3月のライオン(夢)
□隈倉13
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「優くーん、どうしたの?」
「うん」
「何かあった?」
「うん」
来たと思ったらいつもの席に座ってウイスキーにも手を付けず、うんと上の空の返事をするだけの優にみんなが首を傾げた。そして、
「隈倉さんと何かあった?」
「、ぅん」
リエの質問にやっと反応を示した。
それも、頬を染めるという反応にみんながハッと息を呑む。
「まさかっ、そんな!」
「いやー!優ちゃんはあたしのものなのにー!!」
「優くんを大人にするのは私って決めてたのにー!!」
「何を言ってんだお前らは」
「?」
はぁっとため息をつくマスターと、みんなが何を言っているのか分からず首を傾げている優。
「いつ!?いつそんな事になったの!!?」
「え?」
「優くんの初々しい姿を隈倉さんが見たなんてー!」
「・・・許せませんね」
「ね!、え?」
力強く頷いて声のした方を振り返る。
そこには、水の入ったグラスを握りつぶさん勢いで掴んでいるハナの姿が。
それを見てゴクッと喉を鳴らすみんな。しかし、
「いや、違うよ!?ただ今度一緒に食事しようって言われて、」
そんな事言われるなんて思ってなかったから夢みたいでと、頬を染めて下を向く姿はそれこそ初々しい。
「優くんはそうでなくっちゃー!!」
「大人になるのはゆっくりでいいのよ!!」
みんなに抱きつかれてもみくちゃにされている優だが、その顔はやはりどこか夢現。
というか、俯いている様にも見える。
「もっと喜んでいいんじゃねぇか?」
マスターが濡れたグラスを拭いてコースターを交換しながら優を見る。
「そう、なんですけどね・・・」
食事に誘われたのは正直嬉しい。
嬉しいのだが、
「なんか、もったいないって言うか」
「優くん謙遜し過ぎ!」
かおるが優に抱きついたまま言うが、マスターはまたため息を吐いて「違げぇよ」と離れる様に手で合図する。
「お前の事だから将棋の時間を取っちまったとか思ってんだろ?」
「、うん」
「隈倉さんがプロで何年打ってると思ってんだ」
そんくれぇのペース配分もできなくてA級なんかなれねぇよと、氷が解けて薄くなったウイスキーを交換しようと手を出すが、
「ありがとうございます」
その手を止めて、薄くなったウイスキーを一気に飲み干した、
「お代わりください!」
元気になった優に笑って、ウイスキーの準備を始める。
「マスターにいいとこ持ってかれたー!」
「今日はあんたの完敗よ」
リエがかおるに苦笑して言うが、
「みんなに聞いてもらってスッキリしたよ」
ありがとうと優に笑顔を向けられれば、かおる以外のみんなもいつでも聞くからとまた抱きついた。