ブリーチ(夢)
□カナ1
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華奈は走っていた。走って走って、剣八から逃げていた時よりももっと足を動かして、四番隊の執務室の扉を開ける。
「花太郎いますかぁ?」
いつものように笑って声を上げると、すぐに本人が駆けてきた。
「またすごい怪我してる?!」
「いやぁ!隊長に追い掛けられて、その後隊員たち全員のしてきたんだ!」
頭をかきながら笑う華奈に、花太郎はいつもとは違う真剣な顔をした後、そっと笑ってその手を握った。
「傷、見せて下さい」
詰所の裏、誰にも見つからない建物の影になっている所に華奈を座らせて、花太郎は傷を消毒していく。
お互い何も話さないでいれば、グズッと鼻をならして袖で涙を拭った。
「な、七席でも、まだっ」
「そんなことないですよ」
泣いている華奈を励ましながら花太郎は笑う。
「華奈さんが物凄い頑張って十一番隊で七席になったって、僕たちはみんな知ってますから」
「っ、うんっ」
ギュッと膝を抱えて、そこに顔を埋める華奈は小さく頷いた。
華奈は強い。けれど、とても繊細だ。
華奈の治療が終わって、二人で四番隊の執務室まで歩く。
「また弱音吐いちゃって、ごめんな」
「気にしないで下さい」
花太郎は笑って華奈に向き合い、
「華奈さんは頑張りすぎるんですから、たまには吐き出さないと潰れちゃいますよ」
その言葉に、照れたように笑って頷く。
「ありがとうな!」
そうしていれば、後ろから声をかけられた。
「山田七席、ここにいましたか」
「伊江村三席!」
「今日提出予定の書類がまだ出されていませんが」
「あ!すみません!机の上に置きっぱなしで!」
すぐに取ってきますと走り出した花太郎を見送り、華奈は伊江村を見上げて苦笑する。
「私がまた花た、あー、山田七席を連れ出しちゃって、すみません」
華奈をチラリと見て、伊江村は口を開く。
「どこか、怪我をしたんですか?」
「はい、あ!でももう大丈夫ですよ!治してもらいましたから!」
「・・・そうですか」
そして、赤くなっている目元を見た。
「華奈七席」
「はい?」
「、いえ」
泣いたのだろうか。
ボロボロになって、花太郎の所に来たのだろうかと思うと、苦しくなった。
「?」
「あまり、無理はなさらない方が良いですよ」
そう言うと、華奈は白い歯を見せ、
「山田七席にも同じ事言われました」
チクリと痛みが走る。
「心配していただいてありがとうございます!」
子供のように無邪気な笑顔を向けてくる。
その頭に、手を伸ばした。
「華奈七席は、女性です」
伊江村を見上げて首を傾げる。
「卯ノ花隊長も、虎徹副隊長も女性です」
伊江村は華奈の頭に置いた手を離して、メガネを上げる。
「雛森副隊長も、伊勢副隊長も、女性で上位席官におられる方は沢山います」
だからどうだという訳ではないのだ。ただ、言わずにはいられなかった。
「あまり無理はなさらず、」
ゆっくり、自分を痛め付けるようなやり方ではなく、どうしても上を目指したいと言うのなら、ゆっくり上を目指していけばいい。
その言葉に、華奈は目を見開いて伊江村を見上げた。
「あ、ありがとう、ござい、ます」
「いえ」
伊江村が顔を背けると、花太郎が書類を持って走ってやって来た。
「伊江村三席!遅くなりました!」
「提出時間には間に合っています。そんなに慌てなくてもよろしい」
「は、はい!」
行ってしまう伊江村の背中を見送ってから、華奈は十一番隊へ戻った。