3月のライオン(夢)

□隈倉15
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「いや〜、ご迷惑をおかけしました」
「ホントだよ」

「俺らが通りかかったからよかったようなもんだけどな」
「返す言葉もありません」

上半身を起こしている優を叱る二人。
というか呆れているのと安心したのが半々で、二人ともベッドの側に座ってくつろいでいた。

「おまけに理由が貧血ってお前」
「いやぁ、どおりで頭がクラクラして目がかすむ訳ですね」

「飯は食ってたんだろ?」

それでも貧血になる物なのかと聞いて来る一砂に、スミスが驚いて顔を上げた。しかし、

「それが、ここの所仕事が立て込んでまして、」

それで食事がおろそかになっていたのだと苦笑する。

「お前の仕事はどんだけハードなんだよ」
「ははは、今回はタイミングが悪かったですね」

「タイミング?」
「いや〜、せいr」

「くおらぁ!!」

スミスにベシッと頭を叩かれ、はははとまた笑い出す。

「お前ね!場所と言葉を選べ!」
「了解です、スーさん」

「誰がスーさんだ!」
「お静かに願います」

「「!!」」

自分たちよりたくましい看護師の登場に、スミスと一砂は肩を跳ねあげて優の後ろに隠れた。

「すみません。目が覚めたら友人が付いててくれて、はしゃいでしまいました」
「・・・お気持ちは分かりますが、他の患者さんの迷惑にならない程度でお願いします」

「はい」

ニコリと笑った優を見て、看護師は部屋を出て行く。

「ふ〜、優がいて助かったぜ」
「そのスマイルは万人に効果があるようだな」

「何者なんですか私は」

三人でバカみたいに笑って、二人は病院を後にした。

優が男だろうが女だろうが、この関係は変わらない。

それが純粋に嬉しかった。



「で?“優”くんは大丈夫だったのか?」
「ああ、ただの貧血だってよ」

「まったく。マジで焦ったわ」

会館で出前の蕎麦をみんなですすっている昼休み。
昨日居合わせた棋士たちがスミスと一砂に優の状況を聞いてきていた。

「今日には退院だってさ」
「よかったじゃねぇか」

「おう」
「で?可愛い看護婦さん居たか?」

「・・・夢は見るな」
「女は強い」

「「「は?」」」

下を向いて体を震わせる二人に首を傾げるみんなだった。
だから、その話を聞いている隈倉がいる事に誰も気づいていなかった。


対局の終わった会館で、隈倉は焦っていた。
携帯を使って優に電話を架けるがつながらない。
まだ病院にいるのならそれも当然だろうが、そんな理由でこの焦りは収まらなかった。

もう一度架けようとしていれば、画面にたった今架けたその人の名前が表示された。

『あ、こんばんは!すみません!せっかく連絡いただいたのに出られなくてっ』

その声を聞いて、頭に上っていた血が下がって行くのを感じる。
電話口にいる優には気づかれないようにため息を吐いて、額を覆う様に手を置いた。

「今はまだ、病院か?」
『えっ、な、なぜそれをっ!』

「控室で話しているのが聞こえてきた」
『わわわっ、ご、ご心配をおかけしました!?んですか?!すいません!ただの貧血なので私は元気です!』

「倒れて運ばれたと聞いたが?」
『でもっ、今日で退院ですし!これから手続きでっ、すぐ帰れますし!』

「君はどこの病院にいるんだ」
『えっと、』

電話の向こうから聞こえてくる言葉を聞き逃さないように集中して、会館の駐車場に止めていた車のエンジンをかける。

「これから迎えに行く」
『へ?!』

「待っててくれ」
『でででも!あの!私タクシーでっ』

「行く」

通話を終わらせ、車を発進させた。
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