3月のライオン(夢)

□隈倉18
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年が明け、家に戻ってくると優からメールが来た。
優もこちらに戻って来ているらしい。

『今月は仕事も落ち着いているので、開いている日があったらそちらに合わせられると思います』

その一文を読んで口元が緩んでしまった。

両親には、ホタテについてお礼を言っておいてくれと言われていた。
自分が話を聞いていないせいで優が実家に荷物を送る事になってしまったのだが、結果的に好感度を上げる事が出来たのでいい事にしておく。

カチカチとメールの返信を打つ。
来週なら空いていると打って、帰ってくる時に見つけた日本酒の事を思い出す。
まだ一度しか飲んだことが無いので好みがいまいち掴めていないが、外してはいないと思う。

メールを送ると、すぐに返事が返ってきた。

『お土産をお渡ししたいんですけど、量が多くなってしまったので一度隈倉さんのお宅へお伺いしてもよろしいでしょうか』

返って来た返事に携帯を持ったまま固まった。

しばらく優からのメールを眺めていろいろと考えてみたが、出てきた答えは一つだけ。
本当に量が多いから隈倉の手を煩わせない為にと言っているのだろう。

その答えに行きついて、目頭を押さえた。

「・・・はぁ」

これは本格的に男として見られていないなと、落胆で肩を落とす。
だが、こちらも渡すものがあるので来てくれるのはありがたい。
すぐにメールで返事を送り、少し寝ようと眼鏡を外した。




「、っ、」

今、優は大きな紙袋を手に固まっていた。

「そこまで固くなる事はないと思うが?」
「や、あの、ちょっと予想を大幅に超えてしまいましてっ!あのっ」

やって来た優は土産を渡してすぐに出かけるつもりでいたのだろう。
しかし、隈倉は優を引き留めて家に上げたのだ。
その結果、すすめられるまま座った場所で紙袋を抱えて真っ赤になっていた。

「ほ、ほんとは、ああの、お土産をお渡ししてそのままっ」
「せっかく来たんだ。ゆっくりして行ってくれ」

「そそそれは!しょ!そ!そのっ、将棋の邪魔に!」
「今日はゆっくりしているつもりだった」

「じゃ、じゃぁ私がお邪魔でs」
「邪魔ではない」

「・・・はい」

話している最中もずっと顔を真っ赤にさせている優を見て笑ってしまった。
隈倉の笑った顔を見て視線をさ迷わせ、下を向く。

優のこういう仕草を見る度、脈が無い訳ではないと思ってしまう。

「優」
「はいっ」

「俺も君に土産がある」
「へ?」

気の抜けた声を出した事に笑ってしまったが、すぐに立ち上がって隣の部屋へ向った。

「君が送ってくれたホタテは美味かった。両親にも礼を言われたよ」
「そ、それはよかったです!あそこで獲れた魚介類は私も好きなので、」

「ああ。送った人は誰なのかと聞かれたので、君の事を話したら、」
「へ!?」

「っく、」

さっきよりも大きな声で驚きを現してきたことに耐えられず、声を出して笑ってしまった。
みるみる内に首や耳まで赤くなっていく優の向に座って、一つの箱をテーブルへ置く。

「君が日本酒好きだと話したら、これが良いんじゃないかと勧められた」
「黒龍!?」

「君の好みがいまいち分からなかったが、大丈夫だっただろうか」
「大丈夫というか!こんな高価なもの受け取れませんよ!!」

「それは困る」
「え?!?」

慌てる優に笑って、正月の事を思い出す。

「君にこれを貰ってもらわないと俺の気が済まない」

実家に帰って、久しぶりに楽しかった。
落ち着くや安心などは毎年思えど、この歳になって楽しいと感じるのは早々ない事だ。

そう言って優に日本酒を渡すが、優は顔を赤くしたり青くしたりして受け取ろうとしてくれない。

「あああの、本当にこんな高価なもの受け取れません!ホタテがお口に合ったならもうそれで十分というか!私の持って来たお土産なんか珍しさだけで買ってきた物ばかりですし!」

「それは楽しみだ」
「そう言う事ではなくてですね!嬉しいですけど違くてですね!」

慌てている姿を眺めて落ち着くのを待っていれば、その視線に気が付いたのか真っ赤になった。

「その、本当に大したものが無くて、ですね」
「俺はそれが楽しみだが?」

「、」

赤くなって両手で顔を覆い、そのまま下を向き、

「隈倉さんがカッコよすぎて辛いです」
「・・・そんな事はないと思うが」

カッコいいと言いわれて嬉しい反面、簡単に言えるという事はそれこそ男として見られていないなと内心ため息を吐いた。


優からのお土産は焼酎だった。それもジャガイモ、牛乳、トウモロコシと、北海道ならではのモノを使って作られた焼酎。
そして大量のつまみ。

「なんかもう本当にすみません」

テーブルに並べられたボトルを見て、笑いをこらえるのが大変だった。

「いや、ありがとう」

飲んだ事が無い物ばかりで楽しみだと言えば、顔を赤くして下を向く。優が動けば見える首筋から目を背けて、壁に掛けてある時計に目をやった。

「これから出かけるのもいいが、このままここで夕飯を食べて行くか?」
「ええ!?いいいやあの!でででもっ」

「食事と言っても晩酌になりそうだがな」

これを飲んでみたいと、優が持って来た焼酎を手に言えば勢いよく立ち上がった。

「こんなもので黒龍を頂くのは本当に!私の心が潰れそうなのでもう体で返します!!」

その言葉に驚いて見れば、コートを脱ぎだしていた。

「あ、でも食材が必要ですよね。何か買ってきます!」

開けた前をもう一度閉じてそのまま玄関へ走り出す。
しかし、居間を出て行く前に一度こちらを振り返り、何か食べたい物はあるかと聞いて来た。

多分、何か言ったのだと思う。

優は笑顔を残して買い物へ行ってしまった。

「・・・はぁ」

これは自分を男として見ている見ていないの域を超えているような気がしてきた。

テーブルに肘をついて手で顔を覆う。

疲れたような・・・いや、疲れた。

少しの間そのまま、突然の事で出てきた邪心を抑えつけ、優が帰ってくる前に台所を整えておこうと立ち上がった。
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