ブリーチ(夢)

□カナ3
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最近、伊江村三席をよく見かける。どうしてだろうか。

「花太郎ー!」

四番隊の執務室、扉を勢いよくあけたのは十一番隊の華奈。
一度、その元気のいい声で作業していた手を止めたみんなだが、顔を出してきた華奈にいつもの事だとまた自分達の仕事に戻っていった。

「華奈さん」

名前を呼ばれた花太郎は、手に持っていた書類もそのまま、入口で手を挙げている華奈に近づいて行く。

「あいかわらず、仲良しですね。お二人とも」

荻堂が意味ありげにこちらを見ながら言ってきたが、聞こえない振りをして書類に筆を走らせた。

「花太郎って明日非番だろ?」
「え、はい。よく知ってますね」

「楓が言ってた!」
「あぁ、なるほど」

何に納得しているのか、笑いながら頷く花太郎に華奈の顔も綻んでいく。

「明日、なんか用事とかないんだったらさ、久しぶりにみんなで集まって飲まないかなと思って」

それを聞きにきたんだと子供のように笑う。

子供のような華奈から飲まないかという言葉が出たこと自体に驚いてしまいそうだが、見た目が幼いだけで華奈は別に子供ではない。

「わぁー、最近みなさんとゆっくり会ってなかったですから、嬉しいです!」

「じゃぁ花太郎は参加決定でいいか?」
「はい!」

楽しみですと頷くと「他のみんなにも聞いてくるな!」と手を振って来たとき同様元気よく出ていった。

「山田七席って、お酒飲まれるんですね」

出ていった華奈を見送り、先程よりも張り切った顔で机に向き合う花太郎に荻堂が近づいて声をかけた。
顔を上げた花太郎は、いつものように苦笑して「いや〜」と笑う。

「僕お酒は弱くて、ほとんど飲めないんですよ」
「イメージ通りです」

「そ、そうですか?」

少し驚きながら返して来るが、荻堂はそれを気にした様子もなく話しを続けた。

「飲めないのにそういう席にいても楽しくないんじゃないですか?」

花太郎と付き合いの長い華奈がそれを知らないとは考え難いが。
花太郎は「ははは」と笑って頭をかく。

「確かに、大勢でそういう所に連れていかれるのは苦手なんですけど、」

華奈たちのように気心知れた少数と飲むなら、例え酒が飲めなくてもいるだけで楽しい。

「あぁー、そういうのは、ちょっと分かるかもしれません」
「最近はみんなで集まるってあんまりなかったので、すごく久しぶりに感じます」

「そのメンバーって、学生の頃から仲が良いっていつも言っている方たちですか?」
「はい!」

学生の頃は飲まず、ただ集まって騒いでいただけだったのだが卒業してからは酒も飲むようになった。
「へー」と返しながら、荻堂はちょっと想像して緩く笑った。

「山田七席って、華奈七席のこと大好きですよね」
「えぇ?!」

声を上げて驚いた花太郎だが、それ以上に反応している人物がいた事には気づかない。

「だって、何だかんだでいつも華奈七席のこと最優先じゃないですか」

書類や仕事があっても、怪我をしたとやって来ればどんなに小さな怪我であっても治療に行ってしまう花太郎。
言えば、少し頬を染めて下を向く。

「その、大好きっていうか、大切な人ではありますね」

照れたように笑って荻堂を見上げ、

「僕、学生の時からずっと華奈さんに守られて来たから、」

でも、守られるだけの存在にはなりたくなかった。
何も出来ないと、情けないと、華奈に打ち明けた事がある。
だが、華奈はキョトンとして「どこがだよ」と言ってきた。

「華奈さんって昔からあんな感じで、変わらなくて」

無鉄砲だと思える程の行動力で突き進んで、その先にあった物を見せてくる。そして、自分が突き進む事が出来るのはみんなのおかげだと礼を言ってくる。

「多分、僕だけじゃなくて、他の皆さんも、同じこと思ってるんじゃないでしょうか」

大好きとかも思うけれど、それ以前に、どうしようもなく大切に思う。

「やっぱり、女性としてはみてないんだ」
「はい?」

「いえ、なんでもないです」

そう答えて机に向き直った。

荻堂は、伊江村が華奈を好きなのだと分かっている。見ていればそんなのすぐに分かる。

しかし、華奈と花太郎に関してはいま一つ確信が持てなかったのだ。
見ていれば仲のいいカップルにしか見えない。しかし、本人たちはそこに恋愛感情はないと言っている。
言っているだけで、自覚がないだけなのかとも思ったが、それもどうやら違うらしい。

さて、と考えるように顎をなでてチラリと伊江村を見る。
先程から花太郎との会話をかなり気にしているようだったが。

緩く口元を上げた。

見たところ、華奈が伊江村を嫌っている様子はない。しかし、確実に伊江村より花太郎の方が好きだろう。
そこに恋愛感情はなかったとしても、華奈の中でそういう順位のような物が出来ているように思う。

(どうやってからかおうかなぁ)

華奈と伊江村がくっつくにしてもくっつかないにしても、面白そうな事にかわりはない。

クスリと笑って書類に手を伸ばした。
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