3月のライオン(夢)
□隈倉16
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「ぐあああぁぁ!!」
『うるせーよ!』
「だって!だって!!」
『つーかそんな叫んで大丈夫なのか?貧血はどうした』
「もう治りました!でも悩みが増えました!!」
『みたいだな』
夜、適当に飯でも食って寝ようかとしている時優から電話がかかって来た。
退院した知らせかと思って出れば、隈倉さんが来て送ってくれたという驚きの事実と共に次回の食事について相談されている現在PM10:00。
「もう呼んじまえば?」
『いやいや!なんでコレクションとかそんな暴露を本人にしないといけないんですか!』
「隈倉さんが見たいって言ったんだろ?」
『そうですけど!恥ずかしすぎますよ!!』
電話の向こうで叫んでいる優の声を聞きながらため息を吐いてベッドによりかかる。
「優」
『はい!』
「お前の隈倉さんに向けてるそれ(感情)って、憧れだけか?」
前は男だと思っていたからそうだと決めつけていた。
しかし、女と分かった今もそうだと言い切れるかと聞かれれば、答えはノーだ。
『当たり前じゃないですか!』
「自覚なしか!」
優につられて声がでかくなり、眼鏡を外して目頭を押さえる。
「あのなー、聞いてる限り、つーかお前を見てる限り、もうLikeじゃなくてLoveだよ」
『なななな!なにを!!?』
動揺している優にため息を吐いて、やはりこいつは恋愛に免疫がなさ過ぎると肩を落とす。
「お前、次に隈倉さんに会ったら自分が女だって言えよ?」
『?』
「隈倉さんも、お前が男だと思ってっからそういう態度とってんだろーし。てか女ですって明かしてついでに告って来い」
『What!?』
「安心しろ!骨は拾ってやる!」
『ちょまっ!』
慌てている声を聞きながら、立ち上がってベッドに横になる。
一砂にも言える事だが、こんなに気の合う友達ができるのは結構珍しい。
その友人から恋愛の相談をされると言うのは、正直悪い気はしない。しかし、
「まぁ冗談はさておき、お前は隈倉さんとどうなりたいんだよ」
『ど、どうって』
「ぶっちゃけ、何も考えてなかったんだろ?」
『そりゃそうですよ!だって、ずっとファンで憧れてた人ですし!』
「知ってる」
『まさか食事に行くなんて想像もしてなくて、』
「うん」
頷いて、目を閉じる。
優の言っている事は素直な気持ちだろう。
喜びと戸惑いが混ざっていても、憧れだった隈倉と知り合いになれた事は幸福だと思っている。
「でも、今のお前はその憧れの人と知り合いで、一緒に食事に行く仲だ」
『・・・はい』
「それでもお前の心境的には、何も変わってないのか?」
『・・・』
少しの沈黙の後、小さな声でわかりませんと返ってきた。
『好きか嫌いかで言ったら、絶対好きで、嫌いにはならないって言いきれます。でも、』
「・・・焦んなくていいんじゃねぇの?」
さっきは女だと明かして告って来いと言ったが、本気じゃない。
優自身、隈倉に対する気持ちが分からないのにそんな事はさせられない。意味も分からないまま傷を作るような事はさせたくない。
「お前がどうしたいか決まってから行動に起こしても遅くねぇよ」
『、ありがとうございます。スミスさん』
「ん」
一砂にも退院した事を教えてやれよと言って、電話を切る。
切る前にまたお礼を言われた事に、にやけてしまう。
「はぁ、純な奴」
純粋で真っ直ぐで、子供みたいな事を言うくせにどこか大人びている優が可愛いと思う。
「Loveねぇ」
彼女欲しくなって来たと、あかりに熱を上げている一砂を見る時とは違う気持ちに笑ってしまう。
優の純情が移ったかと苦笑して目を閉じた。