3月のライオン(夢)
□隈倉20
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「“優”くんが女!?」
「まったくそうは見えませんけど」
「優くんは背が高いですからねぇ」
あかりが笑いながら水割りを作って渡せば、それを受け取りながらさっき見た優を思い出す。
「いや、本当に女か?お前らくらいデカかったろ」
「病院でも女って言われましたよ」
「前に貧血で倒れた時に」
俺たちもかなり驚きましたけどと、二人は苦笑しながら水割りを飲んだ。
「なんでママは気づいてたんだ?」
「だって、前に会長さんがいらした時、」
宗谷と隈倉を比べる事を言ったその時、優は顔を赤らめながらも隈倉がカッコいいと力強く言った事があったのだ。
「その時の顔を見たら、女性だって気づきますよ」
「アレで?!」
「あいつ、隈倉さんの話してる時いつもああだから気づかなかったぜ」
「優くんってかっこいいですからね」
クスクス笑うあかりに、スミスが口を開く。
「あかりさんは?いつからあいつが女だって気づいてたんですか?」
「私は、」
実は、優と知り合ったのは結構前なのだと笑顔で驚きの事実を知らせてきた。
「買い物をしてて、家に帰る途中でちょっと困っていたら」
優が声をかけて来たのだと言う。
「それで家まで送っていただいて、お茶を出していたらおじいちゃんが、」
「お父さん?」
「ええ。もう、私が男の人を連れて来たと思って怒りだしちゃって」
そして、慌てた本人から女だと知らされたのだと楽しそうに話す。
「それからは家のみんなと仲良くなって、よく顔出してくれたりお正月にホタテを送ってくれたり」
「あのホタテ優くんからだったの」
あかりが家庭の話をするのは珍しく、一砂は目を輝かせてそれを聞いていた。
スミスも、年明けには優の家で料理をごちそうになったなと言うのを聞いて、
「なんだ、隈の奴もういい嫁さん候補が居たのか」
年寄が余計な事しちまったなと酒を飲む会長に、一砂とスミスは苦笑した。
神宮寺がみんなに結婚しろと言っているのは知っているし、実際自分たちも彼女作れと言われるメンバーの中に入っている。
「にしても、ホタテだの鮭だの、優くんは北国出身か?」
「ええ、北海道って言っていましたよ」
「北海道で将棋好きか。俺らの世代じゃ、木重しか出てこねぇな」
「木重って、世代とか関係なく俺らでも知ってますよ」
将棋の盤、駒、駒箱、全てを一人で作る凄腕の職人。
「死ぬ寸前まで作ってたって言うからなぁ。今じゃ、残った作品は幻扱い。コレクターにかっさらわれて俺らでさえそうそう使わせてもらえねぇ」
愚痴る様にいう会長に、現役棋士の二人は苦笑するしかない。
会長でさえそうなら、自分たちには雲の上の話だ。
だが、あかりが笑顔で爆弾を投下してくれた。
「その職人さん、優くんのお爺さんですよ」
「「「「はあ!!?」」」」
棋士たちだけではなく美咲までもが声を出してあかりを見る。
見られているあかりは、みんなの顔が面白いのか終始笑っていた。
「お爺さんが駒を作っているのをずっと見てたから、棋士の先生を尊敬してるんですって」
何日も、何年もかけて作った駒。
それを使って戦う棋士。
子供の頃からずっと見つめていた世界。
「自分にはお爺さんのような才能は無かったって言っていましたけど、それでもモノを作るのは好きで」
だから雑貨を作る様になったって、家に来た時言ってましたとお代わりの水割りを作る。
「そういや、」
初めて会った時、自分たちのような下っ端棋士の事まで知っていたし、将棋界の事を夢の国だと言っていた事もある。
優の言葉を思い出して深くため息を吐くスミスと一砂。
「どっちが夢の国の住人だよ」
「お互い憧れの世界に住んでたんですね」
「ああー!優くん良いな!宗谷の嫁にしたくなってきた!!」
「やめてくださいよ!やっとまとまりそうになって来たんですから!」
「あいつがどんだけ隈倉さんの事好きだと思ってんですか!!」
宗谷と見合いさせようかと言いだす神宮寺を止める二人は本気で、そんな一砂とスミスを見てあかりと美咲が笑い出す。
「優くん、とっても素敵なお友達ができたんですね」
良かったわと言えば、一砂が頬を染めたのは言うまでもない。