだよ!すごいでしょ!?」
「はっ、お前が八席とは、八番隊も人材不足か」

馬鹿にしてくる男に違うとかかっていくが、頭を抑えられたため手が届かない。

「何年たっても変わらないネ、お前は」
「変わったよ!背だって伸びたでしょ!?」

「餓鬼に変わりはないヨ」
「もう子供扱いしないで!」

その訴えに、薄く笑って楓の頭を一つ撫でて手を離す。

「まぁ、ある程度本は読めるようになったみたいだけどネ」

楓の手の中にある数冊の本。どれも難しそうなものばかりのその本に気づいてくれた事が嬉しくて、ニッコリ笑って男を見上げた。

「私、いっぱい本を読んだんだよ?」

お兄ちゃんに憧れて、死神になるためにいっぱい勉強して、ずっと探してたんだよと見上げれば、金色の目で見下ろされた。

「ずっと探しても見つからなかったから、こんな所で会えてすっごく嬉しい」

月明かりに照らされているその笑顔は、餓鬼とは決して思えない笑顔。

「そうだ、お兄ちゃんって何番隊っ」
「お前が、」

「?」
「お前が自分で私に気づくまで、」

教えてやらないヨ。そう言って頭を撫でられた。手が離れれば、そこは楓の家の前。男が行ってしまった方を見ても、もう誰もいなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ